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火涙の少女  作者:
12/12

終 幕 『祈りの果て』


 わたしは、白い場所に居た。

 右も左も、上も下も、どこを見ても白だらけ。最初見たときは、病室で寝てるんだった思った。でもどうやら、違うみたい。


(そっか。わたし、死んじゃったのか)


 どうやらここは、死後の世界のようだ。周りを見る限り、地獄ではないようだから、ここは天国だろうか。天国というのは、意外と殺風景な場所らしい。


「あら……?」


 自分の姿を見る。するとそこには、よぼよぼのおばあちゃんの姿ではなく、若い頃――多分、十八歳か二十歳を過ぎた頃かそれより前――くらいの姿になっていた。


(粋な計らいをしてくれますね。さすが天国)


 と、自分で思っておいて吹き出す。なんだか、馬鹿らしいや。

 ほう、と息を吐く。


「――――――」


 結局、最後まで独りだったな、と、そう思う。

 だけど、寂しくも、悲しくもなかった。

 独りだったけど、わたしは幸せだったから。

 そして、あの人が約束したから、わたしは前を向いて生きていけた(歩いていけた)


 だから、きっと――――。


「……あ」


 突如光が、目の前に現れた。

 とても眩しいその光は、次第に収束していって、やがてそこには、やけに荘厳な、大きな扉が現れた。

 ゴゴゴ、と音を立てながら、その扉は開く。


 扉の先には、無数の花が咲く、言葉では形容できないくらいの、美しい花畑が広がっていた。 


 空の澄んだ青。太陽の、眩しい光。白だけの殺風景なこことは違い、扉の先には色彩溢れた世界があった。

 そして、開いた扉のすぐそこには、誰かが立っていた。


「―――……、あ」


 それを見たわたしは、笑う。思わず、涙まで出てきた。零れた涙は頬を伝っていき、やがて地へ触れる。


 けど、その涙は、もう燃えることはない。


「やぁ、リン」


 目の前の彼は、いつかと同じように笑いながら、わたしに挨拶をする。

 赤い髪に紅い瞳。姿はあの頃と全く変わっておらず、けど背丈はわたしより大きい。そして最も大きな変化は、あの頃のような赤い炎を纏っているのではなく、そこにあるのは白く穢れのない、美しい翼。それを見て、わたしは嬉しくなった。


 もう一度、彼を見る。

 その姿がとても懐かしくて。

 とても胸が満たされて。

 その声が愛おしくて。

 わたしは彼が好きなんだなと、そう思わせてくれた。

 涙がとめどなく頬を伝う。嬉しくてたまらない。好きだという気持ちが溢れていく。


 だから、わたしはこう言うのだ。

 きっと、彼が来てくれるって信じてたから。

 もう会えないなんて、一度たりとも、思ったことなんてなかったから。

 ずっと、ずっと前から決めていたこと。

 それを今、口にする。


「久しぶり、アウナス」 


 ――とびっきりの笑顔を、見せながら。


 ああ、きっとそうだ。そうに違いない。


「待たせてごめん」

「待たせすぎ。絶対許さないから」

「じゃ、どうしたら許してくれる?」


 周り廻って、永い長い遠回りをして、

 幾度のすれ違いを経て、

 出会いと別れがあって、


「――ずっと、傍に居て。わたしを、独りにしないで。わたしを、幸せにしてくれるんでしょ?」

「それくらい、お安い御用さ。もう君を、独りにはさせない。ここから、君を幸せにしていくさ。……じゃ、行こうか」

「うん。――約束、だからね? 離れたりしたら、追いかけてやるんだから」


 わたしと彼の物語は――ここから、始まっていく。


 空白を幸せで埋める旅に出よう。


 現世うつしよで結ばれなかった恋は、常世とこよにて結ばれたのだから。

 願いは確かなモノに。永遠の時で、空白を埋めよう。


 ――わたしの幸せは、たしかに、在ったのだから。



 風に吹かれ、花々が揺れる。

 いくつか花びらが取れ落ち、風にさらわれていく。


「――――あ」


 その風が、わたしの頬を撫でたとき、

『よかったね』と、大切な家族の声が、聴こえた気がした。


 

これで、少女と悪魔の物語は幕を閉じます。

ここまで読んでくださった方々に最大限の感謝を。ありがとうございました!

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