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【続3話】 閃光の魔導姫と、揺らぐ孤高のプライド

「な……なんだと!? 爆発か!?」


「ひ、ひぃッ!? 壁が崩れてくるぞ!」


大聖堂の地下ホール。数千人の豪商や軍閥、異国の使者たちが酒杯を傾けていた競売会場は、一瞬にして爆音と土煙の坩堝へと叩き落とされた。


煙の奥から現れたのは、漆黒の大剣を担いだ男神の末裔・ハルト、白銀の髪をなびかせるアンドロイドのアイリス、そして——金色の檻を破り、解き放たれた『聖皇国の美姫』セシリアだった。


「セ……セシリアだと!? なぜあの女が檻から出ている!?」


「手首の魔力抑制具が外されているぞ! だれだ、あの黒髪の男はッ!?」


壇上で金槌を握っていた競売人が叫ぶ。その奥のVIP席から、肥満体と豪華な法衣を揺らして立ち上がったのは、聖皇国の絶対権力者・教皇クレメンスだった。


「おのれえぇぇっ! わしの『最高額の出品物』に何をする! 聖騎士団、全軍出撃! あの不法侵入者の男を八つ裂きにし、セシリアを拘束しろ! 足の骨くらい折っても構わん、生きていれば種馬どもに売れる!」


欲望を隠そうともしない教皇の罵声。


それを聞いたセシリアの瞳の奥に怒りが宿った。


「『種馬どもに売れる』……ですって? どこまでも浅はかで、醜悪な豚ども……!」


セシリアが髪を揺らし、両手を天へと掲げる。


彼女の全身から、先ほどまで抑圧されていた古代魔導の奔流が噴出し、地下ホール全体の空気を激しく振動させた。


「見下ろすのはわたくしの役目ですわ! ローゼンベルク家秘伝——『極光の極星陣(ルミネサンス・フレア)』ッ!!」


ズドオォォォォォンッ!!


セシリアの頭上に展開された数十枚の四角形魔法陣から、極小の太陽のような光球が降ってくる。


光球は大聖堂の天井や柱、そして教皇の豪華な観覧席を一瞬で穿ち、破壊の暴風となって爆発した。


「ギャァぁぁぁぁッ!?」


「ひぃぇぇッ! 助けてくれ、魔導姫が暴走したぞぉッ!」


逃げ惑う男たち、崩れ落ちる瓦礫。100年前の天才魔導士シャーロットの血を引くセシリアの魔力は、まさに一国を滅ぼしかねない圧倒的な威容を誇っていた。


「ふん、ざっとこんなものですわ!」


高らかに笑い、勝ち誇るセシリア。だが、彼女の肩が微かに息荒く上下しているのを、ハルトは見逃さなかった。長期間の軟禁で消耗した体力は、まだ完璧には戻っていないのだ。


「調子に乗るなよセシリア、敵の親玉が来るぞ!」


「なっ……! わたくしに指図しないでくださ……っ!?」


「そこまでだ、不敬者どもッ!!」


瓦礫を突風が吹き飛ばし、重厚な銀の全身鎧に身を包んだ巨漢が立ちはだかった。


聖皇国最強の武力と謳われる、聖騎士団長ガウェイン。彼が掲げた超重量の魔導大槍が、バチバチと赤黒い雷光を撒き散らす。


「セシリア様は我が国の繁栄の糧! いかなる者であれ、連れ去ることは許さん! 『穿つ雷(サンダー・ランス)』ッ!」


ガウェインが地面を蹴った。音速を超えた突進。その狙いは、魔法の発動後で隙ができているセシリアの胸元だった。


「くっ……!? 魔法の構築が間に合わ……っ!」


迫り来る赤黒い雷光を前に、セシリアの顔から血の気が引く。


ガウェインの槍は容赦がない。手足を吹き飛ばしてでも奪い返す気だ。死の予感がセシリアの視界を真っ白に染めた——その瞬間。


視界を遮るように、一枚の大きな背中が躍り出た。


「させるかよッ!!」


ガキンッ!!!!!


