グーピュル伯父さまは商売人
メアリ渾身の作品となった私は、パーティに来てくれた人に挨拶をする為に部屋に入った。
まだ誰もいないため、置かれていた椅子に1人で座っていると伯母さまと伯父さまが一番乗りで入って来くるなり駆け寄って来た。
「ロザムンド、お招きありがとう!・・・このすみれ色のドレスにしたのね!ああ可愛いわね、絵画から出て来たみたい。ーーほらね、あなた、やっぱり私が選んだドレスにしてるでしょう!!」
毎度恒例となった、タイトなホールドをしながら伯母さまは自分の夫に勝ち誇っていた。
「ほらほらロザムンド様が苦しがってるよ。アリアーデのだったかー、やっぱり女の子のお洋服は難しいなぁ。でもとても良く似合っているよ」
「伯母さまも伯父さまもプレゼントありがとうございます。あんなに沢山でどうやってお礼をしたら良いのか・・・今度商会にもお邪魔させて下さいね」
「おっ、その時はどれを着てくれるのかな?」
「そうですねぇ、クリーム色のシフォンのに致します」
そう言うと、今度は伯父さまが伯母さまの脇を小突いて「俺の方だよ」と笑顔を向けると、伯母さまは「水色のになさいよー」って文句を言った。
この夫妻のやりとりは見ていて楽しい。
と、グーピュル夫妻の仲睦まじさに和んでいると、王宮の馬車が到着したとの声が聞こえた。
伯母さま達を後にし、玄関で待っているとトムがそっと近づき耳打ちをする。
「お嬢様、ヤバいっす」
「どうしたの?門でも壊れたの?」
「そっちのがまだ良いかも・・・。王妃様もいらしてる」
「アンナが卒倒するんじゃない」
私もだけど。
そんなやり取りをしつつ、王妃様含めて皆を応接室へ招いた。
マリーは私をみるなり、いつもと違って良いといって喜んでいたし、アルバートもロバートもべた褒めでなんだか居たたまれない。
簡単な食事をとってきます、とでも言ってその場から立ち去りたかったけれど今日はそうも行かないようだ。
パーティが始まりーーとはいえ、簡単な食事会であったから、リリーが昨晩から腕を振るった料理を食べたり皆でカードゲームをする程度でいつもと変わり映えはなかった。
王妃様がいるのに大丈夫か?とアンナに聞いたところ
「私にももうどうしたら良いのか見当もつきません」
といって考えるのを止めていたし、スチュワードも
「この館に王族が来るなんて100年ぶりじゃないでしょうか」
そう言ってあらぬ方向へ話を持っていかれた。
多分、全員現実逃避しているのだろう。私ももうなにも考えない方が良いと思って、いつものように過ごす事にしてしまった。
皆ーー全部で10人もいない出席者とダラダラと会話をしていると、ふと王妃様が私が座っている椅子をみて言った。
「あら、それは最近流行っている家具じゃなくて」
王妃様は館に入るなり恐縮していた伯父さまをみて「今日は無礼講なので、気にしないで話しなさい。私も息子の保護者、ロザムンドの友人として来たんだから」と宣言しており、礼儀作法を無視するように促していた。
「これはベンが作ってくれたんです」
ベンは凝り性なのか、家具作りを始めるとあれよあれよと上手になっていた。
この椅子は第3形体で、深紅のビロードが貼付けられ中々座り心地が良い。
「王妃様、これはシャポー家で働く者がデザインから全て1人で作っているものです。光栄にも私たちグーピュル商会に卸してもらい、最近販売をしているのですが、すでに注文待ちの状態なんですよ」
「ベンにこんな隠れた才能があるなんてねぇー。私も夫も驚いておりますわ」
伯母さまと伯父さまが説明すると、王妃はしげしげと椅子を眺めた。
「私の侍女やお茶仲間の公爵夫人が言っていた『ロザムンド』シリーズってこれかしら?知り合いと同じ名前だわぁ〜と思っていたのだけど」
「そうでしょうそうでしょう。こちらは最新シリーズです」
伯父さまが頷いていた。なん・・・だと?『ロザムンド』なんて名前が付けられているなんて聞いてないぞ?とメアリに視線を送ると目をそらされた。
