恐怖の手紙の中身は
ジェーン先生から読み聞かせてもらった内容を要約すれば
『連絡をずっと待っていましたが、待ちくたびれました。ロバートは『もう来ないのではないか』と言って自分を脅すけど、そんなことないですよね?お忙しいのは分かります。なのでこちらから明日お邪魔しにいきます。大人数で行くと気を使われるでしょうからマシューと2人で行くようにするので、ご心配には及びません』
途中途中でまるでゲーテの詩かと思うような、甘ったるい言葉の羅列や連絡がない事への恨みつらみもあり、ジェーン先生は読みながら「熱烈だねぇ」と若干呆れていた。
ただ、そんな部分よりも問題はギルがここへ来るという事だった。
「ギルが来る!?大変!!アンナに言わなきゃ!!」
準備が不要とは書いているが、本当に何のもてなしもしないはずがない。私は勢い良く立ち上がって走り出した。
「お嬢様!?走ってはいけません!!」
「申し訳ないわ!でも緊急事態なの!!ーージェーン先生申し訳ございませんが、少し席を外します!メアリ、ジェーン先生のお相手を!!」
と叫んで部屋から走り出ると私の姿を見つけた飼い犬のジョセフが一緒に伴走しはじめた。
バタバタと走り去るロザムンドを見送り、部屋に残されたジェーンとメアリは呆気にとられていた。
「・・・なんというか、見た目と随分印象が違う子だねぇ。黙っていると弱々しそうで消え入りそうなのに」
「ついこの間までお姿通りのお嬢様でした。私たちと距離をとり、飼い犬すら怖がってお部屋でじっとしているか臥せっている事が多かったです」
「なら、やっぱりさっきの言葉の通り、別人になっちゃったのかな〜。前を知らないけど、私はロザムンドお嬢様を気に入ったよ」
「お転婆のようになってしまったのは少々困り物ですが、元気になって下さって私たちは嬉しいです」
微笑ましそうに笑うメアリを見て、ジェーンも笑った。
噂が多いシャポー家は、聞いていた通りにボロボロであったが、そこに居る令嬢はどうだろう。薄幸そうで引っ込み思案、幽霊のようだと噂されていたが、実際に会ってみると元気で行動派だ。確かに彼女の言う通り、以前のまま過ごしていたら、彼女の話していた世界の通りになってもおかしくはない。でも今の彼女ならこの状況を打破出来るかもしれないと思わされる。
ジェーンは腰に左右の手を置いて、やる気を出したように胸を張った。
「まだ分からない事だらけだけど、私で良ければ力になるよ。財産はないから財政的な助けにはならないけど、彼女よりはこの世の中を知っている」
そう言ってメアリの前に右手を差し出した。
「ありがとうございます。レディ・ジェーン」
握手を促されたメアリは躊躇したが、ジェーンの視線がそれを拒ませなかった。
「ジェーンで良いよ。さっきも言ったけど、ほとんど貴族の血は入ってないんだ」
「ジェーン、ありがとうございます」
「さて、ではさっさと動き出そうか!1日は24時間しかないからね!」
ジェーンは可愛らしくウインクをしてみせた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私がアンナの元へ駆け寄ると、アンナは恐ろしい物を見たようにぎょっとしていた。
「お、お嬢様!?」
「アンナ、大変!明日ギルが来るって言うのよ」
その言葉にアンナは更に驚いて叫び出した。
無理もない。私が来た当初に比べれば家は綺麗になっている物の、人ーーそれも王子を招くにはまだまだほど遠いいレベルだった。
「この家に?いらっしゃる!?いつですかお嬢様」
「だから明日!!」
「明日ですって?お嬢様、お、お断りを!」
「今からそんなの出来ないでしょう!この世界に電話なんてあるの?!」
「でんわ?でんわってなんですか??何変な事おっしゃっているんですか!?あああ、そうですよね。今更どうしようもございませんーーメアリ!リリー!!トムにベン!!!すぐにこちらへ!!!!」
ここに来てからいつも冷静だったアンナも、私と同じように余裕がない大声を出した。




