24 イロハ、関心する
「なぁ、イロハ。店の方も手伝おうか?」
留守番十一日目。
なんだか朝から暇そうにしていたジャックの突然の申し出に、私は瞬きを繰り返していた。
「薬作りは?」
ジャックがやるべきはそっちだろう。
「レシピ決まっちまえば、量産するだけなんだよ。煮込んでいる間は、放っておいても問題ねぇしな。新しいレシピを開発してもいーけど――」
「しばらくは勘弁してください」
これ以上は、私の味覚も死にかねない。
ああ、想像しただけで……うっ……
「顔色悪いぜ? 薬飲むか?」
「いらないわ」
顔色が悪い原因は、その薬だ。
悪気がないって性質悪いね。強く言えないし。
「それより、手伝ってくれるって言うならお願いしようかしら」
「おう! 任せろ」
笑顔が眩しいけれど、接客したことあるのだろうか?
うーん、まぁ、ダメそうなら離れに引っ込んでいてもらえばいいか。
――――
「ありがとうございました!」
「……」
「いい男じゃない。ふふっ、やるわね、イロハちゃん」
「おばさん……そういうんじゃないです」
「ええ、ええ、わかっているわよ」
朝の心配は完全に杞憂だった。
計算も得意みたいで、暗算間違えないし……お客様とのやり取りもスムーズだ。
そうね、ジャックのコミュニケーション能力は異常だった。
てっきり、敬語なんて使えないと思ってたのに完璧だし……なんていうか、かなりいい拾いものしちゃったらしい。
どこで働いていたか知らないけど、前の雇い主は見る目がないね。
「接客得意なのね」
「そーか? ……まぁ、師匠のとこでは、取引関係もやらされてたからな」
「これなら、ひとりでも任せられそうだわ」
たまに出てくる師匠なる人物が、どんな人なのか気になる。
トラウマになったり、私の予想が間違ってなければ飲めたもんじゃないポーションに何も言わなかったあたり……うーん、ヤバそう。少なくとも、味覚はジャック並だろう。
「いらっしゃいませ!」
先に、ベルの音に反応したのはジャックだった。
……私よりも反射神経いいんだよね。
あ、いや、こっちの世界の人の方が全体的に運動能力高い。っていうか……うん、たぶん、私が鈍いんだけど。
「こんにちは! イロハ姐さん……と、誰?」
「いらっしゃい、ダンくん。彼は、新しく雇った薬師のジャックよ」
「よろしく」
「へぇ。どうも! ダニエルっす! ダンって呼んでください」
「ダンだな! 覚えたぜ」
こうして並んでいると、似ていないけど似ている。
見た目は全然だけど、ノリが似ている。どっちもコミュ力高そうだし……まさか、ジャックもストーカー引っ掛けてきてないよね?
「今日はどうしたの? ダンくんひとりみたいだけれど」
「いつも一緒にいるわけじゃないっすよ。今日は次の冒険のために、手分けして買い出し中っす」
まぁ、必要なのは道具だけじゃないしね。
多くのゲームに出てくる装備と違って現実の装備――剣やら鎧やらは使っても使わなくても劣化していく。魔法とかかかっていれいれば別かもしれないけど、基本的には手入れが必要なのだろう。
「じゃあ、ポーションね。等級はどうしましょう?」
「下級で! 数は……ひとり十個ずつくらいっすかねぇ?」
「街の周りの魔物相手なら、ポーション使わないでしょう?」
「もういらないっすね」
「うーん、どのくらいで帰って来る予定なの?」
「日帰りっす」
うーん、どんなものだろう?
