訳わからないまま動いていると無駄な動きが多くなる
「それで煙に巻いて連れ出してきたと」
事のあらましを聞いたジェーン先生はそう言うと、大声で笑い出した。
「あっは。アリアーデ、やっぱりあなたの姪御様は面白いよ!」
「笑い事じゃないわ。ロザムンドに迷惑かけないようにこれまで一歩引いてたのに水の泡よ」
「いいじゃないのさ。今時身分だけじゃ生きていけないんだし、何より引いていたからこそモーリーの婆様に付け入れられたんだから」
ひとしきり笑いきったジェーン先生がそう言うと、真面目な顔を私に向けた。
「ロザムンド、勢いだけで出来るのはここまでだよ。これからどうするか、さあ考えなくちゃね」
そう言われ、先ほど思いついたことを口にした。
「皆さんにご迷惑かけますが…お願いがあります」
「お、いいねいいね。なんか考えてたの」
おずおずと言い出すと、ジェーン先生は興味深そうに身を乗り出してきた──しかし、そこに不穏な空気を感じた。
なんか、以前感じたことがある厳しい空気…とその発生源である方に視線を向ける。
「お嬢様、それにジェーン、今は食事中ですよ。それに…お嬢様はこれ以上危ないことをなさらないで下さい。私は生きた心地がしません」
アンナが怒っているのか悲しんでいるのか、どちらとも取れるような表情でそう言った。
それに同意するようにメアリもリリーも頷く。
「お嬢様、皆様が心配なのは分かりますが、お嬢様はまだ子どもなのです」
「そうですよぉ〜。私たちの方がやらなきゃいけないのに、なんにもしてないわぁ」
さらにはスチュワードまでが
「お嬢様からしたら頼りないかもしれません。しかし私共を使ってください」
といつになく厳しい顔をしていた。
そっか。私は何も言わないで出たきちゃってたんだ。
おばさま達のところに行く時も、これまでも自分一人で決めて必要な時だけみんなに作業をさせてたな。
我ながら自己中心的すぎる。
「ごめんなさい…」
謝ることではないかもしれない。
でも、今ここで傍観している訳にはいかない。
「皆には心配をさせてしまったわね…。これからはもっと皆に相談します」
と、言ったところでアンナが眉をピクッとさせる。
「これから?」
「ええ、だってさっきジェーン先生も言っていたけど、『この後のことを考えなくちゃ』いけないもの。今の状態は逃げてるだけ、また同じことがあるかもしれないわ」
「もう言っても無駄ですね」
「そんなことはないわ、アンナ。これからは皆にも手伝ってもらいます!」
私の宣言に、ジェーン先生以外はぽかんと口を開けていた。一瞬シーンと、演奏会が始まる直前のような緊張感が辺りに漂う中でジェーン先生が吹き出した。
「殊勝な事言い出すから、もう大人しくするのかと思ったら!いいよいいよ、私は手伝うよ!こんな面白そうな事やらないわけないよ」
「俺もやるよ。だって俺やベンが、もうちっとうまくやってりゃこんなことにならなかったろうしー」
「家具のせいもあるしな」
ジェーン先生に合わせるようにトムとベンが仲間になった。さらにメアリもリリーも「やります!」と声を上げていた。
そんな光景を見たアンナは頭を押さえていたが、スチュワードが言った。
「私とアンナも勿論お手伝い致しますよ。──アンナ見てない方が不安なんだろう」
「旦那様と奥様が見ていたらなんで言うか…」
ため息混じりのアンナにおば様は最後のダメ出しをした。
「お姉様はわからないけど、多分義兄様は『最後までやれ』って言いそうよね」
「モーリーくんは言うだろうね。自分の家族や仕事仲間に害が及ぶ時の彼は…」
グーピュルおじ様は何かを思い出したらしく震えている。
義兄様ってことは私のお父様よね?なんか、今までのイメージと違うなぁ…。
「ともかく!やるのは明日からです!今日はもうゆっくりなさってください!」
諦めたアンナはそう言った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
食事の後、お風呂に入ってベッドに横たわる。
これからどうしよう…。
いやいや、今更後悔しても遅いな。でもおば様もおじ様も無事で良かった。
ひとりでそう考えていると、置いていた卓上カレンダーが目についた。
「あ…明日は水曜日だ」
いままでならギルが来てくれる日だ。
きっと、明日は来てくれないだろう。
暗い夜は月も出ていなかった。




