怒っております
「裁判所!?」
なんでどうして?何があったというの。
私は立ち上がってアンナに駆け寄った。
「お嬢様、落ち着いて下さい」
「落ち着いていられないわ!アンナ、何があったの」
「そうですよ、アンナさん。アリアーデとご主人の2人が裁判所へ召喚されるなんて、きっと商会に何かあったってことだろう?」
「商会......?そうなの、アンナ?」
ジェーン先生の言葉に更に詰め寄ると、アンナは言いにくそうに顔を背けた。
その仕草に、これは私が関係していると察する。
「アンナ、私の所為なのね。私の馬車かこの家の事が関係しているのね」
「アンナさん、ここで隠してもきっとお嬢様はご自分で調べるよ。その方がシャポー家としても事が荒立ってしまう」
「そうですよ、アンナさん」
ジェーン先生、メアリが促すとアンナは渋々と言ったように私を見つめた。
「お嬢様、約束して下さい。この話を聞いても変なマネはしないと」
「出来ない。内容が分からないのにそんな約束は決して出来ないわ。ーーでもあなた達に迷惑がかかる事だけはしないわ」
首を横に振って、同意しかねる事を表現すると、アンナが大きなため息をついた。
「これは私の失態ですね。こちらで対応をしてからのご報告とするべきでした」
「いいえ、アンナ。あなたの対応は間違っていないわ。さぁ、何があったの」
「裁判所が言うには『ロザムンドシリーズ』の独占販売での市場混乱と価格調整の疑い、ということです」
「独占販売?」
確かに、ロザムンドシリーズはグーピュル商会でしか販売していない。しかし、ブランド販売はそのブランドしか販売出来ないのは当然ではないか。
私がジェーン先生の方を振り返ると、ジェーン先生も同じ事を考えていたようで頷いた。
「表向きはグーピュル商会で製造、販売している製品に対してその物言いはおかしい。どこの商会だって輸入品や仕入れ品だけを扱っている訳ないのに裁判所は何を考えているんだろう」
「ウチ、シャポー家が卸している事が問題になるんですか」
「ならない、ならない。それに召喚とはいえ、いきなり罪になる訳もないし、まずは弁論が入るはずだ」
ジェーン先生の回答を聞いて、私は一瞬だけ肩をなで下ろす。
「つまり、今回のは言いがかりってことで、まだ何か罪となった訳ではないと。ここで反論出来れば何の問題もないはずね」
「お嬢様、こんな事を言ってくるのって」
「私も同意見よ、メアリ」
モーリー夫人が何か言い始めたんだろう。
迷惑行為とかちっさなことで終わらないとは思ったけど、裁判なんて大掛かりな事を仕掛けてくるとも思っていなかった。
「アンナ、教えてくれてありがとう。伯母さま達は大丈夫よ」
そう言うと、ほっとしたように表情が緩まった。
「お嬢様、王家に依頼していただけるんですか」
「そんなことはしないわ。というか『しちゃいけない』わ。これはグーピュル家と、言ってしまえばシャポーの家の問題よ。そう言う事に王家が介入したらそれこそ国が個人の事に関与しているって大問題になるもの」
「では、どうするので?」
「私が証人として報告するの」
と、言うや3人の顔がきょとんとなるのと同時に、メアリはため息をつき、ジェーン先生は爆笑を始め、アンナは立ちくらみでふらついた。えー、私そんなに変な事を言ったかな。
我ながら名案だと思っていると、ふらつきながらもアンナが声を張り上げた。
「お嬢様、お嬢様はまだ成人もしておりませんし、なによりも侯爵令嬢ともあろう方が、それこそ『いち商会』の裁判になど!」
「それよ!私は子どもですが『侯爵令嬢』です。身分を盾にしたくはないけど、公的な場でこれほど強い信用性はないでしょう。それに『いち商会』?親類縁者であり、いつもお世話になっているグーピュル家を助ける以外に何をすべきなの?」
「ですがお嬢様、それこそ真っ向勝負をする必要はないのではないでしょうか」
メアリの濁しながらの提案は、当然と思う。裏から何らかの手を回す、それこそ伯母さまの名前であれば王家の口添えだって貰えるに違いない。それにグーピュル商会だって、自分達で策なり人脈なりがあるだろう。
しかし、それだけでは不十分だ。モーリー夫人に対しての牽制、もっと酷い言い方をしてしまえば、こんな騒ぎを起こした落とし前をつけてもらいたい。
反対する3人に、今度はにっこりと微笑んでみせる。
それから、ゆっくりと、今までで一番上品さを練り込んだ口調で言葉を紡ぎ出した。
「私ね、今回の事は非常に怒っているの。これまでモーリー夫人なんて、別に放っておけば良いと思っていたのだけど考えが変わったわ」
私の言葉に3人の誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「二度とこんな事をしないでいただくように、表立って戦って、世間としてもウチに関わってはいけないといった空気を作ることにします。それこそ、二度と」
きっと私はすごい怖い顔をしている。だって、あのアンナさえも言葉を差し込まないんだもの。
自分でも、自分がこんな風に怒りを出す性格だったと初めて知るくらいだ。
「分かったよ。じゃあ、私たちはお嬢様が動けるようにフォローをするってことで」
全てを汲み取ったと、ジェーン先生はそう言った。
彼女がそう言ってくれるのは心強い。
「それで、まずは何をしようか」
「召喚されてその日のうちに弁論はないですよね。アンナ、なにか聞いていない?」
「連れて行かれたという報告だけです」
「ならアンナはまずは弁論の日程を確認してくれる?」
「お嬢様、ベンはこの事を知っているんでしょうか」
「どうかしらね?とりあえずメアリはベンをこの家から出ないように、あとベン宛に何か来たら私に教えて」
「ジェーン先生は私にこの国の裁判の件とかを教えてください」
こんな事を指示しながら、頭の中でギルが来なくなっていて良かった、と思った私は酷いのかもしれない。
でもさっき皆に言ったように、一つの家の問題に王家が手助けするのは良くないだろう。
と、思ったところで、自分が『助けてもらえるのが当たり前』と思っている事に気がついた。『1人でやります』なんて言っておいて問題発生時には助けてくれるかもと期待する浅ましさに自己嫌悪する。
ホント、自分勝手だなぁ。
私の指示で動き始めた3人をみながら、そんな風に呆れてしまった。




