27 イロハ、動揺する
異世界から来たモノには、“贈物”という“特別な何か”が与えられるらしい。
午前中、ジャックにラッピングを教えていたらそんな話になった。曰く、ひとりにつき、ふたつかみっつ貰えるとか。言葉はともかく、他はまったく心当たりがない。
魔法は、元の世界で使えなくてもほとんどの人が使えるようになるらしいから、贈物には含まれないとも聞いた。もっとも、異様に強い魔法が使えるとかなら、贈物認定されるらしい。
残念ながら、私の魔力はごく普通。特別弱くもなく、特別強くもない。突然、戦えるようになったわけでもないし……うむ。
中には、気が付かないまま一生を終える人もいるらしいので、わかりにくい何かもしくは、現時点で開花していないのかもしれない。
出来ることなら、商売に役立つモノがいいなぁ……
「イーローハー?」
「うわぁ!? ……ってメル」
お客様もいないので、ぼんやりしていたら目の前にメルがいた。呼び鈴なってないはずなんだけど……
ああ、この子なら音も立てずに入ってくるくらいお手の物かもしれない。
「ねぇ、最近男が出入りしてるって聞いたんだけど、どういうこと?」
「どういうことって……」
今日も愛らしいメルは、制服姿だった。まだ、日も暮れていない時間だし、仕事の途中に寄ったのだろう。
しかし、彼が纏っているのはどことなく不穏な空気だ。顔に不機嫌ですって書いてあるし、目に宿る光がヤバそう。
……あれかな? お姉ちゃん取られちゃった弟みたいな。メル、お姉ちゃん子っぽいし。
「お抱え薬師捕まえるって話したでしょう? 捕まえちゃったのよ」
「捕まえちゃったってっ! 同居することないでしょ!」
「してないわよ。行くところないっていうから離れを貸してるだけ」
拗ねているのか、怒っているのか……たぶん、両方だけど、メルは不機嫌さを隠そうともしていない。普段なら、笑顔で攻撃してくるような子なのに。
しかし、年頃の娘を持った父親じゃないんだから心配し過ぎではないだろうか。一応、人を見る目はあるつもりだし、ジャックなら大丈夫だと確信を持って言える。
「ふーん?」
じと目で見上げてくる姿は、可愛いのに怖い。
自分に向けられているのではなければ、ただただ可愛いだけだっただろうけど、向けられている視線には不穏なモノが混じっている気がする。
「本当よ。会ってみる?」
「……あとでね」
ぷくぅと頬を膨らせてそっぽを向いているメルは、まだ拗ねているみたいだ。柔らかそうだなと思っていたら、出来心が湧いてきて――
「!? イ、イロハ!」
膨らんだ頬っぺたを突っついてしまった。
いつも余裕綽綽で慌てた様子を見せることは無いけど、こっちの方が普段のメルっぽい。
「可愛い顔が台無しよ」
「イロハのせい! もうっ……いろいろ拾って来ちゃダメだからね?」
そんな捨てられた猫犬じゃないんだからと思わないでもないけど、似たような感じで拾ってきたのは否めない。
少しは機嫌が直ったみたいで、不穏な雰囲気が消えていた。
「はいはい。それで、今日はどうしたの?」
「用事がなくちゃ来ちゃダメ?」
まだ、完全に機嫌が直ったわけじゃないらしく、ちょっと意地悪だ。
そういうところは、年相応だなと思う。可愛い。
「なんで笑ってるの」
「なんででしょう?」
私の大人げないところは、意地悪されると仕返したくなっちゃうところかもしれない。
むすっとして、メルは口を閉ざしてしまった。
「ごめんごめん。仕事中に寄ってくれるの珍しいと思っただけよ」
「だって、仕事で来たんだもん。コレ」
メルが差し出したのは、一枚の封筒だった。
中身が透けないようになっている茶色の封筒は薄い。引っ繰り返せば、しっかりと封をしてあった。なんだっけな……封筒に付ける蝋――ああ、シーリングスタンプだっけ? ともかく、きちんと閉められており、開けたらわかるようになっていた。
シンプルだけど質の良い封筒といい、封が施されてるところといい、重要な物らしいことが伝わってくる。
「開けないの?」
「開けていいの?」
「イロハ宛てだよ」
開けるのが躊躇われるけど、封を切って開く。
中に入っていたのは二枚の紙だった。
書かれていることも至ってシンプルで、一枚には、褒賞であることと感謝の意、もう一枚には数字と小切手である旨が書かれている。
……小切手?
「この前、強請捕まえたでしょ。その褒賞」
「えっ、でも捕まえたのは私じゃなくて」
「エクトルって人でしょ? そっちにはそっちで褒賞行くから気にしなくていいよ」
……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん。
100万E。
借金返済には程遠いけど……突然の大金に動揺が隠せない。
「あと、デチーゾ問屋の件で慰謝料出るみたいだけど、もう少し時間かかりそう」
「そ、そうなの」
小心者と言うなかれ。
なんだか、よくわからないことで手に入れたお金って怖いのだ。
「よかったね、イロハ」
あ、借金のこと覚えていたのか。
と思ったが、どうやらそれは違うようで、次にメルから出た言葉は、借金と全く関係のないことだった。
「学校行くんでしょ? エメリナから聞いたよ」
「えっ……あっ、従姉弟なんだっけ」
「うん。これで半期の授業料払えるね」
……あれー、授業料っていくらなんだろう?
半期で100万ってことは1年で200万?
卒業までどのくらい掛かるんだろう?
人によるんだっけ?
でも、奨学金もあるらしいから、頑張れば……
「イロハ、大丈夫?」
「……お金の事考えると頭痛いわ」
「イロハはそんなこと心配しなくていいよ。ボクが一生養ってあげるから」
十三歳と思えない男前な台詞と、真摯な瞳があった。
一瞬ときめいてしまった自分が悔しい。
「もうっ! ……ジャック、紹介するわ。来て」
くしゃくしゃとメルの頭を撫でた手が少し乱暴になってしまった気がする。
まったく、心臓に悪い子だ。




