↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/65

【続4話】 黒鋼都市の鉄血要塞と、軍総督ヴァルキリア

猛烈な地吹雪が荒れ狂う大陸最北方、アイゼン平原。


視界を白く染める極寒の風の中を、俺たちは魔導防寒コートに身を包んで突き進んでいた。


「くっ……なんなのですの、この常軌を逸した寒さは……! わたくしの極光魔法で温めなければ、凍えてしまいますわ……っ!」


文句を言いながらも、セシリアは暖かな光の壁を展開し、俺たちの周囲を覆ってくれている。強がりばかり口にするが、その魔法の温もりには彼女の優しさが詰まっていた。


「助かるよ、セシリア。君がいなかったら要塞に着く前に凍死してたかもな」


「ふ、ふん! あなたが凍えて動けなくなったら、わたくしが困るから暖めているだけですわ! 感謝するなら、もっとわたくしを敬いなさいな!」


ツンと横を向くセシリア。だが、その頬は寒さのせいか微かに赤らんでいた。


「ハルト様、前方二キロ地点に軍事要塞都市『黒鋼都市』を確認。要塞内部で過激派軍閥によるクーデターが発生し、ヴァルキリア様が拘束の危機に瀕しています」


アイリスが白銀の髪をなびかせながら、眼下に広がる黒鉄の巨城を指さした。


「反乱軍は内部の裏切り者を通じ、ヴァルキリア様個人に対して強力な『神経麻痺毒』と『魔導麻酔』を仕込んだ模様。彼女の強大な戦闘能力をピンポイントで削ぎ、動けないところを確保する狙いです」


「正面突破じゃ勝てないから、卑怯な手で不意打ちしたってわけか。行くぞ!」


要塞の中央大ホール。


そこはかつて、黒鋼都市の軍勢が集う厳粛な司令の間だった。だが今や、酒の臭いと過激派兵士たちの醜悪な熱気で満たされていた。


「ハハハッ! 諦めろ、ヴァルキリア総督! お前がどれだけ軍隊を率いる最強の武闘派だろうと、その身体に仕込まれた『神経麻痺毒』と『魔導麻酔』の前には無力だ!」


あざ笑うのは、反乱軍の首謀者である巨漢の男・ボルコフ。


その視線の先、黒鉄の軍服と重装甲を纏い、片膝をついた姿勢のまま動けずにいる一人の女性がいた。


短い金髪を揺らし、鋭い眼光で敵を見下す美女——【黒鋼都市の軍総督】ヴァルキリア。


かつての旧帝国軍ドS女将軍の血を継ぎ、自ら軍隊を率いてこの荒くれ者どもを支配してきた苛烈な武闘派だ。


麻酔と毒の効果により全身の筋肉が麻痺し、指一本自由に動かせない状態のはずだが、その面持ちには焦りも恐怖も一切ない。それどころか、自分を囲む男どもをゴミのように冷たく見下す不敵な笑みを浮かべていた。


「フン……毒と麻酔で不意打ちせねば私を抑え込めぬとは、相変わらず無能な豚どもだな、ボルコフ」


ヴァルキリアは身体が動かないことなど気にも留めず、凛とした低めの声で平然と言い放つ。


「私と正面から拳を交える度胸すらない腰抜けが、束になったところで何になる。この毒が抜けた瞬間、貴様らの皮を剥いで要塞の壁に吊るしてやる」


男だらけの黒鋼都市で荒ぶる軍勢を圧倒的な力とドSな残虐さで叩き伏せてきた彼女にとって、この程度の脅迫や卑劣な手など痛くも痒くもない。男耐性の高さどころか、男どもを配下か家畜程度にしか思っていない圧倒的な覇気だった。


「ぬぐっ……ぬけぬけとッ! ええい、いい気になりやがって! 毒で動けん今のうちに、その高いプライドを叩き折ってやる! 全員で交接し、繁殖の道具にしてやるぞッ!」


ボルコフが下劣な面で手を伸ばそうとした、その時——。


「汚い面を彼女に向けるなよ」


ドガアァァァァンッ!!


