【第44話】 胃袋撃ち抜きバトルと、ダークマター弁当の襲来
「さあ! 第2次予選【手作り弁当・タツヤさんの胃袋撃ち抜きバトル】のスタートですわ!」
宮殿の広大な厨房特設ステージ。
ウェディングドレスの裾を豪快にたくし上げたシルヴィアの宣言とともに、10調理台が一斉に激しい炎と魔力に包まれた。
ルールは至ってシンプル。
タツヤの胃袋と心を最も掴んだ「最高のお弁当」を作った上位3名が、最終決戦(第3次予選)へと駒を進めることができる。
そして審査員は……防弾ガラスから引きずり出され、特設審査席に縛り付け(保護され)られた俺一人だ。
「おい……料理バトルなのはいいけど、なんでみんな調理器具じゃなくて杖や魔導銃を構えてるんだ……!?」
俺の悲鳴を余所に、10名の猛者たちによる狂乱
の料理パフォーマンスが始まった!
「タツヤさんの故郷の味……『お弁当』! 私の愛のすべてを注ぎ込みますわ!」
シルヴィアが突剣を乱舞させると、空中を舞う食材が一瞬でハート型に細工されていく。
だが、その背後には凄まじい密度のピンク色の風魔法が旋風となって渦巻いていた。
「愛が重すぎてタコさんウインナーが発光してるんだが!?」
隣の調理台では、シャーロットが三角フラスコと試験管をカチャカチャと鳴らしていた。
「ふふ……料理とは化学よ! タツヤの体調を完璧に整え、私への依存度を120%に跳ね上げる『至高の栄養カプセル弁当』を完成させてみせるわ!」
「料理の過程で毒々しい紫色の煙が出てるよシャーロット!? 爆発するんじゃないだろうな!?」
さらに他の調理台も地獄絵図だった。
バルバロッサ:巨大な海竜の肉を丸焼きにし、男らしく豪快にドカンと重箱に詰める。
ベアトリクス:深海甲殻類の足を生のまま皿に載せ、「新鮮。食え」と一言。
セシリア(聖女):弁当全体に『神聖なる祝福(結婚の呪い)』をかけまくり、米粒一つひとつが神々しい後光を放っている。
アイリス:指先から熱線を照射し、分子レベルで栄養と味覚を完璧に再現した「完全無欠のキューブ食」を秒で生成。
(まともな料理を作ってる奴が一人もいねぇぇぇっ!!)
俺は冷や汗をダラダラと流した。これ、胃袋を掴まれる前に胃袋が破壊されるのでは……?
「お待たせいたしました、タツヤさん……♡ 私の特製『愛の生徒会弁当』ですわ!」
制限時間の終了とともに、一番手に進み出たのはシルヴィアだった。
重箱のフタが開けられる。
シュワーーッ……!
「眩しっ!?」
中から溢れ出たのは、眩いばかりの光。
そこには、ハート型の玉子焼き、タコさんウインナー、唐揚げといった日本の王道弁当メニューがぎっしりと並んでいた。見た目はめちゃくちゃ可愛い。
「昨日からタツヤさんの実家の味(テストで分析したレシピ)を徹夜で研究しましたの。……さあ、あーんしてくださいまし……♡」
シルヴィアが割り箸でハート型の玉子焼きを摘み、頬を真っ赤に染めながら俺の口元へ差し出してくる。
(うっ……威圧感がすごいが、見た目は本当にうまそうだ……!)
覚悟を決めて、パクリと口に含んだ。
モグ……モグ……。
「っ……!?」
電撃が走った。
ダシの効いた優しい甘さ、絶妙な焼き加減。そしてどこか懐かしい……まさに俺が大好きだった和風玉子焼きの味だ!
「う……うまい……! すごいよシルヴィア! 完璧な和風の味付けだ!」
「タ、タツヤさん……! 喜んでいただけて、私……私……!」
シルヴィアが感極まって瞳をうるませる。
……が、次の瞬間。
ドックン……!
体の中から、急激にカッと熱いものが込み上げ
てきた。
「な、なんだこれ……!? 体が熱い……!?」
「ふふ……隠し味に、私の溢れ出る愛の魔力を少々(多めに)練り込んでおきましたの♡ これでタツヤさんの心も体も、私なしではいられなくなりますわ……!」
「また愛の隠し味仕込んでたぁぁぁっ!?」
続いて、他のメンバーの審査(試練)が怒涛のように押し寄せる!
「次は私の『超科学栄養カプセル』よ! これを飲めば夜の持続力が10倍に……」(シャーロット)
「飲ませるか! タツヤ、この聖なるおはぎを食べれば私と自動的に婚約が成立しますわ!」(セシリア)
「ハハハ! 肉だ肉! 旦那、肉を喰えぇぇっ!(バルバロッサ)
「マスター。私のキューブ食で愛の魔力を上書き・無効化します」(アイリス)
「待て! 順番に! 胃袋が一気に破裂するぅぅぅっ!」
口々に己の弁当を俺の口へ押し込もうとするシルヴィアたちの争いは、やがて料理の枠を超え、壮絶な魔力のぶつかり合いへと発展した!
ドカァァァン!! バギィィィン!!
「私の作った唐揚げを押し退けるなーっ!」
「タツヤの胃袋を制するのは私の科学よ!」
「神の祝福を受けたお弁当が一番ですわ!」
厨房全体が爆風と光に包まれ、特設ステージが豪快に吹き飛ぶ!
煙が晴れた後。
崩壊した厨房の真ん中で、ボロボロになった重箱を抱えたシルヴィア、シャーロット、そしてアイリスの3人が(奇跡的に全滅を免れて)立っていた。
「はぁ……はぁ……! 勝負……あり、ですわね!」
シルヴィアが息を荒らげながら宣言する。
「くっ……私の科学弁当の栄養価が、僅かに押し負けたというの……!?」
シャーロットがメガネを直しながら悔しがる。
「審査員の心拍数・満足度データを計測。……シルヴィア氏の玉子焼きを召し上がった際の反応が、他を3.5%上回っていました。……敗北を認めます」
アイリスが静かに頭を下げた。
他の参加者は、料理の余波による爆発で全滅(失格)していた。
「よ、よって……第2次予選の通過者は、私、シャーロットさん、そしてアイリスさんの3名ですわ!」
(俺、料理の味じゃなくて爆発の衝撃で死にかかったんだけど!!??)
胃を押さえながら地面に膝をつく俺。
だが、シルヴィアたちは勝利の余韻も束の間、爛々と輝く瞳で俺を見下ろしてきた。
「さあ……次はいよいよ最終決戦(第3次予選)……【花嫁障害物レース・タツヤさんへのゴールイン】ですわ!」
「まだやるのかよぉぉぉっ!?」
俺の悲鳴を置き去りにし、第一夫人決定戦はついにクライマックスとなる最終決戦へと突入していくのだった——!




