【第34話】 ラグナロクの女帝と、VIPルームの危険すぎるシャンパンタワー
「自ら飛び込んでくるなんて……本当に可愛らしい男神様ですこと♡」
豪華絢爛な絨毯が敷き詰められた最高級VIPルーム。
妖艶な紫のドレスの裾を揺らしながら、歓楽都市ラグナロクのオーナーにして【夜の女帝】と呼ばれる美女クララが、ゆったりと歩み寄ってきた。
ワインレッドの瞳に、とろけるような狂愛の光を宿している。
「待ちなさい! タツヤさんに指一本でも触れたら、この店ごと吹き飛ばしますわ!」
シルヴィアが速攻で突剣を構え、俺とクララの間に割り込んだ。
「あらあら、怖いですわね生徒会長さん」
クララはクスリと余裕の笑みを漏らすと、パンッ! と優雅に指を鳴らした。
その瞬間、VIPルームの壁が回転し、内蔵されていた無数の自動魔導砲と、黒スーツを着た百人以上の精鋭ボディガード女兵士たちが俺たちを包囲した!
「なっ……全員が国家最高峰の護衛!?」
シャーロットが冷や汗を流しながら杖を握り直す。
「無駄ですよ。この部屋は私の絶対領域。……それに、私を怒らせたら【ルナティック号】の超高純度魔導燃料の入手ルートも、この街からの脱出ルートも永遠に失われますが……よろしいのですか?」
「くっ……!」
シルヴィアが悔しそうに歯噛みする。
足元を見られている。燃料がなければ俺たちはこの街から出られないのだ。
「フフ、話が分かるようで助かりますわ」
クララは俺に向き直ると、目の前のテーブルに飾られた巨大な【七段のシャンパンタワー】を指差し、妖しく微笑んだ。
「さあ、相沢タツヤ様。……私と勝負をいたしましょう」
「勝負……?」
「ええ。この最高級魔導シャンパン【ラグナ・ロワイヤル】を用いた……飲み比べ勝負ですわ!」
「飲み比べぇぇっ!?」
俺は思わず叫んだ。
「私が勝てば、あなたは我がラグナロクの『永久指名No.1ホスト(および私の旦那様)』として、朝から晩まで私(とVIP顧客)を接客していただきます。……あなたが勝てば、超高純度魔導燃料を無償で提供し、この街からの安全な脱出を保証いたしましょう」
「そんな条件、飲む必要はありませんわタツヤさん! 相手は夜の街を統べる百戦錬磨の女帝ですのよ!?」
シルヴィアが必死に止めてくる。
だが、追っ手が外を埋め尽くしている今、俺たちに残された選択肢はなかった。
(くっ……俺は未成年だけど異世界だし背に腹は代えられない! いや、そもそもこのシャンパン、魔導酒って書いてあるけどアルコールなのか……!?)
「……分かった。その勝負、受けよう!」
「タツヤ!?」
シャーロットたちが目を見開く。
「ふふ……男らしい決断、素敵ですわ♡ では
——ゲームスタートです♪」
クララと俺は豪華なソファに向かい合って腰掛けた。
クララは慣れた手つきでシャンパンタワーの頂上からグラスを取り、俺と自分のグラスに黄金
色の液体を注ぐ。
グラスを交わし、一気に飲み干す!
ゴクッ……ゴクッ……!
(ん……? 全然酒臭くないぞ? 甘くてシュワシュワして……フルーティで美味い!?)
「ふふ、驚きましたか? この魔導シャンパンはアルコールではなく……飲み干すたびに強力な【強烈な媚薬効果(発情魔力)】が体内に蓄積されていく、特別な愛の秘酒なのですわ……♡」
「さらっと恐ろしい成分を暴露するなーっ!?」
「フフ……一杯飲むごとに、理性が10%ずつ削られていきます。……さあ、どちらが先に理性を失い、相手に襲いかかるか……真剣勝負ですわ!」
「ルールが最悪すぎる!!」
二杯目、三杯目とグラスを空けていくクララと俺。
ゴクッ! ゴクッ!
(ぐ、ぐあああっ!? 体が熱い……! 頭がクラクラするし、目の前のクララがめちゃくちゃ色っぽく見えてきた……っ!)
「ハァ……ハァ……どうですかタツヤ様……? 早く私を……抱きしめたくなったでしょう……♡」
クララも頬を真っ赤に染め、とろけた瞳で胸元を大きく乱しながら俺に寄りかかってくる。
(ダメだ……理性が飛びそうだ……! 誰か……誰か助けてくれぇっ!)
俺が限界を迎える寸前——
「……おいおい、タツヤを一人で戦わせるわけねぇだろ?」
バシィィィン!!
横から豪快にグラスを奪い取り、一気に飲み干した影があった。
空賊船長バルバロッサだ!
「バ、バルバロッサ!?」
「酒と媚薬の勝負なら、この海賊女王バルバロッサ様に任せな!」
バルバロッサは豪快に胸を張り、クララの注ぐシャンパンを次々と飲み干していく!
「なっ……一瞬で五杯も!?」
クララが目を剥く。
「フン! 飲み比べなら私も負けませんわ!」
シルヴィアも乱入し、気合でグラスをあおる!
「タツヤさんの純潔は……私が守りますわぁぁっ!」
「私も実験の一環として参加するわ!」
「タツヤのピンチ……影として救う」
「ふふ、キャバレーの酒なら怪盗も嗜みますよ」
シルヴィアたちが次々と参入し、クララのシャンパンタワーを怒涛の勢いで空にしていく!
「な……なんなのですかこの女たちはぁぁぁっ! 私の特製媚薬酒をガブ飲みして平然としているなんてぇぇっ!?」
「ハハハ! この程度の媚薬、タツヤへの愛(と欲望)の深さに比べたら清涼飲料水みたいなもんだぜぇぇっ!」
バルバロッサがドヤ顔で言い放つ。
「そんな……そんなぁぁぁっ!?」
あまりの愛の重さと酒量の桁違いぶりに、ついにクララの方が限界を迎え、ドサリとソファに倒れ込んで昏睡してしまった!
「勝負……あり、ですわね……!」
シルヴィアがフラフラになりながらも(少し顔を赤くして)勝利宣言を上げた。
「「「「勝ったぁぁぁぁっ!!!!」」」」
こうして、シルヴィアたちの凄まじい酒量(と愛の重さ)によって【夜の女帝】クララを打ち破った俺たち。
約束通り、クララの部下から超高純度魔導燃料と安全な脱出ルートの鍵を手に入れたのだった。
翌朝。
無事に修理と補給を終えた【ルナティック号】は、朝日が昇る不夜城ラグナロクの空へと飛び立った。
甲板で朝風を浴びながら、俺はシルヴィアたちを見渡した。
全員、昨夜の媚薬酒の影響が少し残っているのか、どこかトロけたような熱い視線で俺を見つめている。
「タツヤさん……無事に燃料も手に入りましたわね……♡」
シルヴィアが吐息を漏らしながら距離を詰めてくる。
「ええ……これで次の目的地へ行けるわね……♡」
「なぁタツヤ……船長室で、ちょっとお休みしないか……?♡」
(待って、昨夜の媚薬の効果、今になってじわじわ効いてきてない!??)
追っ手(世界中の国家)からは逃げ切れても、身内の愛の暴走からは一瞬たりとも逃げられない!
100年ぶりの『男』と、彼を愛して止まないシルヴィアたちの世界一周逃亡劇は、更なる混乱とともに続いていくのだった——!




