【第32話】 聖王国の美しき聖女と、強制結婚の危機
「止まりなさい! これ以上の逃走は許しませんわ!」
青空を切り裂き、俺たちの乗る小型飛空艇【ルナティック号】の前に立ちはだかったのは、白銀と黄金に輝く巨大な聖王国の白鳥型飛空艇【アヴェ・マリア号】だった。
デッキの先頭に立っているのは、純白の聖職者服に身を包んだ、金髪碧眼の神聖な美少女——
聖王国の筆頭聖女・セシリアだ。
その背中には、光の魔力で形成された天使の翼が羽ばたいている。
「100年ぶりに下天された『男神様』……相沢タツヤ様! 聖王国の教義に基づき、あなたを我が国の【聖なる種馬(神子)】としてお迎えいたします!」
「だからその種馬って言い方をやめろぉぉぉっ!! 聖女の口から出る言葉じゃないだろ!!」
俺の叫びも虚しく、セシリア聖女は両手を胸の前で組み、うっとりと瞳を輝かせた。
「ふふ、ご安心ください。我が聖王国へ来れば、毎日温かいミルクと清らかな聖水で身を清め、朝から晩まで聖女(私)と神聖なる『愛の合体儀式(結婚)』を執り行うことができますわ……♡」
「合体儀式って言っちゃったよ!! ガチガチの肉食系聖女じゃねぇか!!」
「タツヤさんに怪しげな宗教的結婚を迫るなど、生徒会規約第1条……いや全宇宙の正義に反するわ!」
シルヴィアが突剣を構え、飛空艇の甲板へ飛び出した。
「そうよ! タツヤの『初めて』は私の実験室で捧げられるべきなのよ!」
シャーロットが杖を掲げ、極大の炎魔法陣を展開する。
「ハッ、聖女様ごときがお堅い真面目面して、
中身はただの発情した女じゃないか!」
バルバロッサが魔導銃を構えてニヤリと笑う。
「タツヤは渡さない。聖女の首も刈る」
レンが影の中から不気味に刀を抜く。
シルヴィアたちの殺気立つ眼光に、さすがのセシリア聖女も一瞬だけ表情を強張らせた。
「くっ……なんという野蛮で業の深い女たちでしょう! 神聖なる男神様をそのような血生臭い者たちの手に委ねるわけにはいきません!」
セシリア聖女が神聖な杖を高く掲げると、空中に無数の光の鎖——【聖なる捕縛鎖】が展開された。
「聖騎士団! あの野蛮な女たちを討伐し、タツヤ様を連行……いいえ、私の『特等寝室』へお連れしなさい!」
「「「「ハッ!!」」」」
白銀の鎧を纏った女聖騎士たちが、光の翼を羽ばたかせて一斉に飛び出してきた!
「させるかぁぁぁっ!!」
シルヴィアの風刃が空を裂き、シャーロットの爆炎が光の鎖を打ち砕く!
高度三千メートルの青空で、聖王国の精鋭部隊とシルヴィアたちの大空戦が巻き起こった!
「タツヤさん、私の後ろへ!」
シルヴィアが俺を背中に庇いながら、次々と襲
いかかる女聖騎士たちを薙ぎ払っていく。
だが——
「ふふ……隙ありですわ、タツヤ様♪」
フワッ……。
背後から漂う、甘く清らかな百合の香り。
いつの間にか光の翼で回り込んでいたセシリア聖女が、空中で俺の腰にすがりついてきた!
「なっ……セシリア!?」
「神のご加護(と聖女の執念)により、あなたをいただきますわ! 【空間跳躍・聖なる新婚部屋へ】!」
セシリアが俺の首に腕を回し、その唇を俺の唇めがけて接近させる!
(ヤバい! 聖女の強引な誓いのキスでそのまま
テレポートさせられる——!?)
その時だった。
ドスッ!!
「タツヤさんに……気安く触れるなぁぁぁぁっ!!」
激怒したシルヴィアが、空中で振り返りざまにセシリアの聖職者服の襟ぐりを掴み上げた!
「なっ……!? 神速の突進!?」
「タツヤさんは私たちが守り……そして私が(心の準備ができたら)愛するお方です! どこぞの偽聖女に渡すわけがありませんわ!!」
シルヴィアの突剣から放たれた強烈な衝撃波が、セシリアのテレポート魔法陣を木端微塵に砕いた!
「キャァァァァッ!?」
吹き飛ばされるセシリア聖女。
間一髪、俺はシルヴィアの腕の中に抱きとめられた。
「タツヤさん……ご無事ですか?」
空中で俺を姫抱っこしたまま、シルヴィアが凛々しく……そして少し頬を赤らめて囁く。
「あ、ありがとうシルヴィア……! 助かった……!」
「ふふ、お礼は……後でたっぷりと言葉と体で示していただきますわね……♡」
(シルヴィアの目も若干肉食系になってる気がするぅぅぅっ!?)
聖騎士団を蹴散らしたシャーロットたちが、【ルナティック号】の甲板から手を振る。
「脱出経路を確保したわ! さっさと逃げるわよ!」
「よし、一気に振り切るぞ!」
バルバロッサが操縦桿を押し倒し、【ルナティック号】は光の爆発とともに聖王国の艦隊を置き去りにして加速した。
「待ちなさい……! 待ちなさぁぁぁい男神様ぁぁぁっ! 私の『初めて』を奪ってから逃げなさぁぁぁい!」
遠ざかる聖女の悲鳴が雲海に消えていく。
こうして、聖王国の強制結婚の危機も間一髪で回避した俺たち。
だが……【ルナティック号】の燃料ゲージは、すでに限界(赤色)を示していた。
「みんな……次の目的地はどこだ……?」
俺が冷や汗を流しながら尋ねると、操縦席のルナが不敵に微笑んだ。
「ふふ……不時着するしかありませんね。向かうは……世界最大の歓楽街にして、男がいなくなったことで『狂乱のキャバレー帝国』と化した【ナイトライフ都市・ラグナロク】です♪」
「一番行っちゃいけない危険地帯じゃねぇかぁぁぁっ!!」
俺の貞操を賭けた世界逃走劇は、更なる欲望の渦巻く夜の街へと舞台を移すのだった——!




