癖のある
さてさて、最先端な場所に突如現れた『赤い馬車』のその後はどうなったのかと言えば、1ヶ月もしないうちに評判になった。もっとも、最初のお客様がインフルエンサーだった、というラッキーなのではなく、息子達の話を聞いた王妃が興味津々で足を運ばれたのがロイヤルファンな奥様方の噂になり、「王妃様が行かれたのであれば私も」と続々とやって来たのが勝因だった。
更に付け加えるなら、状況を見る為に頻繁にやってくるロザムンドとマリーの2人の姿を一目見ようと御坊ちゃま達が来て、その影響でお嬢様方もやってくるという予想外の効果も大きかった。
「いきなりこんなに上手く行くなんて」
なんだか怖い。
トントン拍子に行き過ぎなのだ。
「なにがです?」
私の独り言に隣ーー正確に言うと私にもたれかかってーーで本を読んでいたギルが聞き返した。
「お店。もっとうさん臭がられると思っていたんだけど」
「曲がりなりにも王妃が通っていたら、それは『100年続いた老舗』と同じくらい効果がありますよ」
「ですかねー。・・・でも王妃様は何であんなに気に入ってくれたのかしら?」
あの日の事は良く覚えている。お付きの公爵夫人と2人で変装をして馬車にやって来た王妃は、しげしげとメニューを見てから羊羹とドクダミ茶を選んでいた。
初心者なのになんてハードな選択を!?と駆け寄って止めようと思ったが、食べている様子を見ると満更でもなさそうだった。それから頻繁にやって来てはドクダミ茶と和菓子を食べていらっしゃる。トムが言うにはどら焼きがお好きらしい。
「そんなに変わった物を好んでいるんですか?」
「飲んでみますか?」
ギルが私の疑問に対して首を傾げているので、私はドクダミ茶を用意した。
カップに入れて手渡すと、口に近づけただけで眉間に皺を寄せた。
「変わった香りですね・・・」
「ええ。私もあまり得意ではないです」
「お母様は癖のあるハーブがお好きなので、これも好みなのかもしれません。あと、先日『なんだか最近肌の調子が良い気がする』と言っていました。ーーなのでこのお茶のお陰だと思っているのかもしれません」
なーるほど。確かにメイスンさんが言うには美白やニキビに効果があるそうだし、気のせいだけじゃなさそう。伯母さまもそれを聞いて大量に買って行ったもんなぁ。
「でも私はいくら体に良くてもこれは・・・好んで飲みませんね」
そう言ってギルは一口飲んだ。
無理しなくて良いのに、残すという選択肢はないらしい。
「女の人の美への執念は凄いってことですね」
私も少しだけ飲んで、舌を出した。マズイ。
「ロスはそんなの飲まなくても十分ですよ」
そう言うとギルはまた私に寄りかかって本へと顔を向き直した。
十分?何がだ??
......そう言えば昨日からこのお茶をどうにか飲み易く出来ないかとリリーと四苦八苦していた。あんまりにお茶を煮出していたので台所へやって来たメアリが顔をしかめる程、部屋中がドクダミ臭になっていた。
「え!?もしかして......私臭いですか!?」
立ち上がって服をバサバサとしたり袖の臭いを確かめる。
いや、別にそんなに臭くはない気はするけど、鼻ってすぐ慣れるらしい上に自分の臭いって気がつかないって言うしなぁ。職場にいたサロンパス臭いおっちゃんや常にプロポリスの臭いをさせていたおばちゃんもこんな生活だったのか?
何にせよ臭くて迫害されたらたまらん。
振り返ると、私が立ち上がった所為でソファに仰向けになったギルがチベット砂ギツネのような目でこちらを見ているのだった。




