物より気持ちが嬉しいよ
毎日あれよあれよと過ぎていて、気がつけば3年以上経っていた。私が元の喪女社会人に戻る気配はなく、むしろ着々とこの世界に馴染んでいっている。転生なのか夢なのか、まさか空想世界なのか分からないけれども毎日が充実しているのでその点では悩んでいない。
周囲はと言うと、メアリは当然のように毎日私のそばにいてとか私の困りごとがあると真っ先に駆け寄ってきてくれる。
リリーはお菓子作りは勿論の事、料理も教え始めてくれていて、最近では懐かしの和食に似たものとか洋食とかを作るために一緒に苦心してくれている。トムはトムで、ウチの庭にある草花を問屋さんに売る代わりに庭や外壁の整備をする条件を取り決めてくれたお陰で、館は一応見られるようになったし、ベンはギルが来る時に作った椅子がきっかけで家具作りをするようになってくれた。その家具を使ってウチの内装を直してくれたり、作ったものをグーピュル商会経由で販売し始めた。
そうして暫くするとベンから「話がある」と言われ、私はベンが独立して家具職人になるから退職の話をされると身構えていた。
「グーピュル商会で売る家具の事だが、シャポー家の名前を使っていいだろうか?勿論、名前を使わせてもらうのだから、利益はまずシャポー家、お嬢様にお渡しするので」
「はいぃ?・・・それは私としては願ってもない事だけど、ベンの取り分が減っちゃうわよ?ベンが1人でデザインして、木を選んで、作ってるのをわざわざウチに出すも勿体ないんじゃないかしら?」
「いいや、木はスチュワードさんから貰っている物だし、グーピュル商会に下ろせるのもお嬢様が居るからだからーー」
そう言って伯母さま達と話をして、臨時雇いではなくウチで本格的に雇っている人となり、それから何らかの契約を結んでいた。
私は彼等に何もしてしてあげていない。「いいの?」と聞いたけれど、皆口を揃えて、シャポー家が無くなる方が困るし、ここに置いてくれてるんだから当然だと言っていた。
よくわからないけれど、その好意に甘えさせてもらっている。
そして目下、1番の困り事だったモーリー夫人に関しては、何度か「私を引き取る」と言ってやって来てはアンナとスチュワードさんが追い返してくれるということがあったが、今ではほとんど姿を見せなくなった。
疎遠になった大きなきっかけはジェーン先生の挨拶だったそうだ。
「初めまして。私はジェーン・ホワイトと申します。ご縁あって住み込みでロザムンドお嬢様の家庭教師をさせていただいております。それと、『王妃様より』言付かってこの家の権利や相続関係を調べております。なんでも不審な形で財産が流出しているようでして…」
「家庭教師だって?あの陰気娘が偉くなったもんだね、女に学問なんて無駄だよ!さっさと嫁に行って……ん、ホワイト?」
「ご存知ですか?バートン・ホワイト子爵を」
「もちろんだよ。うちの商会のお得意様だよ」
「そうだったんですね。それは私の祖父です。祖父は女性にも学問をさせるべきと言う人間でして、勉強熱心なお嬢様の事をそりゃーもう気に入っているんですよ」
そう言ってニッコリ笑ったジェーン先生にモーリー夫人はしどろもどろになりながら逃げていったそうだ。メアリがその時の光景を説明しているところに、トムがモーリー夫人が逃げる姿を真似したのがとても面白かった。
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そんな感じで私はそろそろ10歳になる。
これまでは誕生日と言っても家人やギル達といつもより少し豪勢な食事をするだけにしていたが、10歳というある意味節目の歳という事で、今年はパーティをやる事となった。
ただ、招待すると言ってもいつもの面々+隣国のマリーくらいだけど。
「ロザムンド、プレゼントは何が良いかしら?」
まだ日はあるのに、誕生会の為と言ってロードバーグに遊びに来ていたマリーがそう言った。以前の別れの際に言われた『フォンテールに遊びに行く』というのは、実はまだ実現出来ていない。