凄まじい火花と衝撃波がホールに吹き荒れる。


ハルトの大剣がガウェインの超音速の槍を正面から受け止めたのだ。


「なにッ……!? 生身の男が、私の全力突きを受け止めた……!?」


ガウェインが驚愕する。だが、相手の威力を殺しきれず、ハルトの脚がズズッと床を削って後退した。


「ぐっ……ぅ……っ!」


ハルトの腕の皮膚が裂け、鮮血が舞う。それでもハルトは一歩も引かず、セシリアの前に覆いかぶさるように仁王立ちを保ち続けた。


「ハ……ハルト……!?」


セシリアは息を呑んだ。


自分を庇って血を流す男。男など、自分を「所有」し、「利用」するために近づいてくる生き物のはずだった。それなのに、なぜこの男は、利益にもならない自分のために命を懸けて盾になるのか。


「おいセシリア! ぼーっとしてるヒマがあったら、あいつの足元を凍らせろ!」


「っ……! わ、わかっていますわッ!」


ハルトの喝に我を取り戻したセシリアは、必死で氷結魔法を詠唱した。


「『凍てつく棺(コキュートス)』ッ!」


「なにっ……足が!?」


ガウェインの脚部が瞬時に絶対ゼロ度の氷で固められる。拘束された隙を、ハルトは見逃さなかった。


「退けぇぇぇッ!!」


大剣の腹でガウェインの胸甲を叩き潰すように殴り飛した。巨漢の騎士団長が壁を何重にも突き破り、深々と埋まって気絶する。


「アイリス! 脱出ルートを開け!」


「了解。天頂のルーン障壁、ハッキング完了。頭上より脱出します」


アイリスが展開した浮遊力場に包まれ、ハルト、セシリア、アイリスの三人は、崩壊する大聖堂の天窓を破って夜空へと飛び出したのだった。






聖皇国の追撃を振り切り、都から遠く離れた原生林の古びた山小屋。


夜の冷気が開拓地の木々を揺らし、暖炉の薪がパチパチと音を立てて燃えていた。


「ふぅ……なんとか逃げ切れたな」


ハルトは上着を脱ぎ、丸太の椅子に腰掛けた。


先ほどの戦闘で傷ついた右腕と肩から、血が薄く滲んでいる。


「ハルト様、応急手当ての資材を用意しました」


「ありがと、アイリス。自分でやるよ」


ハルトが包帯を巻こうとしたその時、バサッとドレスの裾を翻して近づいてきた影があった。


「どきなさいな、下手くそ」


セシリアだった。彼女はハルトから包帯と消毒薬を強引にひったくると、プイと横を向いたままハルトの前に膝をついた。


「わ……わたくしは、ローゼンベルク家の嗜みとして応急手当ての嗜みもありますの。下手なあなたの手付きを見ていられないから手伝ってあげるだけですわ。勘違いしないでくださる?」


「へいへい。頼むよ、姫様」


セシリアの手は繊細で、傷口に消毒薬を塗る手つきは驚くほど優しかった。だが、傷口の深さを見るたびに、彼女の長いまつ毛がキュッと痛ましげに揺れる。


「……バカですの、あなたは」


ぽつりと、セシリアが小さく呟いた。


「え?」


「バカと言いましたのよ! わたくしを庇って怪我をするなんて……! わたくしがどうなろうと、あなたには関係ありませんでしょう!? 男なら……自分の身を一番に守り、女を上手く利用すればよろしいのに……っ!」


包帯を巻くセシリアの手が、微かに震えていた。


その瞳には、怒りと、それ以上に隠しきれない困惑と動揺が浮かんでいる。


「自分の命を懸けてまで他人を守るなんて……そんなの、ただの偽善者か、救いようのない大バカ者ですわ……っ!」


ハルトは痛む肩を苦笑混じりに動かし、そっとセシリアの顔を見つめた。


「偽善でもバカでもいいさ。……目の前で女の子が傷つけられそうになってるのに、見捨てられるほど俺は器用じゃない。それに、君は『売り物』なんかじゃない。一人の誇り高き人間だろ?」


