フォンテールへ
さてさて、補助食品作戦を開始した私たちは日夜お菓子だとか、スープに漢方の食材を取り入れた物を開発している。シナモンの代わりにセージとローズマリーを入れたドーナッツだとか、その前に発見したジャガイモをすりつぶした物に芍薬の粉末と茹でた高麗人参を入れたものだとか、お茶として煎じたドクダミとか。
メイスンさんに庭を見てもらった所、他にも色々あるようだが、全体を通して貧血、冷えとか女性の悩みに効く物が多いらしい。
横で話を聞いていたアンナさんが
「まぁ、それは亡くなった奥様が長年お悩みになっていた物です。・・・旦那様は奥様の為に用意されてたんでしょうか」
と涙ぐむシーンもあった。
あーだこーだしながら作ったり、他にも仕える物はないかギルと庭で散策をしたりして、あっという間に日数が経ってしまった。
「ロス、これはどうでしょう?なにやら良いにおいがします」
「それは球根じゃ・・・」
と訝しんで手元を見ると、良く知った匂いがした。
「ショウガだわ」
「何ですそれ??」
後日、メアリから言われたけど、泥だらけになった私たちをマシューさんがハラハラした感じで見ていたらしい。
そんな風に楽しく過ごしていると日々はすぐ過ぎて、気がつくとマリーの誕生日目前である。
ドレスを頂いてしまった手前、そして直々にご招待を頂いてしまったため、行かないという選択肢はない。
マリーには会いたいけど、この状況に私は頭を抱えて悩んでいた。
「お嬢様、もう観念して行くしかございませんよ」
メアリはそう言って私の荷物を準備していた。
パーティ当日に着るドレスが目に刺さるように輝いていて、よろめいてしまう。
「行くもん。でもプレゼント・・・こんなので良いのかしら」
「良いじゃないですか。気持ちだってマリー様も以前おっしゃっていましたし、フォンテールのお姫様ならお金で買える物は全てお持ちでしょうし」
「そうかなぁー?渡す事で失礼になったりしないかしら」
私のそんな心配事をよそに、マリーが手配してくれた馬車に乗せられ私は生まれて初めて王都の外、しかも外国に旅立った。
「せめて国内から、徐々に行動範囲を広げたかった・・・」
そうなのだ。私は王都から出た事がないのに、いきなり外国へ行くのだ。言うなれば、東京の千代田区しか知らないのにいきなり中国に行くような物だ。
「お嬢様、暗いね。ああ、心細いの?やっぱり王子樣方のお誘いを断らないで一緒の馬車で行けば良かったのに」
同席しているジェーンがそう言うと、私より早くメアリが否定した。
「私、あんなに生きた心地がしない移動はもうしたくありません」
今日の移動に関しても、自分は別の馬車で行くと言って聞かなかったメアリにとって、王族との同じ空間は苦痛でしかないようだ。ちなみに今日に関しては『私とジェーン先生と3人だから良いじゃない!』と言ってなかば強引に納得させて押し込んだ。だって不安なのは私もですし。
などと女3人気楽な馬車旅。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やばい
フォンテールのお城についた私たち一行はその華やかさに言葉を失っている。ロードバーグのお城も立派だけども、真っ白な外壁に広い庭園の緑が美しかった。
「絵では見たことがあったけど、実物を目の当たりにしちゃうとこうも圧倒されるもんだねぇ!百聞は一見にしかず、とはよく言ったもんだ。さて、せっかくだからロザムンドに説明しとこうか。このフォンテールの宮殿のような形を『フォンテン様式』と呼ぶんだ。特徴は入り口に連なる左右に用意された階段、それに室内の装飾だ。ロードバーグのお城は煉瓦造りだからこれに比べてしまうと質素な感じがしてしまうね」
「こっちはまさに宮殿といった印象でーー。マリー様がロードバーグの事をあんな風に言うのも…分からなくもないかも…」
思わずそんな感想が出てしまう。
メアリもジェーン先生も「「違いない」」と声を揃えた。
そんなふうに口を開けて立っていると、扉の方が騒がしくなっていた。
「何か問題でしょうか?」
メアリが心配してそこへ行こうと足を進めると、急にズシッという重みが両肩にかかってきた。これはストレスかしら、それともこの立派な王宮でなにか悪いことが起こるという守護霊からの警告かしら……。怖くて確認が出来ず、その場で固まっている。
「あれ、マリー王女お久しぶりです」
「ハァイ、ジェーン。御機嫌よう」
なんだマリーか、と安心しているとメアリが大慌てで戻ってきた。
「大変です!マリー王女がいなくなっーーってあら?」
「ここにいらっしゃるわよ」
「メアリも来たのね。歓迎するわ」
「マリー様、皆さまあちらで大騒ぎしているようですが」
私がようやく顔を向けると、マリーは破顔して後ろから私の首にすがりついてきた。
「よく来たわね!ずうっとずーっと待っていたのよ!ウチの馬車は乗り心地良かったでしょう?って顔色が良くないわね」
そりゃ首がしまっているからよ。
そう言おうとすると、マリーは私の頬にキスをした。
「パーティは明後日だからゆっくりなさい。あ、でも後ほどお姉様に挨拶をしてね」
それからマリーは私の手を引いて、大騒ぎになっている方へ連れていくので、抵抗する気もなかった。道すがらマリーに尋ねる。
「マリー様、すごい騒ぎですよ。どうしたんでしょう」
「そりゃぁ、私が居なくなったからじゃないかしら。明日には私の婚約者がくるのに、その場にいないなんて大変でしょう」
「ええっ!?婚約者!?」
そう驚いていると、マリーはニヤリと笑っていた。




