20 イロハ、怒られる
無事に街に戻ったのは、日も完全に暮れた後だった。
魔物もなんとかなったし、思ったより街の外は怖い所ではなかったかな。油断大敵だけど。
黄昏石は二十七個あった。
倒した数より明らかに多い。っていうか、乱獲じゃないかと思ったけど、しばらくするとゴミの様に湧いてくるらしい。生き返るのとはまた別みたいだけど、その辺は学者様でもよくわかってないとか。
そして、黎明石も五個ほど見つけた。
コレは、黄昏の切端によく似た性質の黎明の切端から取れるものらしい。誰かが倒したのか、自然にお亡くなりになったのかわからないけど、ちらほらと落ちていたのを拾ってきた。
それぞれ、500E~10万Eで売れるらしい。大きさとか、性質とかいろいろその他によって変わるらしい。
因みに、スライムの魔核とかだと袋一杯集めても200Eとかだ。
「大きい方がいいとかじゃないの?」
「基本的にはそうですが、最も価値があるのは極小で純度が高い物です」
純度とは何ぞやと思ったけど、性質とかそういうその他いろいろの部分だろう。今聞いても覚えられないから置いておく。
でも確かに、小さ過ぎる物の方がキラキラしている気がする。そういうことなのだろう。
「コレとコレと……あと、コレとか?」
「僕は鑑定士ではないのでわかりませんが、大きさ的にはそうですね」
「へぇ。とりわけどうしよっか」
私、誤爆して石拾ってただけだしなぁ。
でも、最大一個で10万Eでしょ? 1000万の100分の1だけど、借金返済には役立つよなぁ……
いや、商売で返したいんだけどね。
「俺、薬草と核あればいーんだけど、もらっていいか?」
「構いませんよ」
「じゃあ、その他の素材はエクトルさんのだね。石どうしよっか?」
「いいんですか?」
「うん」
特にいらないし。道具屋で置くのは、加工後の物だ。
それに、倒したのほとんどエクトルさんだしね。
「では、黎明石はイロハさんがもらってください。黄昏石はいくつか頂けると助かります」
「えっ、いいの?」
とはいえ、そんなに必要ないかな。
あ、でも記念に一個ずつは欲しい。それは一番キラキラしてるのにして……二十個はあげちゃおうか。助けてもらったし。
光ってるのばかり貰ってもアレなので適当に残す。
「こんなにいいんですか?」
「私、冒険者じゃないもの」
取り分も決まり、ちょうどいいタイミングで家が見えてきた。遅くなってしまったし、荷物を置いたら酒場で夕食なんていうのもいいかもしれない。まぁ、今日の取り分は全部消えるかもしれないけど。
そんなことを考えていると、家の前に居たソレがこちらを振り返った。座り込んでいた姿勢からユラリと亡霊のように立ち上がる。
エクトルさんとジャックは警戒していたが、その正体を私は知っていた……
「イーローハーちゃぁーん」
その人は、普段からは考えられない俊敏な動きで私に飛びつくと絞めつけてくる。抱きしめるというより、関節技決める勢いだ。
「ばぁかぁ! 昨日来てくれないしぃ! 今日来るっていうから待ってたのにぃぃいい」
「ご、ごめんね」
すっかり忘れていた。
ごめんなさい。
彼女――イルゼお姉様は、懇意にしているアクセサリー屋の店主にして制作者だ。つまり、ひとりでやっているのだけど。
ふわふわした蜂蜜色の長い髪に桃色の瞳と、ふんわりした見た目通りの人で、中身もふんわりしている。実年齢はたぶん三十前後だ。とても、見えないけど。
可愛いモノと綺麗なモノ、あと女の子が大好きで、年下の子にイルゼお姉様と呼ばせることを生き甲斐にしていた。……女の子大好きの、ダイスキのベクトルがどこにむかっているのかは、今のところ聞いていない。ちょっと怖いから。
「むぅー。どこに行っていたのかなぁ?」
「コレを探しに行っていたの。イルゼお姉様にあげようと思って」
我ながら素晴らしい嘘だった。
そして、咄嗟に一番キラキラしていた黎明石と黄昏石を隠した私は、がめついのかもしれない。
「私に? わぁ! イロハちゃんありがとうっ」
唇を尖らせていたのを一転、満面の笑みを浮かべた。街燈に石を透かしている姿は、愛らしい。
「ふふっ、イロハちゃんのプレゼントはいつも高品質よねぇ……お揃いのネックレスかなぁ……ブレスレットも捨てがたいけど……ピアスも……」
けれど、その瞳は職人の目をしていた。
アクセサリー作りの腕は一流なんだよね。
「お前、姉ちゃんいたのかよ」
「いや、違うわよ? 懇意にしてるアクセサリー屋の人」
どう見ても似てない。
髪や瞳の色彩はもちろん、顔立ちだって全然。
「ところでイロハちゃん、この格好良い人達だぁれ?」
「こちらが、エクトルさん。贔屓にしてもらってる冒険者。で、あちらが、ジャック。新しく雇った薬師」
「イルゼよ。イルゼお姉様って呼んでね」
あっ、この人イケメンなら男でもいけるくちか。
年下でお気に入りの子にイルゼお姉様って呼ばせたがるからね。
「よろしくな。イルゼ」
「お・ね・え・さ・ま」
「イ、イルゼオネエサマ」
ジャックが引いてる。
いかにジャックのコミュニケーション能力が高くてもイルゼお姉様には敵わないらしい。
片言のオネエサマが、なかなか気に入ったらしくイルゼお姉様はご満悦だ。
「よ、よろしくお願いします、イルゼお姉様」
「はぁい。よろしくね」
ジャックで学習したエクトルさんは、いつもの笑みを浮かべようとしていた。
……そのうち慣れるよ。
「三人で冒険してきたのねぇ。両手に花じゃない。ふふっ」
別にときめくようなこともなかったけど、イルゼお姉様はしたり顔でニヤニヤしている。
「せっかくだから、夕飯食べに行きましょう? お姉様が奢ってあげるっ」
「タダメシ! っしゃ!」
「ふふっ、ジャックくん、かわいいわねぇ」
「いえ、出していただくのは……」
「いいのよぉ。お姉様に甘えなさい」
タダメシはいいんだけど、この人と一緒に食事に行くと大変なんだよねぇ……まぁ、夜の酒場なら大丈夫かなぁ……いや、逆にアレかな……
とはいえ、どうもこの不安が的中する気しかしない。
そもそも、イルゼお姉様が連れていってくれるのって、酒場より庶民派のレストラン――むこうで言うファミレスみたいなところだろう。
「いいでしょ? イロハちゃん」
「お言葉に甘えます」
タダより高い物はないけど、取り分あげちゃったし、ねぇ……