セシリアの頬が暖炉の火を鏡移すように赤く染まる。


どんなに高慢に振る舞っても、どんなに刺々しい言葉をぶつけても、この男は真っ直ぐな瞳で自分を一人の人間として肯定してくる。


ずっと探していた「求めていた言葉」。それをあっさりと口にするハルトに対し、セシリアの頑なだった心の氷が、ポタポタと音を立てて溶け出していくのを自分自身で感じていた。


「……やっぱり、不躾で、図々しい男ですわ……っ」


セシリアはプイッと顔を背けたが、包帯を結ぶ力はどこまでも優しかった。


「手当て、終わりましたわ。……感謝など、してあげませんからね」


「ああ、ありがとうセシリア」


そう言ってハルトが優しく微笑むと、セシリアはさらに顔を赤くして、自分の膝をギュッと抱え込むように丸くなったのだった。






「ハルト様、セシリア様。お寛ぎのところ申し訳ありませんが、通信衛星経由で緊急の暗号通信を受信しました」


部屋の隅で警戒に当たっていたアイリスが、淡々とホログラム画面を展開した。


画面に映し出されたのは、安全領域(エリア・ゼロ)で待機している『森の聖女』クロエの姿だった。


『ハルトさん……! それにセシリアさん……! ご無事でよかったです……っ!』


「クロエ! 無事だったか」


『はい! アイリスさんの仕掛けた結界のおかげで、ここはすごく安全です。……でも、ハルトさん、大変なことが起きています……!』


クロエの表情が曇り、画面が切り替わる。


そこに映し出されたのは、無数の黒鉄の巨塔と防壁が聳え立つ軍事要塞都市——『黒鋼都市』の映像だった。


「これは……武闘派の軍集団が支配する『黒鋼都市』ですわね?」


セシリアが眉をひそめる。


アイリスが感情のない声で解説を加えた。


「肯定します。世界に遺された5人の女性のうち、3人目……【黒鋼都市の軍総督】ヴァルキリアに関する情報です。彼女は自ら軍隊を率いる最強の武闘派総督ですが、現在、内部の過激派軍閥によるクーデターが発生。要塞内部に孤立し、反乱軍の男たちによって『捕獲と交接』の標的とされています」


「クーデターだと……!? 仲間内で女を奪い合おうってのか!?」


ハルトが拳を握りしめる。


「はい。ヴァルキリア様は旧帝国軍のドS女将軍の血を継ぐ苛烈な武闘派ですが、反乱分子により食事に特殊な『魔導麻酔と神経毒』を仕込まれ、身体の自由を奪われている模様。猶予は長くありません」


画面の向こうで、クロエが必死に手を合わせる。


『ハルトさん、お願いです……! ヴァルキリアさんを助けてあげてください……!』


「言われるまでもない!」


ハルトは大剣を背負い直し、立ち上がった。


「セシリア、お前はクロエのいるエリア・ゼロへ避難しろ。あそこなら安全だ」


そう告げたハルトに対し、セシリアはフンと鼻を鳴らし、ドレスの裾を優雅にはためかせてハルトの隣に並んだ。


「なにを寝ぼけたことを言っていらっしゃいますの?」


「は?」


「わたくしが、いつ『逃げる』と言いましたの? あなたのような大バカ者を一人で赴かせたら、また無茶をして死んでしまいますわ。……わたくしの魔法で、あなたを監視して差し上げます!」


ツンとすました顔で、けれど瞳に微かな信頼の光を宿して言い放つセシリア。


「ふっ……頼もしい仲間ができたな」


「仲間にしたつもりはありませんわ! ……さあ、行きますわよ、ハルト!」


1人目の乙女クロエを救い、2人目の乙女セシリアの頑なな心を開き始めたハルト。


次なる舞台は、男たちの欲望と野望が渦巻く黒鋼都市!


世界に残りし5人の乙女を巡る壮絶な奪還劇は、さらに苛烈さを増していく!

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