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自慢したい病

ところ変わって、とある金持ちの邸宅である。

奥方は持て余す時間と金をどのように使うのか考えるのに飽きていた。大胆に広げられた胸元に下げられたじゃらじゃらとした大粒の真珠やらダイヤモンドやらを弄びながらため息をつく。

「あ〜あ。なんか楽しい事はない?」

「なら奥様、新しい洋服でもあつらえましょう。それとも帽子?アクセサリーも良いですわ、なんならいっそ全てを一揃え」

とこび始めるのはモーリー夫人。

「モーリー、それも良いっちゃいいけど、そんなの1時間くらいしか楽しめないじゃん。あ、この間持って来てくれたコーヒー?あれ1年分くらい置いていって」

「お気に召していただけたんですね!なら5年分程ご用意しておきます」

揉み手をしながら、在庫分を全て押っつけようとモーリーは提案をした。奥様は適当に「じゃあそれで」と言うとまた深いため息をつく。

「なんていうんだろ?暇潰し??」

「奥様のようにお美しさも時間も、それに自由に使える財力もお持ちですとそんなお悩みもあるんですね」

「まぁね〜。稼ぐだけはあの(だんな)上手いから。ムカつくのは、平民ってところね。身分があったら私だってこんな暇な毎日を過ごさずにすんだのに」

奥方は舌打ちをしながら言うと、鏡の前へ立ち自分の頬を撫でた。

「こんなに美人なんだから、変なとこで妥協すんじゃなかった。家の趣味も良くない豚と毎日顔を合わせるのかこんな辛いとか・・・。あ!」

「奥様、どうされました」

「家の趣味とくれば家具を買えちゃいましょう!インテリアを私に似合うように!!モーリーは家具は扱ってる?最近、貴族で流行っているシリーズ、あれを一揃え揃えて粉問屋の新妻や銀行のところのばばぁに自慢するってどう??」

「流行っているーー家具ですか?」

最近の流行なんて全く調べていないモーリー夫人は奥方が言っている物が全く分からないので、確認するように繰り返した。

「そうそう、確か『ロザムンド』っていう名前がついてた!どう?用意出来る??値段はいくらでも良いから」

と、奥方の口から出た聞き覚えのある名前に、こめかみがヒクッと敏感に反応した。忌々しいシャポーの娘と同じ名前である。自分が奥方(こんな女)にへこへこするはめになった元凶である、陰気な侯爵令嬢。あいつさえ大人しくしていれば今頃私は一等地の邸宅で贅沢三昧できていただろう。

「奥様、そんなシリーズはもう流行遅れです。私めがもっと良い物をご用意・・・」

「やだ。銀行のばばぁが欲しがってたのに手に入らなかったのを私が見せびらかすんだから」

いやいやと大きく首を振る奥方に、召使いが口を挟んだ。

「奥様、噂によれば『ロザムンド』シリーズはグーピュル商会でしか買えないそうです」

「グーピュル!!」

再び聞きたくなかった単語を耳にしたモーリー夫人は思わず叫び出した。そんなモーリー夫人の叫びを奥方は気にもせず、召使いの言葉に返答した。

「そうなんだ。ならグーピュル商会を呼んでよ。ウチが呼べば来るでしょ?」

「いえいえいえ、奥様。あんな格下の商会を呼んだらお家の名前に傷がつきますよ!大丈夫です、私がすぐに調べて参ります」

モーリー夫人は慌ててそう叫ぶと、奥方は満足そうに唇に弧を描いた。



そうは言っても、モーリー夫人にグーピュル商会とのアテはない。グーピュルの狐に聞くなんて以ての外であるし既に自分の商会はないため入荷の為に手を尽くす訳にもいかない。代わりに別の、自分が選んだ素敵な家具を持っていって買わせてやろうと思いながら、家の前に止めていた馬車に乗り込もうとすると、先ほどの召使いが屋敷から追っかけて来た。そしてモーリー夫人の前で頭を下げるのである。

「モーリー夫人、ありがとうございます。当家の格ではグーピュル商会には来てもらえないなんて言ったら奥様にまた怒られるところでした。あそこは貴族かよくても貴族に近い御宅しか外商してくれないので・・・」

「おやまぁ。そうなの?ひどい話だね」

召使いの言うことに軽く答えながら、モーリー夫人は急いで馬車へと乗り込んで行く。扉が閉まるのを見届けるや杖を足元へ投げつけ、知りたくなかった事実にモーリー夫人は癇癪玉をぶちまけ始めた。


「きぃぃぃ!!!あのグーピュル、グーピュルごときが貴族しかお相手しないなんて!!偉そうになりやがって!気取ったとしてもしょせん二流のがらくた商会じゃないか。ーーー何としてでも、どうにかしてグーピュルもジャポー家も潰してやる。叩きのめしてやるんだ」

馬車内に響く罵詈雑言に業者は心底うんざりした顔で聞こえないフリをするしかなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆

次の日、モーリー夫人は奥方の前に、派手に金の装飾がついた家具を持って来てみせた。

「奥様、やはり奥様のお美しさはこう言ったきらびやかな物のが栄えますよ」

ショッキングピンクのサテン地に金ぴかのフレームの椅子、真っ黒に降り籠められピカピカとしたサイドテーブル、東の国から手に入れたと言う大きな白磁に赤い唐草模様があしらわれた壷に、そして最近流行っていると言う『イグサ』の敷物。他にも金色で大きすぎる燭台やら妙な小花柄のチェストやら......統一感のない家具がずらりと並んでいた。

奥方はそれらを眺めながら、低い声を出した。

「聞いていた物と違うみたいだけど?深い朱色のビロード地で茶色の木製って聞いたし」

「ええ、まぁ。例のシリーズではないですがこちらの方がーー」

「私は、あのシリーズ、『ロザムンド』が欲しいわけ!こんなのいらない。自慢出来なきゃ意味ないじゃん」

「いえいえ、華やかな方には華やかな物の方が」

「モーリー!私は欲しいものじゃなきゃ嫌なの!!もうーー」

出て行って!そう言われる事を察したモーリー夫人はすぐに言葉を挟んだ。

「分かりました。では、そのシリーズを実際に見てみましょう。使ってみたらこちらの方が良いとお分りいただけますから」

義理の息子が死んで自分で客と会うようになり、何度か通った顧客達からは「出て行って」と言われたが最後。その後は家に入れてもらえなくなった。

ここは残った最後の良顧客、だから必死でその言葉を言わせないように取り繕わなければならない。どうにか宥めようと、嫌々ーー背に腹は変えられないとある話を持ちかけた。



昨日、怒り狂いながら家に戻り残ったモーリー夫人は、少なくなった家の人間を走り回らせた結果、やはりグーピュルしか例の家具は取り扱っていないことがわかった。グーピュルに頭を下げて手に入れるなど死んでもしたくないモーリー夫人は諦めるしかないと落胆した。

なんとか分かった情報は噂の家具は非常に質素であるという事だった。そして最近、その家具を使った移動する食事屋があると言うではないか。



そんな家具であれば、この豪華な物が好きな奥方が喜ぶ訳もない。実物を見ればきっと自分が持って来た柔らかな椅子を購入するに違いない、そう算段したのである。

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