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鉱石の花〜転生先は愛読書の中、知らない令嬢でした〜  作者: 花箋
第二章 気弱で泣き虫なアクアマリン
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第八話 前世の記憶

 体が酷く重い。頭は痛いし、体は熱いのに心なしか肌寒い。

 こんなの大学生のとき罹ったインフルぶりだよ…

 ん?

 インフルってなんだっけ…?あれ?私は、私の名前は…



 なんとか意識を持ち上げる。柔らかい真っ白なベッド、サイドテーブルに置かれた水差しと花瓶。公爵家の私の自室だ。


「そうだ、私はクロエ・スチュワート」


 そしてここは小説『Ametrine of Magic』の中の世界。


「私、転生したちゃったんだ……」


 どうやら私は前世の記憶とやらを思い出したようです。


 ◇◇◇


 前世の私は普通の社会人だった。なんとなく大学を卒業して、なんとなく就職して、至って普通の会社で、至って普通の生活を送る、至って普通の社会人。そんな私にも趣味と呼べるものがあって、それが読書だった。『Ametrine of Magic』はネットで連載されていた小説で、私はその大ファンだった。

 だが…


「クロエって誰だろう?」


 そこなのだ。


 ノエル・スチュワートがいて石魔法も存在するということは、ここがあの小説の中であることはまず間違いない。

 けれど、小説の中ではノエルに姉は存在しないし、クロエという人物も登場しない。


「私は誰…?」


 そこまで考えて、ふと周囲に意識を戻した。今の独り言が誰かに聞かれていては無駄な勘違いを生みかねない。しかし、部屋には誰もおらず、窓をみると薄暗い空が広がっていたことから今は早朝くらいだろうかとあたりをつける。


 アーサー様、アーサー・フェアモントは名前のみ登場した。侯爵家の三男、それ以上の表記はなく、石魔法を使えるという情報もなかった。なんだかおかしい。私の存在が異質なのか、何か他に理由があるのか…


 一度状況を整理しなければ。

 小説の主要登場人物は6人。



 まずはヒロイン、ノエル。

 スチュワート家の一人娘であり国唯一の女性の石魔法の使い手。石と光という希少な属性を併せ持つ。美しい容姿に突出した魔法の才、研究者としても優れた心優しい女性。生成鉱石はアメジストで、効果は心の安寧。原作でも体は強くなかったが、盲目という設定はなかった。


 そしてヒロインと結ばれるヒーロー、カラム・トンプソン。

 平民出身だが石魔法の適性を持つ。彼の持つ属性は火と石。穏やかで明るい好青年。ノエルの研究のパートナーとなり、最後には結ばれる相手。生成鉱石はシトリンで、効果は自信の獲得。未だ出会っていないが、おそらくこの世界にいるはずだ。いつか出会う日が来るだろう。


 3人目、ノア・クラーク。

 クラーク子爵家の次男。剣の才に恵まれ、ノエル付きの従者として選ばれた青年。身体精神共に強靭で、魔法も得意。属性は石と風。ノエルのことは妹のように思っており、良き相談相手として小説でも活躍していた。確かノエルとの初対面は15だったから、小説通りなら出会うのは5年後だ。


 4人目、オリヴァー・ガルシア。

 ガルシア公爵家の一人息子で、次期宰相とも言われる秀才。眼鏡の似合う美青年ながら、いつも過労気味。小説ではノエルとカラムの研究を精力的にサポートしてくれ、いわばサポートキャラ的なポジションだった。彼と出会うのは学園だったが、若くして研究で名を馳せる彼のことだから噂などで存在は確認できそうだ。


 残りの2人は双子の王子だ。第二王子ウィリアム・シンクレアと第三王子シリウス・シンクレア。

 ウィリアムは多すぎる魔力が暴走を繰り返し、石と闇という攻撃力の高い2属性を持つことも相まって嫌厭されるようになってしまった。シリウスは水魔法を得意としていたが、王族にも関わらず成人しても石魔法が使えず、出来損ないのレッテルを貼られたまま生きていた。彼らには兄である第一王子セオドアがいたが、病弱だった彼は11歳の若さで帰らぬ人となり、2人はさらに心を閉ざしてしまう。そんな彼らをノエルらが研究を通して救っていく。



 思い出してみると、意外と覚えているものだな。そう思いながらも、私は大きく息を吸い天を仰いだ。


「私、めっちゃ介入しちゃってない…?」


 というかまずクロエって誰だ…。

 深くため息をついたあと、私は自分の容姿に目を向ける。焦茶色の髪。桜色の瞳。ノエルに比べると華やかさに欠けるが、こうしてみるとなかなかの美少女だ。今になって愛読書の世界に来てしまったことを実感し、嬉しいような不安なような複雑な気持ちになる。私もみんなが使う魔法が使えるんだろうか。魔法なんてフィクションのものでしかなかったから、少しワクワクする。



 さっきまで薄暗かった窓の向こうから太陽が降り注ぐ。


「朝か…」


 体を起こしてそう呟いたとき、同時に部屋のドアがノック共に開いた。


「失礼しま…っえ?」


 入ってきたレナが私をみて固まってしまった。


「おはよう、レナ」

「お…嬢様?」

「?うん、おはよう」

「お目覚めになったのですね!」

「えっあぁ、ついさっき」

「すぐに旦那様と奥様に知らせて参ります!」


 レナが瞳に涙を溜めて部屋を出ていく。


(そういえば、あの洞窟でノエル様とアーサー様と眠ってから記憶がない…体も少しだるいし…)


 2人は無事なんだろうか。後でレナが戻ってきたら聞いてみよう、なんて呑気に思っていた私の部屋に血相を変えたお父様たちが飛び込んでくるまで、あと数分。

『Ametrine of Magic』のあらすじはプロローグにあります。

よければ読んでみてくださいね。

一応原作として用意してあるので、いつか公開するかもしれません。

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