この前、外出た感じではそんなに必要なさそうだったんだよね。というか、怪我してないし。
でも、エクトルさんとジャックだったしなぁ……たぶんだけど、ダンくんたちより、ジャックの方が戦い慣れているんだよねぇ……
日帰りで行って来れる範囲なら、そんなに強力な魔物は出ないらしいし……うーん、わからん。
「レノラちゃんがいるしねぇ」
「そうなんすけど、マナポーションたっかいんすよー。クロードもバンバン魔法撃ちたがるし」
「あはは、確かに高いわねぇ」
ここだけの話だが、利率はポーションよりマナポーションの方がいい。薬師が来たので、各種薬品の原価計算したけど、マナポーションは、結構……うん。
まぁ、ジャックの場合は自分で材料確保してくるから安いのであって、実際に流通してる材料から作れば、納得の値段ではあるんだけど……いうなれば、流通の過程でコスト的な無駄が多いのだ。多くの人の手を介するから仕方ないんだけどね。
「魔力回復なら、魔核食えばいいじゃねぇか。多少なら回復するぜ」
「えっ!? アレ食べれるの?」
大抵ヤバそうな色してるけど。
なんていうか……食紅そのまんまみたいな感じ。
「薬に入れてるだろ?」
「いや……けど、アレ単体でいけるの?」
「有毒性はねぇぞ」
害はないねぇ……
味は……?
ああ、寒気がする……
「へぇ、物知りっすね! 今度やってみます」
「待って!」
「な、なんすか!?」
レノラちゃんに何食わせる気だ!
せめて、ここで味を見て問題ないことを確かめてから……ああ、最近、味覚を苛め過ぎな気がする……
「ちょっと、待ってて」
「は、はい」
離れから、ジャック御用達スライムの魔核を拝借する。
同じスライムでも、個体によってなのか種族によってなのかわからないけど、魔核の色は様々だ。ただ、共通してどの核も固すぎず柔らかすぎずで、弾力がある。
……なんだろう、何かに似ている気がする。
「なるほど! じゃあ、ポーションが切れたら、この薬草とこっちの薬草を揉みほぐして塗ればいいんすね」
「応急手当用だけどな。ポーション並の効果は期待するなよ?」
「はい! やっぱり薬師の人って薬草にも詳しいんすね」
「ポーションの技術が確立するまでは、そうやって傷を治してたんだぜ」
……失礼ながらジャックって勉強苦手そうなのに、薬草のことになると詳しい。やっぱり、好きはものの上手なれって本当なんだろうなぁ。
「おまたせ」
「おかえりー……って、魔核持ってどうした?」
「味見しようと思って」
わざとらしく唇をつり上げたジャックは、視線を逸らしたまま何も言わなかった。愛想笑いのつもりだろうか?
「これは、スライムの魔核っすか?」
「そうよ。どれがいい?」
一応、全部の色を持ってきてみたのだ。
こうしてみると結構綺麗な気もする。……私の味覚を殺してこなければだけど。
「俺も貰っていいんすか?」
「もちろん」
生贄は多い方がいいからね。
「ありがとうございます! じゃあ、いただきまーす」
何も疑っていないダンくんに、なんだか心が痛んだ。
……笑顔が眩しい。ごめんね、生贄とか思って。
その笑顔が消えたのは、遅ればせながら私も魔核を齧った瞬間だった。
「……味、ないっすね」
「そう、ね……」
ああ、これ知ってる。
コレはアレだ。
甘くすれば、馴染の――
『こんにゃくのゼリー』
この弾力のある歯ごたえは、こんにゃく使っているゼリーのソレだった。
つまり、スライムの魔核は、こんにゃくのゼリーの味が無いバージョン。
以外にまともだ。食べれなくはない。
「えっ? なんすか?」
「こん……?」
「いや、何でもないわ。歯ごたえのあるゼリーみたいね。甘く味付けをすれば美味しいかも」
「おっ! 練り直してみるか? ……魔核そのままだと魔力の回復量も落ちるしなぁ……その辺も調整して」
「楽しそうっすね! 試作品出来たら味見してもいいっすか?」
「おう! いいぜ」
話を振った挙句、盛り上がっているところ悪いんだけど、練り直したらそれはもう固形のマナポーションなのでは?
楽しそうでとても突っ込める雰囲気ではないし、別にいろいろ試行錯誤してくれる分にはいいから、楽しそうな二人を見ていた。
……うむ、固形の回復薬かぁ。
上手く売り出せば売れたりするのだろうか?
……すぐには思いつかないけど、そのうち使えるかもしれない。