家の問題と、それに他国に行くようなストーリー外の事をしてしまう事への不安で動けていなかった。マリーは遊びにこないと文句は言うものの、かわりに頻繁にこちらへやって来ている。
「プレゼント・・・ですか?こうしてお越し頂くだけで十分です」
「あら、だめよ。去年も一昨年もそう言って断ったじゃないの!」
「でも・・・本当にこんなところに来ていただくだけで恐れ多くて」
「全く!そうやって遠慮ばかりして!・・・アルバート達は毎年どうしているの?」
と3王子達へ水を向ける。
「私は、去年はネックレス、一昨年は髪飾りをお送りしましたが・・・どちらもお返しされてしまいました」
「ですから、あんなに立派な物を頂けませんって言っているじゃないですか」
ギルからは出会ってから毎年、大きな藍色の宝石の着いた首飾りやティアラが届くので、アンナとメアリと震えながら箱を開けている。(そしてお詫びの手紙とともにお返ししている)
その後で代わりに大量の花が届く。
「僕は去年は本を送ったよ。・・・レディ・ホワイトからお礼を言われたね」
「あれは・・・すいません。私では難しすぎてまだ読めませんでした」
ロバートからは異国情勢についての本が届いた。こちらも高価な物なので送り返そうとした所、ジェーン先生が興味を持っていたので頂く事にして、代わりにジェーン先生が書いた報告書をお返しとしてお送りした。
「去年・・・ああ、ジョセフの首輪を送ったよ!」
「あれもとんでもない代物でしたね・・・。愛犬とはいえ、ジョセフにあれはつけられません」
最後に言ったアルバートからのプレゼントは、プラチナで装飾が施された犬用の首輪と玩具だった。そんなもん犬に使える訳がない。勿論丁重にお断りした。
そんな話をしていると、マリーが顔を顰めて嘆いた。
「ロザムンド、プレゼントは気持ちなのよ。貰っておけば良いじゃない!」
「頂ける訳ないじゃないですか!第一お返しも出来ない状態ですのに!!」
マリーが声を大きくするのにつられて、大声で返した。
すると、ギルフォードが不満げに言った。
「プレゼントを貰っていただけないのもそうですが、ロスは私たちの誕生会にも挨拶程度で帰ってしまわれます。お祝いはこの家でしていただけますが、王宮に来ても二言三言で『それでは、また水曜日に』とか言って逃げるんですよ。酷いです」
それを聞いたマリーはロバートとひそひそ話で「本当?」「ひどいよねぇ」「お誕生日のお祝いしてくれないなんて」などと当てつけてくる。心外だ、祝う気持ちは大いにある。しかし、王宮のパーティなんて行く持ち合わせもないし、名前もない。シャポーの名前は相変わらず悪評なのだ。
「行きたくない訳じゃないんです!いつもと同じようでよければ良いんですが、パーティだと、違うじゃないですか」
「違うって?」
「あ、分かった!ロザムンドは華やかな所が苦手なんだ?」
アルバートがそう言ってくれたので、それにヒョイと乗っかる。
「そうです!それに着ていく物もないですし」
適当な理由を付けて同意する。
「なるほど。確かにウチのパーティに来るとしたら、ロードバーグの格好じゃ変に浮くかもね。・・・あ!!良い事考えついた!!」
その言葉に嫌な予感がする。止めた方が良いとこの3年間で得た経験からくる勘が叫んでいる。
「・・・マリー様、全然良い予感がしません」
立ち上がるマリーに縋り付くが、こうなったマリーは誰にも止められない。
何を言うんだ、マリーよ。心拍数が急上昇して、このまま倒れそう。
「今年のプレゼントは服を送るわ!ーーでそれを来て次の私の誕生会に来なさい」
ふぁぁぁ?!
斜め上、斜め上過ぎるよマリーちゃん。ドレスなんて一体幾らすんの?お返しができないし、そんな物貰ったら絶対行かなきゃいけないじゃない。
「い、いえ!本当遠慮します!!」
「どうしてだい?良い案じゃないか!なら僕らもそうしようよ!ロザムンドに会いたいって言っている人も多いし」
アルバートはそう言ってマリーの案に続くと、弟達も「名案だ」と頷いていた。
「そんな大層な物を頂いても、シャポー家の状況ではお返し出来ないじゃないですかーーっ!!」
私の悲鳴に近い主張は無視され、マリーの提案は4人でつつがなく進められる事となった。




