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鉱石の花〜転生先は愛読書の中、知らない令嬢でした〜  作者: 花箋
第二章 気弱で泣き虫なアクアマリン
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第九話 不仲同盟

《アーサー・フェアモント視点》

 公爵家と侯爵家の捜索隊に保護された翌朝、僕はノエル様と何があったかを公爵様や父たちに説明していた。今回クロエたちを巻き込んでしまったのは僕の深追いが原因だと頭を下げれば、逆に公爵様から巻き込んでしまったのは我が家の方だと謝罪を返されてしまった。メイドらの証言もあり、公爵家の敷地内に魔物が現れたことは明白。クロエは昔の僕の恩人であり幼馴染である。両親も面識があり彼女のことを気に入っていたため、フェアモント侯爵家としても何か協力しようと父が申し出た。


 僕とノエル様は父たちが話している間、クロエのそばにいようと彼女の寝室へと向かうことにした。 熱は下がったものの彼女は未だ目が覚めない。ベッド脇の椅子に腰掛け、メイドたちが出ていくと、僕たちの間には沈黙が流れた。先に口を開いたのはノエル様だった。


「私、すごく情けないんです。石魔法も光魔法も、目が見えなければ使い物にならなかった」

「…」

「アーサー様を追っていたときだって、お姉様は私の手を引いて気遣いながら走っていました。雨が降り始めても目が見えない私が怪我をしないように真っ先に安全な場所に…」

「あなたの責任ではない。今回のことは僕の…」

「そうだとしても…ッ!クロエお姉様は私を救ってくれたんです。だからその恩返しをしたいのに…私はお姉様の足手纏いにしかなれない」


 ノエル様は唇を噛み締めて、涙を堪えるように顔を歪める。


「僕だって無力だったさ。彼女のために努力した剣術だって、魔法だって、何も役に立たなかったんだ。最後まで守り抜くどころか、自分から危険を追いかけて。最後にはまた彼女に助けられてしまった」


 彼女は僕の言葉を聞いて苦く笑った。


「私たち、似たもの同士ですね」


 驚いた。正直彼女とは馴れ合えないと思っていたし、同族嫌悪に近い感情だって持っていたのは事実だ。似たもの同士なんて、そんな可愛らしいものではないけれど。


「ねえ、アーサー様。同盟を組みませんか?」

「…同盟?」

「はい、あなたも私もお姉様を守りたい。助けたい。恩返しがしたい」

「そのための協力関係を結ばないか、と?」

「えぇ。あなたが気に食わないのは本当ですが、互いに利点はあるでしょう」


 その通りだ。利点はある。性格の合わなさ以外の問題はないも同然だ。


「ちょうどお父様がたも手を組むようですし」

「…あぁ。その話乗った」

「では成立ですね」


 署名も証人もいない、たった1人のための2人きりの同盟。部屋の中にはクロエの呼吸だけが小さく響いていた。


 ◇◇◇


 あのあと、父と共に公爵家を後にして以降も僕は頻繁にクロエの元へ通った。

 彼女はあれから3日後の朝やっと目を覚まし、身体にも異常はないそうだ。


(本当によかった。クロエが無事で、本当に)


 当初の目的だったクロエと婚約するための囲い込みはノエル様のせいで失敗に終わったが、同盟といい得るものはあった。

 それに今回で自分がいかに無力かを実感した。僕は父や兄たちほど騎士としての才に恵まれなかったから、いくら努力補ったとしても差は生まれてしまう。

 精神的にも未熟だ。大切なものが危険に晒されたとき冷静でいられないなど言語道断。そういう弱さが命取りになる。


(あぁ。駄目だ。思考がマイナスに偏ってしまう)


「よし」


 なんとか暗い思考を振り払い、立ち上がったとき。ちょうどそのタイミングでノックが響いた。


「失礼します。アーサー様宛にお手紙でございます」

「手紙?」


 メイドの手から一通の封筒を受け取り、差出人を見る。美しく丁寧な「クロエ・スチュワート」の文字に心臓がどくりと高鳴った。

 メイドが退室したあと、急いで封を切る。淡い水色の便箋に綴られた内容は、あの日の感謝から始まり、クロエらしい穏やかな調子であれからの公爵家の様子などが書かれていた。

 そして最後。


 アーサー様、お花の栞を作り直しました。あなたとの思い出の一つとしてまた重ねられたら幸いです。


 添えられた栞。花は勿忘草だ。

 あぁやっぱり僕はあなたのそういうところが大好きなんだ。僕が道に迷ったとき、導をくれるのはいつもあなただ。

 また、僕は、救われてしまった。


(ねぇクロエ。君が僕にくれたものは大きすぎて、きっと僕の一生をかけても返せない。僕の全ては君のものだよ)


 勿忘草の栞を大切に手帳に挟んで胸ポケットにしまう。心臓に一番近い位置。拍動を繰り返すたびに、勇気がみなぎるようなそんな気がした。

 僕は彼女に好かれるために気弱で泣き虫な自分を演じていたと思っていたけれど、案外それは僕自身の本当の姿だったのかも。


 自室のベッドに腰掛けて瞳を閉じる。なるべく深く大きく深呼吸。あのときクロエがしてくれたように。


 才がなんだ、未熟がなんだ。言い訳はよせ、アーサー・フェアモント。父や兄たちを超えられなくても、努力を続ける。それができなくてなにが守るだ。なにが救うだ。騎士として超えられないなら魔法を使え。

 不格好でも情けなくても、上等だ。クロエの助けになるためなら、僕はなんだってする。なんだってできるんだ。


 瞳を開き、机に向き合う。クロエに返事を書こう。僕が僕であるために、僕は彼女を愛するんだ。

第二章、終わりです。

次は第三章ですが、

その前に、設定と登場人物のまとめを投稿予定です。

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