早朝訪問ではお怒りになる?
私はいつもメアリに声をかけられるまで寝ている。起こしてもらうのは7時頃、メアリはそれより1時間ほど前には私の部屋で顔を洗う水だとか着る洋服だとか、朝食用のテーブルの準備だとかをしている。
今日はこの世界に来て初めて、メアリに起こしてもらう前に目を覚まして着替えをしていた。
そして、メアリを待った。
「お、お嬢様?!…おはようございます。今朝ははやいですね」
予想していなかった状況に、メアリは全身で驚きを表していた。
「まさか…昨日の件をこんな早朝からやるおつもりですか?」
「そっちも大事だけど、こっちも大事なの。メアリ少し耳を貸して」
メアリにそっと耳打ちをすると、もう一度メアリは驚愕の表情をしてみせた。
「アンナとベンかトムはもう起きてるかしら」
「ベンは起きてます。呼んできますね……って、多分アンナさんに言ったら止められますよ」
「どうかしら?今までのお返しってことで許してくれるんじゃない?」
ニヤッと笑うとメアリも何かを思い出したのか、悪そうな顔をしていた。
「確かに、あの時は本当に困りましたものね。それならアンナさんには『約束していた』と言っておきます」
「ありがとう」
若干、いや大分困惑したベンに無理矢理馬車を出させて、私は目的地へ向かって行った。
正門で引き止められる事も考えていたが、馬車を見るなり衛兵達は「あ、どうぞどうぞ。お久しぶりですね」とかなんとか言うだけで、すぐに門を開いていた。
大丈夫か、ここ。
警備がザル過ぎるんじゃ。でも、それくらい私がここに来るのがおかしな事ではないということなのか。
そんな事を考えながら、目的地へと進んで行く。
途中途中ですれ違う侍女達から会釈をされながら、誰も私の事を不審がりはしなかった。
勝手知ったるなんとやら、だわ。
ゲームではこの辺はマップになかったから、この世界に来て初めて知った道。
だけど、何度も来たから目を閉じてても行ける自信がある。
扉を開く事はせずに、私はその前にしゃがみ込んだ。
「こんなことして、いなかったら笑えるな」
俯いて小さく独り言を言うと、部屋の中からゴンっという音が聞こえた。
驚いて顔を上げると、バタバタとした慌ただしい足音が近づいて来て、大きな音を立てて扉が開いた。
「……ロス?」
「おはよう、ギル」
最近の彼には珍しい、支度もろくに出来ていないくちゃくちゃの髪にあまり元気そうでない顔つきだ。
「久しぶりーーでもないかな」
「そんな事より、何故そんなところにしゃがんでいるんですか!ロスが使っていた部屋はそのままにしてありますし、客間でもサロンの部屋でも、控えの間だってロスなら入れるでしょう?!マシューは何をしてたんでしょう」
「マシューさんにはここで待つってワガママをお願いしたの」
私がそう言いきらないうちにギルは私を立ち上がらせると、手を引っ張って連れて行かれる。
「いけません。女性がそんなことをしたら」
「だって、一番始めにここに来た日の朝、ギルがやってたでしょ」
そう言った途端、ギルの足が止まった。
「……あれは、子どもの頃の話でしょう」
決まりが悪いのかこちらを向かないでそう回答される。
あれ?あれは何年前だっけ。5年前か、それくらいかしら。
でも今も子どもだ。だけど前よりも歳を取っているんだ。
「そうですね。ーーでもいつもシャポーの家に来ていただいていたので、こちらから来る時どうすれば良いのかわからなくなってしまったの。だから真似してみました」
「真似って…。それで何をしに来たんですか」
すこし刺のある言い方だ。
当然だろう。彼の好意を自分勝手に断って、連絡もせずにいた挙げ句、勝手に押し掛けたんだから。
「今日は水曜日だから。あんなことがあったから、きっと来てくれないと思ったから……迎えに来ました。あと、謝りに」
きたの。という語尾を言う事が出来なかった。
話している途中でギルに抱きしめられて頭が真っ白になってしまったからだ。
「これまでの事、聞きましたよ。あまり危ないことを1人でしないで下さい」
「ごめんなさい。アンナ達にも言われた。少し1人で勝手にしすぎてた」
「そうですよ。何故1人で全部やろうとするんですか。こう言っては失礼かもしれませんが、ロスはあまり世間を知らないんですから1人でやっても上手く出来る訳がないです」
「そんなの、ギルだって『王子さま』なんだから私より一般社会の事しらないじゃない」
「いいえ、ロスよりは知ってます」
と言われて、少しムッとすると、笑われてしまった。