おのれ、メアリ知っていたな。
「そうだったのねぇ。確かにロザムンドがこうして座っているとぴったりね」
「はい、高貴な方々の子息用子女用としてご好評を頂いております」
「まぁ、ロザムンド程に似合わないでしょうけどね!」
私の知らない所で私の名前が広がっている事実。名前を使っているというのはこう言う事だったのか、後でベンを問いつめようーーいや、ウチにお金入れてくれてるんだった。
これでは怒れないじゃないか。そんな知恵を授けられるのと言えば・・・とジェーン先生を探すと、すぐ近くにいたので声をかけ、事の次第を確認した。
「ばれちゃったか。ベンは『シャポー侯爵家〜〜』って名前を付けようとしていたんだけど、それよりも名前の方が親しみがあるんじゃないかな?とは助言したよ」
さもありなん、と言うジェーン先生に怒る気も削がれ脱力してしまう。
シャポーの名前には良いイメージはないけども、少女の名前がつくことで、実際に室内で愛用しているような光景を想像しやすい。
楽器とか食器とかでも型番ではなく名前がついていたりするもんなぁ。
「でもでも、私の名前って言うのはあまり良くないイメージじゃない?」
「お嬢様、鏡見て来てください。黙っていれば深窓の令嬢にしか見えませんから」
メアリの言葉に、壁に組み込まれた鏡を見ればなんと様になっている事か・・・。今日のすみれ色のドレスに深紅のビロードの色合い・・・欲を言えば髪の毛が黒いので若干重そうな色合わせではあるが重厚感はある。
高級感が欲しいご趣味の方には受けそうだ。
この製品、今の我が家を支えてくれていると思うと止めさせるには忍びなかった。
「お母様の名前にすれば良いんじゃなかったかしら?」
ルイーゼでも可愛いと思う。
「それも良いとは思ったんだけどね、実際に子どもが愛用しているとする方がより宣伝し易いじゃないか」
と言われてしまい、食べさせてもらっている私は何も言えなくなってしまった。
なにか代替案を出せればいいんだけど・・・とうなだれる。
すると、リボンを触られている感覚がしたので顔をあげれば、ギルが私のリボンを触っていた。
「どうしたの?」
そう聞くも、ギルはリボンを指の腹で撫でたりたゆませたりして、顔をほころばせていた。
そう、私は今日はこれだけお洒落をしていたが、頭にはいつもつけている藍色のリボンをしていた。
なんかこれだけはトレードマークのようになっていて外せないんだ。
ハチマキではないが、ここに来た当初の幽閉ルート回避を忘れないようにするって決意表明みたいなもん。頭にキュッと結んで、今日も頑張らねば!という意気込みなのだ。
ギルはしばらく黙っていたが、その後に私の事をひとしきり褒めるとこう言い出した。
「これも大分くたびれて来てますね。差し上げた物を毎日使って頂けるのは幸せですけど少し子どもっぽいんじゃないでしょうか。そうだ、別の物を送りましょう。やっぱり髪飾りは必要ですよ」
「いえいえ、これが気に入っているんです!」
あんな宝石のついた高級そうな物日常使い出来ないし、頭が重くなりそうだ。
「では新しい物を」
「これが好きだから使っているんです。馴染んで来ていて、使い込んだ風味が好きだから」
そう言って断る。そして付け加えた。
「もし下さるなら、来年の誕生日にくださいね。新しいリボンをだけで結構です」
高価な物はいらんのです。
そう言うと、ギルは了承しかねると首を振った。
「嫌です。マリーも言っていたでしょう。プレゼントは気持ちなんだからありがたく貰えって。だから来年は来年で考えます。ーー今年のプレゼントはこれからお渡ししますが、他の人のから開けて下さいね」
年々言いくるめられなくなっていくギルは、既に私では手に負えない。1歳下のはずなのに、口では勝てる気がしないのだ。
などと話をしていると、マリーが割って入って来た。
「さぁロザムンド、プレゼントを開けなさい!絶対私のが一番似合うんだから!」




