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あかいばしゃ

ここはロードバーグの中心地、マイフェイル。

貴族達のタウンハウスやグーピュル、モーリー、メイスンの商会、大きな市場に流行の洋服屋などこの国で最も多くの物が集まりそしてそれ以上に多くの人がやってくる場所である。

その中にあるサージェントストリートはこの国で最も新しい物が集まっていると、流行に敏感な人やお金持ちの奥様から貴族の子息令嬢までもが着飾ってやってくるというのはこの国の人間ならば誰でも知っている事であった。

そして今日もいつものように豪華な馬車が高級店の前に止まったと思うと、華やかな服を来た人々は店に入って行ったりウインドウショッピングを楽しんでいた。



そんな見慣れた風景の中で、1台の見慣れない馬車が止まった。

紅色に塗られた車体に乗った男は馬を止めると、車体の上部ーー屋根の部分を開いたので道行く人はぎょっとして足を止めた。それから男は今度は絨毯を引き、いくつかの椅子とテーブルと広げてから最後にこんな看板を出した。

『美味しくて体にも良いお茶とお茶請けをどうぞ』


目立つ紅色の車体と風変わりな光景、おまけに謎の看板である。

人々は遠巻きにそれを眺めつつも近寄ろうとはしなかった。そこへ1人の奥様、ほっそりとしたウエストに流行の帽子をかぶった女性が好奇心に勝てずに馬車へと近づいて行った。

「『お茶』とは、紅茶なのかしら?」

「いいえ、奥様。ハーブ、東の国に咲く花の花びらで作ったハーブティーです」

「『体に良い』とは?」

「あちらの国では冷えや血行が良くなると言われているものなんです。ただ、薬ではないので基本は香りと味を楽しんでいただければと」

「面白そうね。で、ここで飲むわけね」

「はい。本日は天気も良いですし気持ちが良いですよ。勿論、お飲物・お食事に関しましては許可を取って販売しておりますので安心していただけます」

「ふぅん......ちょうど喉が渇いているし話の種に飲んでみましょう」

そう言って椅子に向かって行ったので男が椅子をひいて座れるように促すと、今度はその椅子をしげしげと見て言った。

「この椅子って」

「奥様、お目が高いですね」

「でも以前に友人の家で見たのとは少し違うわ」

「こちらは今回特別に作っていただいた物なんです。ーーちなみにこちらの椅子に座るのは奥様が初めてですよ」

男の答えを聞いた女性は声にならないように口元を押さえて嬉しそうに何かを呟いてからいそいそとその椅子に座った。



ロザムンドとマリーはそんな様子を少し離れた所から観察していた。

「まさか、本当にお客がくるなんて」

「ここまで上手くいくとは私も思っていませんでした」

無謀な計画だと思っていたマリーは驚きを隠さずにロザムンドの方を向いて、両手を握った。

「凄いじゃないの!」

「ありがとうございます!初めてのお客様です!!」

「後は味を気に入ってくれれば良いわね。にしても、トムは化けましたわね」

馬車に乗り給仕をする男ーーシャポー家の下男のトムの様子をマリーは眺めながら、普段とのギャップに混乱していた。

「私も、驚きしかないです。元々トムの顔は整っている方だと思いますが......」

「「あの話し方!」」

「普段からあのようにすればよろしいのに」

マリーはトムの砕けきった口調を思い返してしみじみと言っていた。

「それは私が落ち着かなくなりそうなのでダメです」

見慣れているはずのトムが別人に見えるとロザムンドは思った。

貴族の家で働くのであれば、今回の態度が本来のものであるのだが、ロザムンドからしたら他人にしか見えなかったのである。

ロザムンドとマリーは何度も馬車の方を確認しては目をこすったり、顔を見合わせたりして、見えている景色が真実だと確認をしあった。


「お嬢様方、さすがにそんなに見ていたら目立っちゃうよ」

そんな2人に付き添っていたジェーンがそう言うと、ようやく我に返ったのかマリーはいつものような態度を取った。しかしロザムンドの方は、自分の計画が上手く言った事に喜びを隠せないのか見ずにはいられないようであった。

「こんなにすぐにお客さんがくるなんてねぇ。場所が良かったのかもしれないね」

「場所はギルが一緒に考えてくれたんです。『珍しいもの好きで少し裕福な人がきそうな場所』って言ったらここが良いんじゃないか?って」

「へぇ〜。ギルフォードは本当にロザムンドの事ならちゃんと考えるのねぇ。先日なんて、私のドレスがどちらが良いか相談したら、見向きもしないで『良いんじゃないですか』って言われましたわ」

「回答になってすらないね。まぁ、ギル王子は私らに関してもそんなですから、マリー様に対してだけじゃないですよ。お嬢様に対してだけその能力をフル活用されるんですよ」

「知ってますわ。別に良いですけど。ロザムンドのためになっているんですから」

「そのギル王子が今日は同行しないなんて、どうやって説得したの?」

ジェーンの問いかけに、ロザムンドが答える。

「いくら普段出てこないからって、さすがに王子が一緒だと、目立っちゃうと思ったので」

「なーるほど」

とジェーンは口だけで同意を表した。

しかし、彼女は心の中でこうも思っていた。

『その考えは良いと思う。だけどギル王子がいなくとも、マリー王女とお嬢様が2人でいるだけで物凄い目立っているのは言わない方が良いだろうなぁ。多分身分はバレてないだろうけど、お2人が並んでいるだけで周りの視線が集まると言う点には気がつかないか・・・』

そんなジェーンの考えを知る由もないロザムンドはそのまましばらく馬車の様子を見守っているのだった。

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