押しに弱い私
「素晴らしかったわ!素晴らしすぎたわ!お姉様に勝るとも劣らなかったわ、もっう、さいっこう!!」
満面の笑みと盛大な拍手をしながら、伯母さまは私を強く抱きしめた。
逃げたかったのに結局、伯母さまに楽器を披露する事になり、無事に弾き終えた。だって、逃げ続けてると何も出来ないから。
「伯母さま、私の演奏は及第点ですか?」
「及第点どころか!予想以上、いえ予想の遥か上よぉぉ!!これなら全く問題ないわ。顔だけなんて言わせなくってよ!」
んんん?顔だけとな?
私、そんな風に言われてんの!?ーー前世を思えば『顔だけ』でも良いと言ってもらえるのは良いけども、なんだ腑に落ちないな。一応侯爵令嬢だし、自分で商売もやってるのに、まだそんな事言われんの?
「・・・そうですか。良かった」
まぁ伯母さまの気が済んだのなら良い。
これでーー
「なら、しばらくやりたい事をやっても良いですか?」
もう何でも良い。目的だったことを告げよう。
回避の為に動きたい・・・んだけど、伯母さまの顔が真顔になった。キツネ顔美人の真顔、こわっ!なんか背筋が冷たく感じる。
「いいわよ〜って言いたいんだけどね〜。だめ♡」
「へぇ!?」
「だって、自由にさせるとロザムンドはまた変な事をしちゃうでしょう?王妃様から、『殿下のどちらかと婚約しないか?今は候補でも良いから』とも言われてるけど・・・」
なんだそれ?!聞いてないぞ。
やだやだやだ!殿下どちらかってことは、ロバートかギルって事だろうけど、2人とも嫌いじゃないけど思いっきりシナリオに近づくじゃん。
私は幽閉される人生なんか望んじゃいない。
なんて返せば良いんだろ?ああ、伯母さまが私が言葉がでないのに気がついてなんか続けて言おうとしてる。
「けど、それはあなたの望む事じゃないって言うのは分かってるの。昔から王家に行くのは嫌って言ってたし、ジェーンからも聞いたわ。ーーでもシャポー家を継ぐ為には誰かと結婚しなきゃならないでしょう?だから、2人以外で探すしかないでしょう」
なんと!
ジェーン先生、そんな事を伯母さまに伝えてくれていたんですね!ありがとうございます。
・・・でもそんな第三者と結婚するのも嫌だ。
「結婚しないってのはーーーないんでしょうか」
意を決して言えば、伯母さまは困ったのか呆れたのか分からないけれど眉毛を八の字に垂らした。
「ありえない。有り得ない事なのよ。それは」
「ありえない・・・」
なら、ジェーン先生は?と思ったが口に出来ない。
「だから、あなたのそんなところを許してくれるような人を見つけましょうよ!社交界まではまだ出なくて良いから、お茶会やパーティにでましょう!」
この提案に『やだ!』ーーっていえないのかなぁ。
ダメだろうな。ある意味、伯母さまは物凄い譲歩してくれてるんだろう。だって、上手けば王家と縁続きになるなんて、シャポー家の復興にこれ以上のことはない。とはいえ、私はそれを了承できない。
んーなんて断れば良いのかな〜?私の少ない脳細胞よシナプスと繋がれ。
「だめですよ、グーピュル夫人」
ん?私、声にだしたっけ?
いやこれ私の声じゃないし、後ろから聞こえたな。というかこの声は
ギルの声だよね。顔見てないけど間違えるはずがない。
「ギル、いらっしゃい」
「お邪魔します。ーーグーピュル夫人、ロザムンド本人が嫌がっているんですから無理強いしては」
「あら、ギルバート殿下。ごきげんよう。今日もお一人ですか?」
「大所帯ではロスが困りますからね。話をそらさないで下さい。いくら伯母上とあっても、本人が嫌がる事を無理に押し付けてはいけませんよ」
「無理になんてそんな事ないですわ♡ロザムンドも分かっている事ですし、シャポー家として、侯爵家としてこれはしなくてはならない義務なんですの。貴族令嬢として生まれたからには避けては通れない義務なのです」
義務なのかぁ。まぁ、話に聞く限り伯母さまも、お母様も本人の希望はあまりなく家の存続の為に結婚した感じだしなぁ。伯母さまと伯父さまは仲良しだけど、そこに至るまでの経緯は知らないし。
恋愛結婚ではなさそう。
「義務なんですね・・・」
権利と義務はある意味一体だしな。
とはいえ、私ーー『帽子屋:シャポー家』で『貧乏』、おまけに色々やらかしてる私と結婚したいヤツなんて居るのか?
