番外編:利害一致
「あれ?マリーなんでここにいるんだい?」
剣の授業を終えたアルバートが広間に行くと、見知った顔に出会った。
「ずいぶんなご挨拶ね。…暇だから話し相手になってあげようと思って」
「でもロザムンドに会いにロードバーグまで来たんだろう。ロザムンドのところへーー」
「行きたいわよ!そのために来たんだもの。でも今日は何曜日?」
その答えにアルバートは気がつき、頬を掻いた。
「水曜日だね」
「そう、水曜。水曜日はあなたの弟のギルフォードが『絶対来るな』って言うのよ。なにあの子、普段はおとなしいくせに、なんであんなに怖いのよ!」
「ごめんね。ギルは昔からロザムンドが絡むと人が変わるんだ」
「ギルフォードだけじゃないわ。ロバートだって何かとローザなら、ローザが、って言ってるし、あなただって」
マリーはアルバートの鼻先にビシッと人差し指を指した。
「用もないのにシャポーの家に行こうとしてるの、知ってるんだから。ただ、あなたの残念なところはあまりロザムンドと仲良くなれてないとこね」
ふふん、と意地悪く笑われ、アルバートは居た堪れないというように苦笑した。
「僕は別に、そんなんじゃ」
「社交的なはずなのに本当に好きだと話せないようね。だからシャポーの家の人たちと仲良くなってるんでしょ?したたかねー」
「そんなんじゃないよ。僕はみんなで仲良くしたいだけだよ」
「ふぅーん、みんなねぇー」
含みのある返しにアルバートは質問をし返した。
「マリーは誰ならいいの」
「どいつもこいつもてんでダメ。あの子の横にはマリーがいるべきなの!それは譲らないんだから!!」
アルバートはマリーの勢いにだいぶ引きつつも、自分の欲をはっきりと言えるマリーを純粋に凄いと思った。
とはいえマリーだって本当は自分が常に隣に居られないのはよくわかっているので、余計にイライラしてしまうのだ。
本当なら毎日でも会いに行って、自分の国で『ご友人』として確固たる地位をあげたって良いのにそれを断られるのも分かっているし、困らせてしまうのも想像が出来るからこうして時折会いに来るのに留めている。それも本来なら難しい話だが、カトリーヌに相談したところ頻繁にロードバーグに行く用事を彼女に与えてくれるようになったのだ。
我ながら健気だと思う。
自分がこんなに辛抱強い性格とは知らなかった。
嫌われたくないのだ。
そこでマリーは最近思いついたことを提案した。
「そこでアルバート、あなたに相談なんだけど」
「なんか嫌な予感がするよ」
アルバートはそう言って、ニッコリと笑って一歩ずつ近寄ってくるマリーに後ずさりをして距離をとった。しかし少し下がったところで壁にたどり着いてしまい逃げ場がなくなる。
じりじりと近寄って、マリーはずずいとアルバートに顔を近づけて、言った。
「私の婚約者になりなさい」
アルバートにとって笑顔で凄まれることは生まれて初めてのことだった。
笑っているはずなのに、目が笑っていない笑顔がこれほど怖いとは実際に経験するまで知らない感覚である。
無言で息を飲むとマリーは続けた。
「光栄でしょ?フォンテールの第2王女と婚約なんて」
「光栄かもしれないけど、で、でも急になんで?」
「決まってるじゃない。婚約者になればもっと頻繁にここに来られるでしょう?そうすればもっとロザムンドと一緒に居られるもの!それに、最悪ーー本当に最悪の状況ですけど、もしあなたの兄弟のどちらかがロザムンドと結婚したらマリーがお姉様になるじゃない!」
「…僕にメリットは?」
「あるでしょう?フォンテールの姫との婚約なら周りは何も言えないから、婚約しろなんて言われなくなるわ。それにマリーならロザムンドと仲良くする事に文句言わないもの。ないとは思うけど、万万が一、ロザムンドとあなたが結ばれるなら私はあなたの弟のどっちかとカタチだけ結婚するわ。それでもロザムンドの妹になれるし」
「他の人を好きになるかも知れないじゃないか」
「その時はちゃんと身を引きます。ーー無理だとおもうけど」
マリーはアルバートの返答に若干呆れたように眉を上げていた。どうみてもアルバートはロザムンドに好意を持っているのにそれに気がついていない、その鈍感さに驚いていた。
「まぁいいか。最近周りがうるさくなってきたところだったし。ーーにしても、君はなかなか面倒なタイプだね」
「そのままお返ししますわ」
内心で、3兄弟の中でアルバートが1番拗らせている、そう確信しながらもマリーはそれをあえて言わなかった。
優しさではなく、自覚させると面倒臭いことになりそうだと察したからである。
ギルフォードは分かりやすく邪魔をしてくるが、アルバートは何をしてくるのか全く読めない。そんなのを相手にするつもりもない。
ならば味方にしてしまって共同戦線を張ってしまえば良いと判断した。
こうして決まったアルバートとマリーの婚約は本人たちの意思で決まった、という限りなく珍しいものであった。




