草上の試食
投げやりに皆様を庭へ連れ出していくと、メアリが呼んでくれたベンが準備を始めていた。
「お嬢様、こんな感じか」
「いい感じね!凄いわ、あんな絵でここまで出来るものなのね」
手を叩きながらそこへ駆け寄っていき、開きかけの傘をより大きく広げた。
私はベンに大きな和傘とちゃぶ台を作ってもらっていたのだ。
「ロザムンドこれは机?」
アルバートはちゃぶ台を見ながら指差した。
「そうです。で、この赤い敷物の上では靴を脱いで上がってくださいね」
「おままごとですか?」
「ギル…さすがにもうそんな歳ではありませんよ。これは食卓です」
「この傘もなんか見たことない感じだね。前に本で読んだ東の国の物ってこんなかな?」
「はい。敷物は無理を言っておばさまに手に入れてもらってしまいました」
怪訝そうなアルバートとマリーをよそに、ロバートは興味深そうにギルは私の言うことに反論する気など毛頭ない様子で、靴を脱いで上がっていった。
対してマリーは流石に拒否反応があるみたい。
「ロザムンド、これはいくらあなたの言うことでもお断りしますわ。靴を人前で脱ぐなんてありえませんもの」
やっぱり。
この構想をシャポーの面々にしたところ、ジェーン先生を筆頭に全員が『高貴な生まれの人が床に座るのはありえない』との感想だった。
特に女性は人前で足を晒すことに抵抗感があるらしい。わかりきっていたけども目の当たりにしたことでこのアイディアは難しいのだとはっきりした。
「そうですよねぇ。ーーベン、あちらの方をお願い」
この拒否は想定内だと私はベンに今度は簡易版の椅子を用意させる。
布は貼らずに暗めの色で塗った背もたれが高めの椅子で少し彫りで柄をつけたものだ。
それと高めのテーブルを用意した。
「ではマリー様とアルバート様はこちらへどうぞ」
そう言うと納得したようにそちらへ座ってくれた。
怒って帰ってしまわないところこちらであれば許容範囲なのだろう。
そうしてようやく準備が出来たので、先程の葛饅頭やらカステラやらを置いていく。
「さきに申し上げておきますが、お口に合わなかったら残してください。あくまでも試作品なんです」
そう言うと、ギルは首を振った。
「残すのはありえません」
ギルはそうだろう。わたしが作ったものを残したことは一度もないし、今日のはリリー作だけど、私がウンウン悩んでいるのを知っているから。
だから他の皆さま向けの言葉だ。
ここにいる人たちが食べられるレベルであればおおよその人は不味いとは思わないだろう。成り行きで起きた事だけど反応を見るにはうってつけの機会だ。
「はじめは地べたに座らされるのに驚いたけど、美味しいわ。ゼリーより柔らかいけど口の中で溶けるのね。あとはこちらのケーキもとても柔らかくて好きだわ」
もぐもぐとしながらマリーは葛饅頭を食べてそう評価する。どちらかと言えばカステラの方が好きなようだ。
マリーが食べているのは白い豆を蜂蜜で煮込んだ物が入っている。さすがに緑色のものは嫌だったようだ。
「良かった。マリー様が食べていて平気なら安心です」
「これが、体に良い食べ物なの?」
ロバートはしげしげと眺めながら、指でつついたりしていた。
ギルは葛餅の部分が気に入ったようで、それに黒蜜をかけてあげた所ずっともぐもぐしておりハムスターのようで可愛い。
そしてふとアルバートを見ると半分程食べた所でお茶だけを飲んでいた。
「アルバート様のお口には合いませんか?申し訳ございません」
草というか薬感が強すぎたかな?それとも食べ物で冒険はしたくないタイプか、単純に味が嫌いなのか。
「い、いや!そうじゃないよ」
私の言葉にアルバートは慌てて残りを食べようとしたので、無理はしないで欲しいと手を掴んだ。
するとギルが横からひょいと残りを口に入れた。
「アルバートはあまり甘い物を好まないんです」
だから代わりに私が食べますね。
と言われたので、気がついた。
確かにこれらは甘い物が苦手な人には厳しいだろう。
自分が甘い物が好きなので何も考えていなかった。
「すみません、気がつかなくて。ならこちらはどうでしょう?」
そう言って私は別の皿を出した。
「これは?」
「ジャガイモを薄く切ってあげてみました」
そう、トムが見つけたジャガイモである。
フライドポテトも良いが、お菓子ならポテトチップスだろうと薄切りにしたのだ。
するとマリーが『ジャガイモ』という言葉に反応をした。
「ロードバーグにもジャガイモがあるのね」
「マリー様はジャガイモをご存知なんですか?」
「ウチの宮殿の庭で栽培してますわ。まぁ、あまり普及してないんだけど、お姉様は国民に広めようとしているわ。ーーでもこうすると良いにおいなのね」
そう言って躊躇わずに1枚口に入れた。
「香ばしくて美味しい!アルバート、これは甘くなくってよ!」
「ほんとだ!ロザムンドこれはとても良いね」
お世辞ではない笑顔をアルバートが見せた事で安心する。
これも良い収穫だ。甘い物以外も用意した方が客層が広がるだろう。
「それで、ローザはこれをどうするの?」
盛り上がっている2人をよそに、絨毯の上でくつろいでいるロバートが質問をしてきた。
「何処かにーーグーピュルに卸す?ああ、そうか誰だっけあの人・・・メ、メイン?」
「ロバート、メイスンですよ。でもメイスンに卸すのであれば原材料が主ですよね。これらの完成品だとお店でも出すんですか」
「そこなんですよ。お店もメイスンさんにこれごと商品化していただくのも考えたんですけど・・・」
と私が濁すと、ギルが思い出したように言った。
「ああ、モーリーですか。それならこちらで手を打てると思いますよ」
「いえいえ、そこまでには及びません。シャポーの家の中の事で王家が出て来たら困ります。まぁ、そうなんです。大々的にシャポーが他の商会と繋がると、またモーリー夫人が出てきそうなのでどうしようかと思っていた事もあって中々動けなかったんです」
モーリー商会が何か言って介入する可能性もなくはない。ホワイト子爵も『気をつけろ』と言ってくれた事もあるし、ここはシャポーの名前はあまり出さない方向で進めようと思っているのだ。
今思うと、ベンの家具もシャポーの名前ではなく私の名前にしておいた事で、おおっぴらにはシャポー家には繋がらないからグーピュル商会でだけ卸す事が出来ているように感じる。
「あら、ロザムンドはこれをどうにかして商売にするんだと思っていたのだけど違ったの?そんなの気にしないでやってしまえば良いのに。ここにいる人間を使えばどうとでも出来るでしょう」
「そうですよ」
ギルは前々から手伝う気があり、色々としようとしてくれていたが断っているのだ。
そんな風に手伝ってもらってはいけないと本能的に思う。
「それはだめです」
きっぱりとこの場でも断っておく。
「じゃあどうするの?」
「ちょっと思いついた事があって、今度試しにやってみようと思っているんです」
と私は皆様を近くに呼び考えている事を小声で教えてあげた。




