22 イロハ、奨められる
「イロハさんって、変なこと知ってますよね」
「えっ?」
変なこと……?
突然、そんなことを言いだしたのは、最近よく来てくれるサラちゃんだ。茶色の髪に青い目のなかなか愛らしい彼女も冒険者で歳は十七、八位だと思う。冒険者としては、半年くらい前から活動しているらしい。
今日はサラちゃんひとりだけど、一緒に冒険している子たちと一緒に来てくれることもある。価格で言えば、某ナルシストのところの方が安いけど、アットホームな雰囲気がいいとウチを贔屓にしてくれているのだ。ありがたい。
「あっ! その変な意味じゃなくて……えっと、学校で教えてくれるようなこと知らなかったり、かと思えば、冒険のことやたら詳しくて上級の魔物のこと知ってたり」
ああ、そういうことか。
学校には行ってないから、学校で教わる知識はない。逆にこんな商売をしているので冒険のことには自然と詳しくなってしまう。おじいちゃんも酔うといろいろ話してくれるしね。
「保存食の美味しい食べ方とかも――あ、これホント助かってます。冒険中のご飯って大事ですよね」
「……やっぱり、味って大切よね」
「はい!」
ですよねー。
因みに、度重なるジャック特製ポーション試飲のお陰で私の舌は死にそうだ。味覚狂いそう。
「そういえば、サラちゃんたちは倒した魔物の肉とかってその場で解体して食べたりする?」
「しないですよー。というか、出来ないんですけど」
「どうして?」
「解体方法がわからない!」
力強く言い切ったサラちゃんは清々しいまでにいい笑顔だった。
いいのか? 冒険者。
「じゃあ、魔物倒しても魔核とか取って来るだけ?」
「まさか! もったいないですよ。魔物は死体ごと持って帰って来て専門の人に解体してもらいます」
重くないかと思ったけど、パックバックとか使えばそうでもないか。
……あー、でも可愛い女の子――それも笑顔が似合う裏表のなさそうな少女のバックから魔物の死体が大量に出てきたらやだな……その澄んだ青い瞳に何か隠れているんじゃないかと疑っちゃいそう……
「そんなのもあるのね」
「はい。解体ギルド――じゃないや、加工ギルドもありますよ? 学校で教わってませんか?」
「私、こっちの学校には行ってないのよ」
「あれ、よその国出身だったんですか」
というか、よその世界なんだけども。
「まぁ、そんなところね」
「……? もしかして別の世界から来たとかですか?」
「そうよ。わかる?」
「へぇ! 全然わからなかったです! イロハさん言葉お上手ですね」
それは来た時から何不自由なくなんだけど、みんながみんな来た瞬間からこの世界の言葉を話せるとは限らないらしい。
ちなみに、この世界の言語は共有言語がひとつあるだけだ。極稀に、私みたいに異世界からきた人が使っている言葉を母国語としている国もあるらしいけど、本当に珍しいことらしい。
「学校行った方がいいですよ! アプマーシュの住人登録は済んでいますよね? 授業料なしでいけますよ!」
「! そ、そうなの!?」
えっ、何それ初耳。
コレは、行くしかないんじゃないか?
あー、でも時間がなぁ……
「はい。もっとも、無料なのは日曜日の基礎知識講座のみですけど」
「基礎知識講座って?」
「この世界で生きていくのに必要な知識とか、読み書きとかですね。……あれ? でも、イロハさんって読み書きも出来るし、普通に生活する分には困らない程度の知識はありますよね? 偏っているけど」
一言多い気もするけど、その通りだ。
流石に一年くらいいれば、ある程度の知識は備わる。例え、偏っていようともね。
「じゃあ、必要ないですね。基礎知識講座じゃ、魔法までは教えてくれないし、ギルド周りの知識とかは中級知識講座とかからだったはず。因みに、基礎知識講座以外は有料です」
「そうなの……」
それは残念だ。
ギルド周りの知識はニコラとかに聞けばいいけど、魔法はなぁ……
実をいうと、ちょっとばかし魔法に興味がある。元の世界にはなかったものだし、装飾品売るにももう少しばかり知識が欲しい所だ。
「ちなみになんだけど」
「はい」
「魔法具に関する知識だったら、どの学校がおすすめとかある?」
「魔法具ですか? んー、使うんだったら、冒険者向けの講義があるところですけど、作るんだったら……レヴール魔法学園の魔法具師専科ですね」
なんかヤバそう。
気軽に通える感じしないんだけど。
そこまでガチガチな感じじゃなくていいんだけどなぁ。こう、好きな時にちょっと行って帰ってこれるくらいなのがいい。
「単位制で、必要単位取れば卒業なので、気がむいた時に行って適当に単位取れば卒業できますよ」
「……えっ、そんな感じなの?」
確か、義務教育に似たやつもそんな感じだった。
こっちの教育緩くない?
……あ、いや、職業もそうか。兼業・副業当たり前だし。
「はい! あたしのお姉ちゃんが通っていたんですけど、ふらーっと気がむいた時に行って卒業してましたよ。あっ、魔法具師専科じゃなくて、魔法師専科だったんですけどね」
「へぇ、私も行ってみようかしら」
「いいと思いますよ! そしたら、もっと手軽に買える装飾品作って置いてくださいね」
あ、ごめんね。
どうも、おばあちゃんの作った装飾品は、上等すぎるモノらしい。この品質にしてはお安いけど、冒険を始めたばかりの人には手が出さないモノだとか。
っていうか、値段の見直ししないと……!
「はっ! もう、こんな時間! ごめんなさい、話込んじゃって」
「こちらこそ、引き止めてごめんなさいね。お話聞けて楽しかったわ」
「えへへ。また、来ますね!」
「お待ちしております」
サラちゃんは、買った物を抱えて元気よく帰って行った。
元気いっぱい手を振る姿が可愛い。
さて、適当な時に行くだけなら、魔法具師専科も考えてみようかな。
自分で作れるなら、おばあちゃん不在の時でも、装飾品の補充が出来るし、魔法具を見る目も養えそうだしね。




