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【続5話】 迷宮渓谷の追撃戦と、影のくノ一レン華

黒鋼都市での激闘から数日後。


俺たちはアイリスの操縦する高速魔導艇に乗り込み、大陸東部に広がる峻険な山岳地帯『龍鳴峡』の上空を旋回していた。


「クロエ、聞こえるか? 現場近くに到着したぞ」


俺が通信機に呼びかけると、エリア・ゼロで待機しているクロエの可憐な声が返ってきた。


『はい、ハルトさん! センサーの反応によると、レン華さんは龍鳴峡の最奥にある廃遺跡へと追い詰められているようです……! 追手は数百人規模の賞金稼ぎや過激派の男たちで……!』


「数百人だと……!? 単身で逃げ続けている女の子一人に、群がりやがって……!」


俺が拳を握りしめると、隣に座っていたヴァルキリアが豪快に鼻で笑った。


「フン、相変わらず群れなければ何もできん愚か者どもめ。ハルト、私に命じれば黒鋼都市の軍勢を投下してあやつらを灰にしてやるぞ?」


「いや、それだと時間がかかる。俺たちで直接突入した方が早い」


「ふふ、言うようになったな相沢ハルト。その決断力、嫌いではないぞ」


不敵に微笑むヴァルキリアの横で、セシリアが扇子を優雅に揺らしながらため息をついた。


「まったく、ヴァルキリアはすぐに力任せな解決をしようとしますのね。ですが……わたくしも同感ですわ。女一人を大勢で追い詰めるような卑劣な男たち、わたくしの極光魔法で焼き尽くしてさしあげます!」


ふたりの頼もしい美姫——軍総督ヴァルキリアと聖皇国の姫君セシリア。


俺の左右を固めるふたりの存在に背中を押されながら、俺は大剣の柄を固く握りしめた。


「アイリス、降下ポイントを指示してくれ!」


「了解。目標地点、龍鳴峡・廃祈祷所。……これより強行降下を開始します」





切り立った断崖絶壁に囲まれた、薄暗い廃遺跡。


「はぁ……はぁ……っ……!」


漆黒の忍び装束に身を包んだ少女——【影のくノ一】レン華は、荒い息を吐きながら刀の柄に手をかけていた。


長い黒髪を一つに束ね、透き通るような白い肌と切れ長の美しい瞳を持つ可憐な少女。しかし、その全身には連戦による擦り傷や切り傷が刻まれ、黒い衣装の端々が破れて痛々しく血に染まっていた。


「ヒヒヒッ! 観念しろ、レン華ちゃんよぉ!」


「世界にたった5人しかいねえ『本物の女』なんだ! お前さえ捕まえりゃ、一生遊んで暮らせるんだよッ!」


彼女を取り囲むのは、ギラギラとした卑しい欲望を瞳に宿した百人を超える賞金稼ぎや無法者

たち。


「……愚か者め」


レン華の口から漏れ出たのは、氷のように冷たく、けれど澄んだ声だった。


彼女は感情を一切表に出さない無表情のまま、静かに刀を抜き放つ。


「私は……誰の道具にも……ならない」


シュバッ!!


影のようにブレた瞬間、レン華の姿が消えた。


直後、先頭にいた男二人の首筋から血が吹き出し、崩れ落ちる。100年前の忍びの血を引く彼女の体術と剣技は極限まで洗練されており、一瞬で敵の隙を突く。


だが——。


「くっ……!?」


着地した瞬間、レン華の膝ががくりと折れ曲がった。


数日間に及ぶ不眠不休の逃亡、戦闘により、彼女の体力と魔力はすでに限界を超えていたのだ。


「ハハッ! 足がついていかねえぞ! 捕まえろッ!!」


「嫌がるお前を無理やり抱きつぶしてやるぜぇッ!」


無数の男たちが、獣のような咆哮を上げて傷ついたレン華へと襲いかかった。


レン華は歯を食いしばり、最後の力を振り絞って刀を構える。


(……ここまで、か。……父様、母様……私は……)


死を覚悟し、静かに瞳を閉じかけた——その時。


「不浄な男どもッ! わたくしの前に立ちふさがる非礼、死をもって償いなさいッ!!」


ドーッン!!


