今更、第三の主人公
ジルベール・アルザス伯爵令息とロザムンド・シャポー侯爵令嬢の入室です。
入り口で高らかに宣言されると、扉から中へ入るように促される。私の手を取るのはギルで、いつもはあっちこっちに跳ねている銀色の髪の毛も今日は綺麗に撫で付けてある。
ちなみにジルベール・アルザスって言うのは一応偽名らしい。適当と言うか、名前なんてそのまんまやんと思ったのは内緒だ。「アルザス」って言うのも、ロードバーク家の縁続きになる国外の親戚の名前を適当にもじったそうだ。
「ロスをエスコートさせていただくのに伯爵令息というのは心苦しいですが、実際の爵位では目立ってしまうので伯爵にしました」
「いえ、伯爵令息にエスコートいただくなんて、シャポー家からしたらとんでもない光栄ですよ」
「心配しないでくださいね、実際はもっとちゃんとした爵位をもらうなりしますからね」
「?何を心配するの?ギルはギルでいいじゃないの?むしろ迷惑かけちゃってごめんね。ーー今日の会、これはほとんど社交界と同じよね。社交界、出た事ないから想像だけど」
「私も出た事ないので・・・。まぁ適当にしておきましょう」
「そうね。一応、私とジルベール様は幼なじみってことで出席してるらしいから宜しく!亡き父様の顧客で外国の人って設定にしてるそうだから」
「了解です。ーーところで、ロスの今日のドレスはよく似合っていますね。グレーの布地に藍色と銀色の刺繍で、あなたの髪の色や雰囲気によく似合っています」
「ギルがくれたんでしょうに。まったく、自分のセンスの自画自賛ね。ギルの服も素敵よ。でもタイとカフスはあなたの髪の色に合わせて銀かグレーにすれば良かったのに」
黒に藍色だと少し地味すぎじゃない?
私の刺繍全面のドレスが少し派手すぎるのかもしれないけどーー中に入ってから周囲の視線がめっちゃ刺さってるような・・・。バランスの悪い2人だと思われてるのかな。
ーーいや、悪名高いあの『帽子屋風情が!』ってとこかな。それとも、今日はちゃんとした格好をしているギルをみてるのかな。
「藍色は私の一番好きな色なのでこれで良いんです」
と、ギルは小さく笑ってから更に続けた。
「ですが、困りましたね。今日のロスの格好は、あなたの容姿も相まってとても物静かな令嬢そのものにしか見えません」
「物静かな令嬢に見えた方がいいじゃないの。だって相手探しだし」
「ロスはもの静かに生きて行く事ができますか?本当の自分を分かってくれる人を見つけるんでしょう?」
あー、そうだった。猫被った私を気に入られても意味ないんだった。
「そっか、私の性格を知ってもらわなきゃいけないのよね。・・・とりあえずいつものようにするわね!」
「その方が良いですよ」
「伯母さまの望む相手は見つからなくても、上手く行けば女の子の友人が出来るかもしれないしね」
「ええ。たくさんお話した方が良いと思います」
私の意見にギルも同意してくれたから、よし、今日は色んな人と顔見知りになる事を目標にしよう!
うん、あ、あそこの方に人がいるみたい。
「ギルーーじゃない、ジルベール様もう少し中央にいってみましょう」
私が1人で先に足を進めると、ギルも少し遅れて歩き出した。
「ーーそれに、これほど繊細な佇まいで黙って立っていては虫がよってくるでしょうし・・・」
「ん?ジルベール様なにかおっしゃいました?」
「いいえ、ロザムンド嬢、何も」
なんてやり取りをして、私たちは何気なく二手に分かれた。
だって幼なじみで一緒に来た、って体なのにずっと一緒にいるのも変だしね。ギルも他に知り合いが来ていたようで、そちらと話をしたりしていたようだ。
ジルベールって名前なのは誰も指摘しないのか?ってのは少し気になるけど・・・もしや前から同じ偽名で参加してるのかな?だとしたらジルベールの友人が居てもおかしくないな。
うん、この件は帰ってから聞いてみよう。
とはいえ、誰も私に話しかけてくれないのはいかんともしがたい。
よし、久々に会社員だった時、『新年会パーティーでの名刺交換』を思い出そう!お、あの辺のグループとかよさげじゃない?
3人組でいる同世代っぽい、ふんわり女の子のグループにそっと近寄り、目が合うように視線を送ってみる。
できれば私も話せる話題があればいいなぁ。無粋だけどちょっと聞き耳。
「ーーですわよね」
「ええ、有り得ませんわ!あんな方がいらっしゃるパーティーでしたら来なければ良かった」
「フォルトン伯爵家も格が落ちた物ですね」
おお・・・全然ふんわりじゃない。
どうしよう、『あんな方』って私じゃないかな。シャポーの陰気娘が来たって怒ってるのかしら。
って、やばい目が合っちゃった。
3人のうちの1人、『格が落ちた』と言っていた子は私と目が合うと、途端にニコッと微笑み私にお辞儀をし始めた。そして何も言ってこないーーという事は侯爵家よりも下の爵位の家なのだろう。
「初めまして、ロザムンド・シャポーです。お話をお邪魔してしまい失礼しました」
「いえいえ、とんでもございません。私はグレイ・ネーブルと申します。ーーもう覚えていらっしゃらないかと存じますが、幼い頃に一度ロザムンド様とはお話をさせていただいたんです」
幼い頃?グレイ??
・・・あー!思い出した。ギルと初めて会ったときの!
「今日はキャサリン嬢はいらっしゃらないのですか?」
「キャサリン様は既にご婚約され、先方の国へ行ってしまわれましたの」
とネーブルが言うと、他の2人も話し始めた。
「ネーブル様、私達もご紹介に預かりたいのですが」
「ええ、こちらの2人は私の友人で、私同様子爵家の方です」
「マーガレット・ポートと申します」
「ベアトリス・パイソンモッドです」
は、初めまして。この子達もさっきと雰囲気がまるで違う。さすがは貴族、切り替えるべきところは素早い。
どうやら『あんな方』は私のことではないみたい。
「ロザムンド様、ご一緒に来られた方、素敵ですわね」
「本当に!あんなに素敵な方と幼なじみなんて羨ましい」
ほう、客観的なギルの評価を初めて聞いた。やっぱり顔は整ってるよね〜。
私の最推しだったもの。
あなた達とは好みが似ているから、仲良く出来るかしらーー。
「あ!!」
唐突にベアトリスが叫び、驚いてしまった。
「どうなさったんですか?」
「し、失礼しました。ロザムンド様がいらっしゃるのに」
「いえいえ、気になさらないで。何かあったのですか?」
「あの方、今度はロザムンド様の幼なじみの方に!ロザムンド様、よろしいのですか?」
と、視線で教えられた先にはギルとそれに近寄って行く栗色の髪の女の子がいた。
なんかあの子も見覚えがある。
見覚えっていうか、良く知ってる。考える必要もない。
あの子は、ジュエルパレスの登場人物、それもメインヒロインだから!