私ならそんなめんどくさそうなヤツごめん被るけど。
「ギルありがとう。伯母さま、少し考えさせて下さい」
ちらりとギルの顔をみると、驚いたような顔をしている。
どういう意味の表情だろう?
わからない・・・から後で聞こう。とりあえず伯母さまとの話を終わらせきゃ。
「伯母さまのお気遣いはよく分かりました。・・・でも急すぎてびっくりしてしまって・・・。少しお時間をください」
伯母さまは、小さくため息をつきながらも、なんとか私の言葉を受け入れてくれた。
伯母さまが居なくなった後、私とギルは2人でソファーに座った。
アンナが持って来てくれたお茶を飲みながら、居たたまれない空気が辺りに満ちている。私はそれに気がつかないフリをした。
「ギル、さっきはありがとう。嫌って言いたかったけど伯母さまの気持ちも分かってしまってどうも声にならなかったの」
「空気を読むのも大事ですが、先ほどのような状況ではちゃんと言わなきゃだめですよ。雰囲気に流されて人生の重要な事が決まってしまうなんてロスは望まないでしょう」
「そうねーーでも、伯母さまはシャポー家、ひいては私のことを考えて下さっているから。私の血縁は伯母さましか居ないし」
「・・・そうですか」
そういえば、ギルはどこから聞いてたんだろう。
伯母さま、さっきの会話で『私が王家と縁続きになりたくない』って言ってたよね。これをきかれてたら少しマズい気がする。
ギルがそんなつもりなければ私は自意識過剰じゃないか。
「ギルはどこから聞いてたの?」
私の言葉にギルが言いにくそうに顔を背けるので、嫌でも緊張して体が強ばってしまう。
どうか、来てすぐに声をかけてくれたと言って。
「ーーロスが『結婚したくない』といったところからですよ」
えーーっと、たしか王家云々の後だよね。
良かった〜〜〜!!ありがとう、タイミングの神よ!
それならまだピーターパンシンドロームよろしく、大人になりたくなーい♪みたいなもんよね。
「恥ずかしいところを聞かれてしまったのね」
「そんなことはないですよ。いろいろ家の為に頑張って来たロスなんですから、そんな結婚だけで家を保てると言われても納得出来る訳がないでしょうし」
「そうなのよね・・・。でも伯母さまも私のためと思って言ってくれていると思うと・・・ね。シャポー家の悪名をなくす為にも社交はするべきだと思うのよ」
というと、ギルも頷いた。
シャポーの名前はまだ侯爵家としてよろしくないのだ。
そのこともあるから、伯母さまは私を社交場に出そうとしてると思う。
「でしたら、パーティーに行く際には私がエスコートさせていただきますね」
・・・なんと。
まて、殿下にエスコートされるとか、それほぼ婚約者じゃないか?
「ギル、さすがにそれはダメよ。あなたにそんな負担はかけられないし、非常識すぎる」
「ロスが非常識なのは今更でしょう。それに、婚約者が居ない人は親兄弟がエスコートするのが普通ですが、ロスにはそう言った人がいないでしょう?身分で差別する気はないですが、グーピュル氏貴族ではないので出席が難しいですし、エスコートが居ない方が、変なのが寄ってきますから。私は表に全く出ていないので、名前さえ出さなければばれませんし。ーーね?」
最後の威圧的な『ね?』の押しに負けた私は、頷くしかなかった。
どうか、どうか私がギルを説得するまで伯母さまが動きだしませんように!




