【第38話】 古代アンドロイドのエネルギー補給と、嫉妬の充電騒動
「警告。マスターから半径三十センチ以内への接近を確認。対象者・シルヴィアを即時排除します」
「排除させませんわぁぁぁっ! 私はただ、タツヤさんに温かいスープをお渡ししようとしているだけですのよ!?」
雲上の秘境アヴァロンの古代施設。
拠点として確保した広々としたホールで、朝からシルヴィアとアイリスの不毛な攻防が繰り広げられていた。
シルヴィアがスープの入ったお盆を持って一歩進むたび、アイリスがすさかず間に割り込み、無機質に「パーソナルスペース侵害」を主張して光の盾を展開する。
「ちょっとアイリス! 私たちにもタツヤのお世話をさせなさいよ!」
シャーロットがツインテールを逆立てて抗議する。
「ふふ、ルールが厳しいなら……影から隙を突くまでです」
忍のレンがスッと床の影に潜もうとするが——
「無駄です。影領域の生体反応も全方位センサーで捕捉済みです」
アイリスが足元へピピッ(小型牽制弾)と即座に射撃し、レンの影潜入を完璧に阻止する。
「くっ……隙がない」
影から追い出されたレンが悔しそうに唸る。
「ハハハ! まったく凄腕のボディガードが仲間になったもんだぜ!」
バルバロッサが笑いながら酒瓶を煽り、ルナは「ふふ、怪盗の侵入経路も計算済みとは……手強いライバルですね」と手枷を弄んでいる。
(アイリスの過保護っぷり、本気で一切の隙がない……!)
俺が苦笑いしながらスープを受け取ろうとした、その時だった。
ピピッ……ピピッ……ピピピピピ……
突然、アイリスの頭部の回路ラインが明滅し、コバルトブルーの瞳の光が急速に弱まり始めた。
「……警告。内部魔導ジェネレーターの残存エネルギー、低下。稼働限界まであと3%」
「えっ!? アイリス、大丈夫か!?」
俺が慌てて駆け寄ると、アイリスは膝から崩れ落ちそうになり、ふらりと俺の胸へと倒れ込んできた。
「あ、アイリス!?」
「エネルギー枯渇……。急速充電プロトコルを起動します」
「充電!? ど、どうすればいいんだ!? どこかにコンセントとか充電ポートがあるのか!?」
俺が焦って尋ねると、アイリスは俺の胸に顔を埋めたまま、無感情な声で信じられない『充電方法』を口にした。
「……本機の充電方式は、マスター(男神)の生体魔力による『スキンシップ供給』です。マスターの手を握る、または密着することでエネルギーが直接チャージされます」
「「「「「はあぁぁぁぁぁっ!??!?」」」」」
シルヴィアたちの叫び声がホールに響き渡った!
「生体魔力によるスキンシップ供給だぁぁっ!?」
シャーロットが目を剥く。
「な……なんですのその都合が良すぎるポンコツな初期設定はぁぁぁっ!?」
シルヴィアが突剣をガタガタと震わせる。
アイリスは意に介さず、俺の右手をギュッと両手で握り締め、さらにおでこを俺の胸にぴったりと押し当てた。
キュィィィィィン……♪
「……充電開始。エネルギー補給率、15%……30%……。……マスターの体温、非常に心地良し」
アイリスの回路がぽっぽと温かなピンク色に光り、無表情だった彼女の頬がどこか気持ちよさそうに弛んでいく。
(えっ、手をつないでおでこをくっつけてるだけで、めちゃくちゃ充電されてる……!?)
「あっ! アイリスの顔がなんだかトロンとしてるじゃないのよ!」
シャーロットが指を指して悲鳴を上げる。
「ズ、ズルいですわぁぁぁっ! 私たちには『三十センチ以内接近禁止』と言っておきながら、自分はタツヤさんにべったり抱きついて充電だなんて……狡猾すぎますわ!」
シルヴィアの目が嫉妬で血走っていく。
「おいタツヤ! 俺も最近魔力が不足しててよ……『充電』が必要かもしれねぇ!」
バルバロッサが服の襟ぐりを大きく開けながら迫ってくる!
「ふふ、充電なら怪盗のバッテリーも満タンにしてください♡」
「タツヤ。俺も、充電」
「みんな便乗して寄ってこないでぇぇぇっ! 一大充電争奪戦にならないで!!」
俺が悲鳴を上げていると——
ブォォォォォン……!
ホールの奥に安置されていた、巨大な古代のメインコンピューター『アヴァロン・サーバー』が、アイリスの充電に共鳴するように突然起動した。
ホール中央に、巨大な三次元ホログラム映像が浮かび上がる。
『——記録再生。旧世紀男神防衛計画・ファイル99』
「っ……!? これは……古代の記録……!?」
シルヴィアたちが息をのむ。
ホログラムに映し出されたのは、100年前の光景だった。
研究服を着た女性科学者たちが、壊滅していく世界を背景に必死にデータを入力している。
『……世界的な魔導ウィルスの蔓延により、全男性個体の遺伝子が崩壊していく……。これが最後の『男神』の種……。我々はこれを異次元空間へと退避させ、100年後の未来へ託す……』
映像の中の女性科学者が、涙を流しながら画面
に向かって語りかけた。
『未来の女性たちへ……。男神様をどうか護ってください。……そして、世界に再び『真の平和』と『愛の繁栄』を取り戻すのです……』
プツン。
ホログラムが消えた。
「100年前の男の絶滅……それはただの病気じゃなく……『魔導ウィルス』による人工的な災害だったのか……!?」
俺は衝撃で言葉を失った。
「……マスター。その通りです」
充電を完了したアイリスが、ゆっくりと顔を上げた。
「100年前に散布された魔導ウィルスの発生源……それは現在『黒の結社』が本拠地としている、中央大陸の【黒き死の絶壁】です。……ウィルスの元凶を絶たねば、たとえマスターが子孫を残しても、再び男の赤ちゃんが生まれない世界が続いてしまいます」
「そんな……!」
シルヴィアが息をのむ。
男が絶滅した世界の真実。
そして、俺がこの世界に転移してきた本当の意味。
「……決まったな」
俺は自分の拳を強く握りしめた。
「逃げて、自分の貞操を守るだけじゃダメだ。俺は……この世界の『男が生まれない呪い』を解く! 世界の真実を暴くために、【黒き死の絶壁】へ向かうぞ!」
俺の力強い宣言に、シルヴィアたちが顔を見合わせ——そして、力強く頷いた。
「タツヤさんがそう決めたのなら……どこまでもお供しますわ!」
「そうね! あんたを種馬扱いする世界なんて、私たちが変えてあげるわ!」
「ハハハ! 世界を救う冒険か! 燃えてきたぜ!」
「マスターの意志を最優先。これより『世界救済&純潔完全防衛ミッション』を開始します」
アイリスが無表情のまま、俺の手をぎゅっと握り返した。
「充電完了につき、パーソナルスペース規定を再適用。……ヒロイン群、離れてください」
「「「「「最後の一言が余計なのよポンコツぅぅぅっ!!」」」」」
新たな目的を胸に、俺とシルヴィアたちの旅は、世界を救う壮大な新ステージへと動き出すのだった——!




