ホットドッグって言うのはね
「ねぇ、噂のあの店に行ってみない?」
「あの店って、あの?」
「そうそう。この間グレイ嬢が行ったそうなんですけど……」
裕福な身なりの女性が3人、買い物が一段落着いたところでそんな話を始めた。
「犬を、って噂の?」
「犬だけじゃないらしいの」
「猫やウサギやキツネもよ」
「グレイ嬢はひよこがお気に入りって」
「ひよこなんて食べられないわ〜」
すれ違う紳士はその言葉に驚き、振り返った。
「バートン君、若い女性達は意外にも血気盛んなようだね」
彼女達の後ろ姿を見ながら、紳士は感想を漏らした。するとバートンは吹き出した。
「アズウェル卿が何を考えているのか分かりますが、違いますよ。」
くっくと失笑をしながらバートンは妹から聞いた話をし出すのだった。
「いらっしゃいませ」
3人の令嬢にトムは深々とお辞儀をした。
「大変申し訳ございませんが、当面はお持ち帰りのみになりますがよろしいでしょうか」
申し訳なさそうに眉を垂らすトムに、3人はポッと頬を赤くして囀りを止めると、後ろに控えていた従者が声を出した。
「問題ございません。当家のお嬢様方が外で召し上がるのは私どもとしてもあまり喜ばしくないので」
「さようでございますか。ではこちらへどうぞ」
トムはそう言うと、天蓋のようにカーテンで覆われた形と変わった屋台へ3人を案内すると、最後にこう伝えた。
「お嬢様方、こちらでご購入いただく物についてはご自宅でお召し上がりくださいね」
従者ともどもカーテンの内側へ入って行くのを見届けると、押さえていたカーテンの端をふわりと落とした。
それから、トムは自分の腰に下げていた懐中時計を眺めた。
「きゃあーー」
中から聞こえる3人の声を聞いて「今回の子達は反応がいいな」などと思うのと同時に狼狽えているだろうベンを想像する。
きっと焦りながらも頑張って説明しているだろう。
その想像通り、3人の令嬢がきゃあ〜だのまぁ〜だの声を上げている前で、ベンはタイミングをずらさないように四苦八苦していた。
「で、では次はこちらとなるーーなります」
トレイに乗せた物をショーケースの上に乗せた。
「まぁぁ!こちらの青い鳥も可愛らしいわ!これもパンなの?」
しげしげと眺めていた1人の質問に答える。
「いえ、こちらは『餡子』という豆から作ったデザートになります」
「デザートなのね!ああ、でもやっぱりこちらの『ほっとどっぐ』も食べてみたい」
「なら皆で少しずつウチで召し上がりましょうよ。私はこちらのウサギも気になっていますの」
「ウサギ型もかわいいですね」
「こちらの『ホットドッグ』は形が異なっても味は同じですので、皆様お一つずつお買いになってデザートをいくつか買うーーいえ買っていただくのも、良いのでは?」
決めかねている令嬢方はベンの提案に顔を縦に振った。
盛り上がる主達をよそに先ほどとは別の従者が声を出した。
「店主、念のため確認だがこちらは噂に合ったようなーーあの肉を使っているのか」
暗に『犬の肉を使っているのか』を確認され、ベンは滑らかに返す。
「いえいえ、動物の形を模しているので、妙な噂を出されたのです。肉はただの豚の腸詰めですよ。ただ、ひとつ可笑しいんですよね、始めはまだ何の形も模していなくて細長い形が『ダックスフンド』に似ているのでドッグとしていて、ウチの主が『それなら動物とか花にしたらいいんじゃない?』とアイデアを下さったのです。それで試作品を作っている途中であんな噂が・・・」
とここまで話たところで少し声を小さくした。
「恐らく、モーリー商会のスパイがいて試作品を見たんだと俺は思ってるんです」
「当家のご主人様も商いをやっているので苦労がわかります。にしてもスパイを使ってアイデアを盗むなんて同じ商人として許せませんね」
結局決めかねた3人は、ホットドッグをいくつかと和菓子を両手に抱える程買って帰って行った。
「ありがとうございました」
挨拶を言うとトムはカーテンの中に入って行きベンに声をかけた。
「すごい買ってなかった?」
「ほとんど売り切れになったな」
「最初ギル王子に聞いた時には『そんな言い訳通るのか?』って思ったけど、やっぱり女の人は可愛い物が好きなんだねぇーーウチのお嬢様の可愛いはすこしズレてっけど」
◆◆◆◆◆◆
話を少し巻き戻すと、ギルが言い出した案の一つはこうだった。
「本当に『温かい犬』を売りましょう」
その台詞に全員が反対した。
「犬の肉を売るなんて」
私もそう言って反対した。
「犬の肉とは言っていません。犬の形を模した食べ物を売るんです」
「あ、なるほど。それなら名前の由来にもなるってことだね」
ギルの案を最初に理解したのはロバートだった。
「です。それを『誰かが勘違いした』と言ってしまえば良いのです」
「でも今更そんな事をしても・・・」
意味ないんじゃない?既に普通のホットドッグとして販売はしていたし、それを食べた人は沢山いるけど。
「問題なくってよ、ロザムンド。こんな物は言った者勝ちでしょう?なんなら他の案が出来るまでは試作品で形をシンプルにしていたって言っても良いのよ」
「グーピュル商会には口裏を合わせてもらえば良いだけだし」
「他のパターンですか〜。なら動物で餡子のお菓子やカステラを作っても良さそうですね〜」
「ウサギや鳥とかかな?」
と皆の意見を聞き、私はその辺にあった紙に絵を描いてみた。
「こんな感じ?結構可愛く描けたと思うの!」
適当に描いたわりには自信作となった気がしたので自分の胸の前に掲げて皆に見せた。
「「「・・・・」」」
無言?なんか言ってよ。
マリーと目があーーったと思ったのに反らされた。
お、ロバートがなんか言うぞ。
「ローザ、それは何?」
「なにって、ウサギですよ」
「ウサギは足そんなにないよ?6本あるじゃないか」
「ちゃんと4本ですよ!こっちのは耳です!」
描いた物を指差ししながら説明しても皆には伝わらなかった。
何故だ。
私の説明聞き飽きたのか、マリーが別の紙を取るとこう言った。
「ロザムンド、デザインはマリーがやってさしあげますわ」




