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鉱石の花〜転生先は愛読書の中、知らない令嬢でした〜  作者: 花箋
第一章 盲目のアメジストと白詰草のティアラ
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第二話 花冠

 ノエル様の手を引いて私が向かった先は花畑だった。教会の裏の小さな花畑。ちょうど咲き始めた白詰草が絨毯のように広がる、お気に入りの場所。


「着きました。疲れてはいませんか?少し休憩しましょう」

 私はハンカチーフを取り出して地面に敷き、その上にノエル様を導く。恐る恐る腰を下ろす彼女が安心できるように、そっと背に手を添えた。柔らかい風が頬を撫でる。彼女は相変わらず口を閉ざしたままだ。

「ノエル様、改めて自己紹介をさせてください。私の名はクロエ。歳は再来月で11になります」

 私の声は聞こえているのだろうが、いかんせん反応がない。ただ、私は彼女の口が、「クロエ」とほんの少しだけ形づくったのがわかった。私は嬉しくなって、話を続けた。

「はい、クロエです。クロエはノエル様とお友達になれたら嬉しいのです」

 お友達、という言葉にピクリと肩を揺らして、彼女はより縮こまってしまった。何かいけないことを言ってしまったのだろうか。もしかして夫妻はああ言ってくれたが、やっぱり公爵令嬢様が孤児と友達なんて嫌だろうか。わずかに悲しみがよぎったが、まだ彼女は何も言っていないのだから、別の理由があるのかもしれない。私はもう一度、彼女の表情を窺ってみた。


 怪我をした子供のようだと、直感的にそう思った。彼女が恐れているのは悲しみでも怒りでもなく、痛みだと思った。

 私がまだ5つくらいのとき、頻繁に教会に来ていた貴族の子息がいた。どこの家の子だったかも覚えていないけれど、同い年だった彼は気弱で泣き虫で、他の男の子たちの輪に混じれずによく私に泣きついていた。子供は良くも悪くも純粋だから、自分と違う相手を拒絶してしまう。彼の場合は、運動よりも本が好きな内向的なタイプだったことが原因だった。

 そうやって拒絶されれば、心に傷がつく。みんなと同じじゃないといけないと思って、本当の自分を無理やり変形させようとする。でもそれはとても痛いんだ。

(ノエル様はお友達を作るのが苦手だと、夫人がおっしゃっていました。それはきっと痛かったからなんだろうな)

 だから、私はあの時の彼にしたことを思い出した。あの時の彼と同じ顔をしているノエル様に、手を差し伸べたかったから。

(あの子も最初は泣くばかりで何も喋らなかったな。確かよく花を結ってあげたっけ)

 私は居住まいを正して、彼女に微笑んでみせた。

「ノエル様、手を貸してくださいな」

「…っえ?」

「手を繋ぎましょう」

 彼女の両手を優しく掬う。そして大きく深呼吸をする。

「息を吸って…ゆっくり吐いて…」

 瞳を閉じて深呼吸を幾度か繰り返していると、お互いの手の温度が溶け合うようにじんわり伝わっていく。手を離す瞬間、彼女が少し名残惜しそうに指をなぞった。その感覚に安心する。

「勝手なことをして申し訳ありません」

 未だ驚く彼女に謝罪をしつつ、話を続けた。

「けれど私、思うのです。私たちは皆、息をします。私たちは皆、心があります。私たちは皆、生きています。皆、同じです」

 白詰草をいくつか摘み、編んでいく。

「私も、ノエル様も、先生も、領主様方も」

 みんなおんなじなんですよ。


 私がそう言うのとノエル様の大きな瞳から涙が溢れるの、どちらがはやかっただろう。嗚咽を堪える彼女の肩を、大丈夫大丈夫とさする。

「ノエル様、頭、失礼します」

 花冠を彼女の頭にのせると、彼女は不思議そうに頭上に手を伸ばした。花冠だと気づいて嬉しそうにそれを撫でる様子に微笑ましくなる。

「クロエ」

 初めて彼女からはっきり呼ばれた自分の名に、はいと返事をする。

「あのね、嬉しい。ありがとう。お礼に、これ」

 彼女が掌を宙にかざすと紫色の美しい石が現れる。

(石魔法?!)

 石魔法は国の中でも一握りの人間にしか使えない特別な属性の魔法。スチュワート公爵家は王家との関係も深い高貴な家柄であり、確かに石魔法が使えても何らおかしくはない。しかし、女性の石魔法の使い手はより希少だ。歴史上でもほとんどいないのではないかとさえ思う。少なくとも先生が教えてくれた魔法史の中には、聖女伝説の建国の聖女のみしか登場しなかった。それにノエル様はまだ10歳。

(この年でこれほど完成度の高い石魔法を…)

「クロエ?これ、嫌い?」

 生成した石を指で摘んだ彼女が自身なさげに問いかける。

「いえ、そんな!私の花冠なんかでは釣り合わないくらいで」

 彼女はそれに対してゆるゆると首を振った。

「私、クロエのプレゼント、すごく嬉しかった。花冠もだけど、何よりあなたの言葉が」

 彼女のストレートな言葉に思わず照れてしまう。先ほどとは打って変わって真っ直ぐに私を見つめる瞳は澄んだ紫。石と同じ色だった。

「ありがとうございます。この鉱石、見事な美しさです」

「ふふ、こちらこそ受け取ってくれてありがとう。アメジストというらしいの。母上が教えてくださったわ」

「アメジスト!まるでノエル様の瞳のようで、本当に綺麗」

「私の瞳?」

 彼女の反応は予想していたものとは違い、ただただ不思議そうだった。


「私の瞳はアメジストと同じ色なの?」

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