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鉱石の花〜転生先は愛読書の中、知らない令嬢でした〜  作者: 花箋
第二章 気弱で泣き虫なアクアマリン
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第一話 君への誓い

《アーサー・フェアモント視点》

 クロエは僕の恩人であり、初恋の相手だ。


 僕が生まれたフェアモント侯爵家は、代々王族の護衛騎士を輩出する家系だ。四男である僕は兄たちほどの期待はされなかったが、幼い頃から当たり前のように講師がつけられ剣術の授業が行われた。

「アーサー!また書庫にこもって本ばかり読んで!そんな時間があるなら少しでも鍛錬を積んだらどうなんだ」

「アーサー様はお兄様方に比べて剣術の才がないようです」

 僕は不出来な子だった。昔は鍛錬にも根気強く付き合ってくれた兄たちも、講師も、両親も、いつしか諦めたように何も言わなくなって。

 本だけが心の拠り所だった。本を読めばこの居心地の悪い家からいくらでも抜け出せるような、そんな気分になれた。貶されても怒鳴られてももういい。どうせ僕はできない子なんだから、もういっそ落ちるとこまで落ちればいい。本さえあればどこへでも落ちてやる。


「ねぇアーサー。もう剣術はいいから、せめてお友達はつくりましょう」

 そう乞うた母の説得で両親に連れて行かれたのは教会だった。てっきり他家の屋敷にでも行くのだと思っていた僕は拍子抜けした。スチュワート公爵家の領内にあるここはどうやら孤児院のようであるたくさんの子供がいた。うちの領内にある孤児院の運営の参考にするため視察に行くついでに、僕に同年代の子と遊ぶ練習をさせるのが目的だったらしい。両親は牧師らしき人と早々に別室へ向かった。初めて会う子供達の中に取り残された僕は、その輪に入れず、あっという間に1人になった。

(どうせこうなるんだ。僕に友達なんてできない)

 部屋の隅に佇む。孤独感に涙を堪えながらも心のどこかでこうなるとわかっていたのだろう。僕はやけに凪いだ冷静な感情のまま、備え付けの本棚に近づいた。見たことのないタイトルの本を見つけ引き出すと、それは絵本のようだった。

(こんな孤児院に小難しい本なんて置かないか…)

 絵本を読むのは初めてだった。両親から読んでもらったこともない。ずっと剣術ばかりだったし、家の書庫にあるのも小説や歴史書ばかりだから。

「その本、読むの?」

 驚いて声の方を見ると、そこにいたのは同い年くらいの少女だった。

 これが僕とクロエの出会い。


 あの後、クロエとその絵本を一緒に読んで、少し雑談をした。彼女は僕の話を微笑みながらきいて、知っている知識を披露すれば大袈裟なほど褒めてみせた。彼女のその反応が嬉しくて、僕は帰ったあとさらにたくさんの本を読んで、両親にまた連れて行ってほしいとねだった。両親は僕に同世代の友達ができたことを喜んだ。次に孤児院へ行ったとき、クロエを紹介すると両親とも彼女を気に入ったようだった。

 でも彼女は人気者だから、何度か訪れるうちに中々2人だけの時間が取れなくなった。彼女はどこまでも平等に優しい人だった。僕は急に寂しくなってにじんだ涙を拭って外の空気を吸うため外に出ようとした。

「アーサー様!」

 袖を引かれる感覚に振り返ると、彼女が僕の袖を掴んで心配そうに顔を覗き込んでいた。僕は気づいた。

(気弱で泣き虫で寂しがり屋な僕なら、彼女は気にかけてくれる。彼女はそういう子供を放っておけないんだ…)

 口元が緩むのがわかったが、それをなんとか抑えつつ弱々しい顔を装う。

「クロエ…」

「アーサー様、せっかくいらしてくれたのにお話できなくってすみません」

「うん…寂しかった…」

「大丈夫ですよ。クロエがいます。また一緒に絵本でも読みませんか?」

 笑って頷く。できるだけ庇護欲をそそられるような、笑顔。

(クロエ、僕は君と一緒にいるためにどんな手でも使う。強くなって迎えにくるよ)


 僕は苦手だった剣術の鍛錬にも自分から取り組むようになった。王族の護衛騎士なんかに興味はないけれど、彼女に誓ったように強くなるために努力は惜しまない。侯爵家とはいえどうせ四男だ。兄たちの誰かが家を継ぐだろうし、誰も文句が言えないほど実績を積めば彼女と家族になることになんの支障もない。それからすぐに剣術も学術も上達し、父や兄たちの仕事を手伝うほどまでになった。孤児院に行ける頻度は減り、石魔法の適性が判明してから数年は隣国へ留学に行っていたため彼女に会えていなかったが、クロエのことを忘れたときなど一瞬たりともなかった。


「アーサー、前に行っていた教会の孤児院、覚えてる?あなたの仲良くしていたクロエさん。公爵家に引き取られたらしいの」

「…え?」

「優しいしっかりしたお嬢さんだったものね。きっとノエル様を支える素晴らしいお姉さんになるのでしょうね」

 クロエが、公爵家に。大丈夫、驚いただけだ。計画とは違うが、かえって都合がいい。彼女の婚約者になればいいのだ。この国では婚約できるのは15歳から。あと5年程度、彼女を狙う変な虫がつかないように守ればいい。

「…アーサー?どうかしたの?」

 心配そうな母に笑いかけ、大丈夫だと伝える。

「お母様、少し相談がありまして…」

「相談?」

「えぇ。ほんの少しのわがまま(お願い)を」

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