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鉱石の花〜転生先は愛読書の中、知らない令嬢でした〜  作者: 花箋
第二章 気弱で泣き虫なアクアマリン
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第四話 水と油

《ノエル・スチュワート視点》

 お姉様の顔見知りがいらしたと聞いたとき、クロエお姉様がとられてしまうと思った。婚約できる年齢まではまだ数年あるけれど、もしお姉様に婚約者ができればきっと私だけのクロエではなくなってしまう。自分でも幼稚で身勝手な思いだとわかっている。けれど、花畑で抱きしめてくれたあの温もりは私を確かに救ってくれた。家族以外に心を開くことを諦め、絶望の淵にいた私を掬ってくれた。目が見えない私にも気味悪がらずに寄り添い、石魔法を使ってみせても利用価値で見るのではなく純粋なお礼として受け取ってくれた。

 優しいお姉様。あたたかいお姉様。大好きなお姉様。私の、お姉様。まだ一ヶ月も経っていないのだ。せめてもう少し、もう少しだけ。私だけのお姉様でいてください。


 実際にアーサー様と会って最初に思ったのは、とにかく波長が合わない相手だということ。それに、どう見てもお姉様を狙ってる。お姉様の婚約自体、私は絶対に嫌だったけれど、この人だけは本当に無理!悪い人ではないのだと思ったが、成すことが癪に障る。多分、根本的に性格が合わないのだろう。水と油のように。

 お姉様は気づいていないが、アーサー様の言動には絶対に他意がある。私は心に決めた。この人のアプローチからお姉様を守る。それが私の使命!


 アーサー様たっての希望で部屋には私と彼が残った。メイドは控えているが、実質2人きりだ。

「それで、アーサー様。私に何かご用で?」

「ノエル様。単刀直入にききます。なぜ私のプロポーズを遮ったのですか」

「当たり前でしょう。お姉様に変な虫がついてはいけませんから」

 彼が舌打ちをする。なるほど、これが本性か。

「アーサー様、私は耳がいいのです。何せ目が見えませんからね。あなたの舌打ちももちろん聞こえております」

 隠す必要はありません、と何気に伝える。よろしい、真っ向勝負だ。少し前までは相手が誰であれ人見知りをしていた私が嘘のようだ。お姉様は目の見えない私も受け入れてくれると思うと、不思議と今まで感じていた緊張はなくなった。今私の心にあるのは目の前のアーサー・フェアモントへのライバル意識だけ。

(今、お姉様に一番近いのは私です。それは譲れません!)

「…なるほど。つまりあなたは僕の恋敵というわけだ」

「そうですね。お姉様は私のことを愛(・)し(・)て(・)くださっていますから、私は寄ってくる虫を払うだけですわ」

「あなたは人見知りな方だと聞いていたが、どうやらかなり手強いようだ」

 面白そうに言う彼を、ふんっと鼻で笑う。

「あなたこそ」


 フェアモント侯爵家は代々王族の護衛騎士を輩出する家。そのくらいは貴族の子供なら大抵知っている。私は生まれつき目が見えないが代わりに他の五感がよくきき、記憶力もいい方だ。内向的な性格も相まって人と遊んだり話したりするよりも勉強や読書が好きだったから、お父様に頼んで勉強を見てもらっていた。そのときに他家の子息についても父が教えてくれることがあったのだ。

(当時は他人のことなんてほとんど興味がなかったけれど、こういうとき役に立つものね)

 アーサー・フェアモントは石魔法と水魔法の使い手。今でこそ文武両道として知られている彼だけれど、昔は剣術が苦手で評判も良くなかったはず。あまりの変貌ぶりにお父様も驚いていたのを覚えている。あれは確か5、6年ほど前だったか。

(アーサー様はお姉様との初対面は5つの頃だと言っていたわ。そう考えると時期が合う。彼も変わるきっかけをお姉様からもらっていたのかも)

 考えれば考えるほど、彼の境遇は私に似ている。彼もそう思い至ったようで、大きなため息をついた。

「ノエル様もクロエにすくわれたんだろう?全く、彼女はどこまでお人好しなんだ…」

「あなたもそうなんだから、よく知っているのでは?きっと弱っている人を放っておけないのです」

「それはそうだがな。あなたに言われるのはなんだか癪だな」

「私のセリフです。きっと同族嫌悪のようなものでしょうが…あなたとは馴れ合えそうにありません」

「それは手厳しい」

「とにかく、アーサー様。あなたがどれほどお姉様に焦がれていようが、私はぜっったいに認めませんからね」

「ふふふ。それなら彼女自身に選んでもらう他ないな」

「そんなこと誰がさせますか」

 アーサー様は楽しそうにくすくす笑っているが、どうにもこの人は本心が読めない。だが同族嫌悪という私の言葉を否定しないところを見ると、彼も思うことは同じなんだろう。

(本当に、食えない人…)


「まあ僕があなたに話したかったのはそれくらいだ。僕はクロエの婚約者になる。そのためならなんだってするんだ」

「では私がすべきはそれを阻止することだけです」

「あなたは所詮妹だ。婚約者の代わりにはなれない」

 確かにその通りだが、やっぱりこんなやつにお姉様は譲れない。

「僕らはまだ幼いからね。時間をかけて仲良くなろうじゃないか。いつかはあなたの義兄(かぞく)になるんだ」

 あぁ!本当にこの人は!!

 私は黙ったまま、苛立ちを抑えながら微笑んだ。

「へぇ。では私たち姉妹の友(・)人(・)として、よろしくお願いしますわ。アーサー様」

「…あぁ。こちらこそよろしく、ノエル様」


 やっぱりこんなやつ、大っ嫌いです!

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