ホールの強固な装甲天井が激しく崩落し、漆黒の大剣を携えた俺が頭上から舞い降りた。


「ぐはぁッ!?」


直撃を受けたボルコフの部下たちが、十数人まとめて吹き飛び、壁に激突して叩き潰された。


「な……なに奴だッ!? どこから侵入した!?」


狼狽する男たちの真っ只中で、俺は大剣を一閃させ、迫り来る反乱兵をなぎ払う。背後からはセシリアの極光魔法が炸裂し、要塞の天井を突き破るほどの光柱が敵の陣形を粉砕した。


「わたくしの前で醜い欲望を撒き散らすなど、一千回死んでも足りませんわ! 吹き飛びなさいッ!」


俺は素早く前線へ駆け寄り、動けないヴァルキリアの前へ立ち塞がった。


「おい、無事か! 連れ出しに来たぞ!」


「……ほう」


ヴァルキリアは急に乱入してきた俺を見上げ、面白そうに琥珀色の瞳を細めた。黒髪と大剣、そして俺の体から溢れる高密度の魔力を一目で見抜き、ニヤリと不敵に口角を上げる。


「相沢の血か。噂には聞いていたが……良い顔をしているな、ハルト」


値踏みするように俺を観察するヴァルキリア。


「毒のせいで全身の自由が利かん。おいハルト、私を運べ」


「おいおい、人使いが荒いな」


俺は苦笑しながら、ヴァルキリアの身体をひょいと横抱きにした。重厚な軍服と装甲の重み、そしてその内側にある引き締まった肉体のしなやかな感触が伝わる。


普通のお嬢様なら動揺する場面だが、ヴァルキリアは眉一つ動かさず、俺の首に腕を回して堂々と身を委ねた。


「ふむ、悪くない腕筋だ。落としたら処刑するぞ?」


「落とさねぇよ! セシリア、アイリス、脱出するぞ!」


「ちょっと! なんでその女、そんなに威張っていらっしゃいますの!? 早くここを脱出しますわよ!」


セシリアが爆風を巻き起こしながら叫び、俺たちは追撃をなぎ払いながら要塞の奥深くへと突進した。






要塞最深部の緊急退避壕。


分厚い扉が閉まり、一時的な安全が確保された。


「アイリス、ヴァルキリアの解毒を頼む」


「了解。ヴァルキリア様の体内に投薬された神経麻痺毒および魔導麻酔の中和処理を開始します」


アイリスがヴァルキリアの首筋に専用の解毒中和剤を注入すると、数分もしないうちに体内の毒成分が分解され、彼女の指先に活力が戻り始めた。


「ふぅ……よし、身体が動くようになったな」


ヴァルキリアは豪快に背筋を伸ばすと、バチバチと全身から強烈な覇気を溢れ出させた。


「ハルト。助けを求めた覚えはないが、お前が余計な世話を焼きに来てくれたおかげで手間が省けた。褒めてやる」


「別に褒めて欲しくてやったわけじゃない。……男たちの欲望の道具にされるのを指くわえて見ていられなかっただけだ」


そう言って笑う俺を見て、ヴァルキリアは感心したように不敵な笑みを深めた。


「ククッ……良い目だ、ハルト。100年前の『男神』の血を引くというから、もっと増長した男かと思っていたが……気に入ったぞ」


ヴァルキリアは力強い足取りで俺に歩み寄ると、一切の躊躇なく俺の肩をパンと叩いた。


「私は黒鋼都市の軍総督ヴァルキリア。お前のような骨のある男なら、私の相棒として側に置くに相応しい! これからは私の力を、お前のために使ってやる!」


「おいおい、急展開だな」


「なんだ、不満か? 最強の将軍である私が仲間になるのだ、光栄に思え」


不敵に笑うヴァルキリア。男に依存するでもなく、甘えるでもなく、一人の対等な戦士・相棒として俺を認め、手を取ってくれたのだ。


その様子を横で見ていたセシリアが、呆れたようにため息をつく。


「まったく……相変わらず偉そうな態度ですわね、ヴァルキリア」


「フン、お前こそ相変わらず高飛車だな、セシリア。……だが、無事でよかった」


「な……っ!? わ、わたくしの心配なんて不要ですわ!」


顔を背けるセシリアと、不敵に笑うヴァルキリア。タイプの違う2人が、こうして俺の傍らに揃った。


「ハルト様、ヴァルキリア様」


静かに警戒に当たっていたアイリスが、通信機を掲げて告げた。


「エリア・ゼロのクロエ様より、4人目の乙女に関する緊急報が入りました。急ぎ確認をお願いします」


「よし……次へ行くぞ!」


ハルト、アイリス、セシリア、そして新たに加わった軍総督ヴァルキリア。


4人となった俺たちのパーティーは、残る乙女たちを救い出すため、次なる戦地へと足を踏み出すのだった——!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。