おっと予想外に多いぞ
ロバートに教えてもらってから1年が過ぎた。楽器の練習なんて経験がないから1年は短いのか長いのかわからない。でも私としては長かった。
気がつけば13歳も終わりになるのだ。
この世界では貴族の女性は14歳くらいで社交というか、まぁ、お嫁入りするための顔出しを始める人が出始めるそうだ。伯母さまが令嬢的な事をさせたのも、きっとそういう慣習が背景にあるんだろう。
こんな付け焼き刃で何の意味があるかわからないけど、ロバートのお陰かなんとか最初から最後まで通して弾けるようになった。
とはいっても、細かい動きは出来てないし、リズム感もないし、何より音程があってるのかも実はよく分かってないよ。とりあえず、曲になってる・・・とは思うから、まずは家の誰かに試しに聴いてもらって反応を見たい。
「メアリ、今、時間ある?」
「はい、もちろんございます」
「今からバイオリンを弾くから感想を教えてくれない?おばさまに聴いてもらえるレベルなのか分からなくて」
「わかりました。でも私一人では荷が重い任務ですね。アンナさんを呼んできましょう」
そう言って部屋から出て行ったメアリが数分後、家人全員とおまけに新しい漢方レシピをリリーに相談しに来ていたメイスンさんまで連れて戻って来た。
メアリ1人に聴いてもらう心構えしかしてなかったのに、これは多すぎる。
うぬぬ。
まずは小規模でと思ったが、これじゃシャポー家発表会だ。
「皆、仕事は・・・?」
「ちょっと休憩っすよ。そんな何時間もかかる曲なんすか?」
「5分くらいかな」
「じゃああとで5分多めに仕事するんで!」
トムにそう言われると、帰れとは言えないじゃない。
むしろシャポー家の皆はいつも働き通しだしなぁ。館の大きさと人数が全く合っていないのよね。
他のメンバーも心なしかワクワクしてるように見えるし、ベンも譜面台作ってくれたりしたし、そりゃ聴きたいよね・・・。
でも元々はノコギリだったのがどれだけマシになっているのか自分じゃ分からないから、実はロバートもお世辞を言っているだけでまだとんでもない騒音だったらそれも恥ずかしいし。
「むぅ、仕方ない。皆、酷い演奏でも笑わないでね。聴くに堪えないと思ったら、黙って部屋を立ち去る!と約束したら弾きます」
弓で前に居る面々に指し示してそう言うと、全員が了承したので、気を取り直して楽器を構えた。
・・・静かすぎて、緊張するっ!
あ、いま、音ちょっと外れた気がする・・・って、拍が拍がズレてる!絶対ドンドン早くなってってるぅ。
次、次のところ何だっけ?
おおおお?
あっれぇーーー??
と・・・りあえず最後の音まで来た、これで終わりだ!
い、よっしゃーーー!弾ききったぜ☆
よしお辞儀をしておこう。ん?なんか凄い拍手されてるって、メイスンさん泣いてる?!
「すっ素晴らしかったです!ロザムンド様はこんなに楽器がお上手なのですね!!」
感涙しすぎてキャラ変わってますよ、メイスンさん。
「「本当に、奥様に負けない程の腕前でした!」」
「あ、ありがとうスチュワード、アンナ」
「楽器をちゃんと聴くなんて初めてでしたけど〜、とっても感動するものなんですね〜」
「お嬢様って本当に令嬢だったんすね」
「ピアノの方も頑張って直すので、是非弾いてみて欲しいです」
賞賛されすぎてて、むしろ不安になる。
メアリなら前にも聴いてたしもう少し冷静かなーーって、すごい驚いた表情してる。口開きっぱなしよ!メアリ、閉じて閉じて!!
「いやー、ロバート様の指導力が凄いのか、ロザムンドが実は音楽の才能に満ちていたのか、どっちなんだろうね!」
「前者ですね。だってこの曲以外弾けませんもん」
「もったいないから続ければいいじゃない。多分すごい才能を持ってるよ!」
「こんなに神経を使う事をやり続けてたら、幽閉される前に衰弱死しちゃいます」
ジェーン先生の提案は却下である。
伯母さまに聴かせたらもうやらないだろう。なにせこの一年、これしか出来なかったくらいだし、残り2年くらいでゲームのストーリーが始まる年になるのだ。
そろそろ本格的に対策を考えなきゃ。
そう、バタバタしていて何も出来ていなかったけど、もう準備出来る期間は少ない。
後宮制度はないこのロードバーグで、しかもマリーが既にアルバートの婚約者となっている今時点で、随分ゲームとは流れが変わっている。
希望的観測で舞台だけ『ジュエルパレス』なのかな、と暢気にしたいけどそれで15歳になったら何かが起こってひとりぼっちになって「はい、王宮で寵愛を争いなさい」なんて言われたら、設定通りに死んだようになっちゃう。ーーアルバートもロバートも知り合いだし、ギルもいるからゲームの通りになるとは到底思えない。だけど楽観しすぎて準備もしないで、ゲームの状況になったら絶対後悔するから。
「ーーンド、ロザムンドったら!」
「はっ!ジェーン先生!」
「大丈夫かな?また妙な方向へ暴走しそうにみえるけど」
「いいえ、私はモーリー夫人の時に学んだんです。1人でやっても碌な事にならないと」
「そりゃいいね!あのばあさんも役に立つことがあるんだね。さて、気を取り直して、今日聴いた状態ならアリアーデも喜ぶと思うけど、どうする?」
「どうするって?伯母さまに聴かせて、それから自分のやりたい事を始めたいですが・・・」
「常識で考えると、アリアーデにこの腕前を聴かせると、すぐに社交デビューを整えると思うんだよね」
14歳頃って聞いてたし、ゲームの設定じゃ15〜6歳だったから、まだ時間があると思ってだけど・・・
「早すぎません!?」




