要望を聞こうじゃないの
「塩だよ、塩気っいうの?まぁよくわかんないけどとりあえずあれだよ、しょっぱさ!!しょっぱいもんが足りないと思うわけ!」
馬車から帰ってくるなりトムは私の元でそう主張した。
「塩?塩なんてどうするの?紅茶に入れるならお砂糖だし……」
「違いますよお嬢様。いや、合ってるか?いやいややっぱり違う。そうじゃなくてさ、食事!食事も出しゃいいんすよ!」
「食事!?レストランにするつもりはないわ」
だって許可取るのが大変だから。ロバートに教えてもらったところ、メイスンさんが持っている商売の許可証でもグーピュル商会が持っている許可証でもレストラン経営は出来ない。
シャポー家で取るとしても、私が15歳にならなければお店を出したりするような許可証は取れないそうだから今出来るのは移動販売程度である。
「レストランにしなくってもいいんすよ。ただ甘くないもんもラインナップにして欲しいんす」
私の回答にトムがそう懇願していた。
いやに切実な感じ
そう思っているとメアリが声を出した。
「妙に必死ね」
「だって甘いもんばっかで気持ち悪くなーーあ」
「やっぱり。トム、あなた売り物を食べてるでしょう」
メアリの指摘にトムは誤魔化すように口笛を吹いている。
ベタすぎる行動に怒る気が失せてしまうと、今度はリリーがハッとした。
「ああ〜!ごめんなさい〜」
「リリーどうしたの!?」
「私、トムにこれまでお昼を渡してなかったです〜」
おお…そうか。ならつまみ食いというか商品を食べるしかないな。
「そうだったのね。ならトムがしたことは仕方がないわ。次回以降何か持って行くようにしましょう。私が視察を兼ねて持って行くわ」
「別にそれは今までと同じように余りモン食うんでいいっすよ。だからお嬢様、お客だって男が増えてることもありますし甘くないもんあってもいいと思うんです」
んー、移動販売での食事ーー。つまりは軽食って事か。
「じゃがいもの揚げたやつ、チップスやポテトとか?」
「いいっすね、いいっすね!でももっとメインっぽいのも欲しい」
メイン……おせんべいはもち米だから、まだこの世界じゃ見つかってないし、おにぎりもお米がないとダメ。肉まんはハーブとかと合いそうだけど少し考えないと作れなさそうだし。
フランクフルトだと縁日みたいになっちゃうし。
「あ!こんなのはどうかしら!?リリー、パンはあるかしら?後はチーズとベーコンと…」
私の言った食材はウチの台所にはないものもあったので、まずは材料探しに奔走することになった。
ウインナーに関しては、ベンが以前働いていた屋敷で見たことがあると言ってそのツテでなんとか手に入った。
「お嬢様、これは何ですか?」
ウインナーを目にしたメアリが指先で摘みながら訪ねてきたので簡単に説明する。
「これは豚肉の腸詰よ。茹でても焼いても美味しいわ!」
「俺の前の家の主人の故郷ではこれはポピュラーな食べ物らしい。確かに美味いぞ」
私のコメントにベンが付け足した。
「へぇー。グロテスクな見た目ですけどねぇ」
「これにハーブを入れれば臭い消しにもなるし、ウチの漢方も使えるんじゃないかしら?ーーとまぁ御託は後にしてとりあえず試作品を食べてみましょうよ」
と言ってリリーに料理を持ってきてもらう。
「じゃじゃーん!『ホットドッグ』と『クロックムッシュ』でーす!!」
メアリ、ベン、トム、そしてリリーの前に並べた料理を前にしてそう紹介する。
ホットドッグのパンが無かったので丸いパンを半分に切って、その半分の真ん中に切り込みを入れてそれっぽくしたり、ケチャップがなかったのでトマトソースで代用したりとあり合わせ感は否めないが、なかなか様になっていると思う。
私の無茶振りを受け続けたリリーは、最近メキメキ腕を上げているーー気がしなくもない。なんかごめん。
「なんすかその名前」
「いいからいいから。食べてみんせぇ」
トムの疑問を聞き流して、まずは私がホットドッグの方を手に取るとそのままかぶりつく。
それを見てメアリがギョッとしている…けど気にしない。ホットドッグを切るなんて冒涜だもん。
私が食べるのを見ていた4人もそれぞれ目の前のパンを手に取った。
「あら、美味しいです!野菜がシャキシャキしている食感とこの肉の感触が良いですね」
食レポのようなメアリの感想を筆頭に、それぞれがおいしいと言っている。
言い出しっぺのトムも満足そうだ。
「これこれ、こう言うのが良いんすよ!」
「これだと歩きながらでも食べられるな」
「こちらのクロックなんちゃらも好きです〜」
皆で頬張りながら至福を味わっていると、背中の方からヒヤリとした空気を感じた。
んんん?なんだ、この空気は……。
恐る恐る振り返ると、青筋を立てたアンナが後ろに立っていた。
「お嬢様」
「アアア、アンナにスチュワード。あなた達もいかが?新しい商品だから是非感想を聞かせて」
「感想ですか?」
ニッコリと笑ったアンナのセルフに全員が息を飲む。
このひと時の間が、油をひいたばかりのフライパンのように静かな間が緊張感を強めている。
「どこの世界に丸かじりなんてする侯爵令嬢がいるんですかーーっ!!お嬢様はもっとご自分の立場を自覚してください!だいたいあなた方も何故止めないのですか。それにいくらお嬢様が望んでもお嬢様にこんなところで食事をさせてはなりません」
ドカン、と爆発するようにアンナはそう言い始め、そのままくどくどとお説教タイムが始まった。