頭上から降り注いだ圧倒的な光の濁流が、レン華に群がろうとしていた男たちを数十人まとめて消し飛ばした。


「な、なんだぁぁぁッ!?」


「空から……光が……!?」


パニックに陥る無法者たちの中央へ、さらに凄まじい衝撃波とともに重厚な足音が響き渡る。


「我が名は黒鋼都市の軍総督ヴァルキリア! 弱者を群れで叩く豚どもよ、私直伝の処刑を味わいたい者は前へ出ろッ!」


ヴァルキリアが放つ圧倒的なドSの威圧感と強大な覇気に、無法者たちが恐怖でひぃっと悲鳴を上げる。


そして——。


「そこまでだッ!!」


シュパッ!!


漆黒の大剣を振るい、レン華の眼前まで迫っていた敵の武器を一瞬で粉砕した俺は、そのまま彼女の細い腰を引き寄せ、背後に庇うように立ち塞がった。


「……え……?」


レン華の切れ長の瞳が、驚きで大きく見開かれる。


眼前には、漆黒の大剣を背負い、力強い背中で自分を庇う一人の男。


「大丈夫か、レン華! 追いついてよかった……!」


俺が振り返って声をかけると、レン華はぽかんとした顔で俺を見つめた。


「……男……? なぜ……私を……庇う……?」


「助けるのに理由がいるか! 俺は相沢ハルト。君を護りに来た!」


「相沢……ハルト……? 伝説の……男神の……?」


呆然とするレン華。男とは自分を追う「捕食者」でしかなかった彼女にとって、命を懸けて自分を守るために立ち塞がった男の存在は、これまでの常識を根本から覆すものだった。


「レン華、少し下がってろ! こいつらは俺たちが片付ける!」


「……っ」


俺は大剣を構え直すと、セシリア、ヴァルキリアと共に無法者たちの群れへと突入したのだった!




ほんの十数分後。


廃遺跡を埋め尽くしていた賞金稼ぎや無法者たちは、セシリアの広範囲極光魔法とヴァルキリアの圧倒的な武力、そして俺の大剣によって一網打尽にされ、誰一人として立ち上がる者は失せていた。


「ふぅ……これで全員か」


俺が大剣を鞘に収めると、アイリスが素早くレン華の元へと駆け寄り、回復薬を投与していた。


「レン華様、傷の中和および体力の緊急回復処理が完了しました」


「……感謝する、アンドロイド」


レン華は軽く体調を確かめるように立ち上がると、じっと俺を見つめてきた。


その視線には、最初に見せた警戒心や冷たさはなく、どこか深い観察と困惑の色が混ざっていた。


「……ハルト」


「ん? なんだ?」


「……なぜ、私を助けた? 私はただの影。男たちの欲望を満たす価値など……」


そこまで言いかけたレン華の言葉を、俺は力強く遮った。


「価値なんて関係ない! 君が一人の人間として生きようと必死に戦っていたからだ! 女だからとか、道具だからとか関係ねぇ……俺は、君の味方になりたいんだ!」


真っ直ぐに自分を見つめて放たれる俺の言葉。


レン華はその瞳をかすかに揺らし、それから——彼女の無表情な顔に、ほんのわずかな、けれど確かな笑みが浮かんだ。


「……変わった男だな、ハルト」


レン華はすっと俺の前に進み出ると、忍びの礼をとって片膝をついた。


「私は影のくノ一・レン華。主を持たず、ただ逃げ続けるだけの影だった。……だが、今日よりこの刃、貴方に預ける」


「え……?」


「貴方なら、私の背中を任せられる。私を……貴方の影としてお供させてほしい」


言葉数こそ少ないが、その瞳には絶対の忠誠と、かすかな熱情が宿っていた。


「ちょっと! なぜこの子まであっさりとハルトに懐いていらっしゃいますの!?」


セシリアが扇子を振り回して叫ぶ。


「ククッ、良いではないかセシリア。忠義に厚い影の忍びか……ハルトのハーレムも賑やかになってきたな」


「ハーレムって言うなヴァルキリア!」


俺が苦笑いしていると、アイリスが通信機を操作し、重大なスクープを告げた。


「ハルト様。エリア・ゼロより最終連絡が入りました。……世界に遺された最後の5人目、【不夜城の支配者】ヴェロニカ様に関する情報です」


「ついに……最後の乙女か」


「肯定します。ですが……状況は極めて複雑です。ヴェロニカ様が統べる巨大歓楽都市『不夜城ラグナロク』が、世界最大規模の男たちの連合軍によって完全包囲されました」


いよいよ残された乙女はあと一人。


最高の知略と妖艶さを誇る不夜城の女王ヴェロニカを救い出し、5人の乙女を全員揃えるための最終決戦が始まろうとしていた——!


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