【第31話】 深海三千メートルの執念と、愛の水中破壊工作
メキ……メキメキメキッ!!
水深三千メートル。
本来ならば国家最高峰の魔導耐圧障壁すら一瞬で押し潰す死の世界で、潜水艦の分厚い装甲版が悲鳴を上げて歪み始めた。
「ありえない……! ありえませんわこんなこと!?」
【黒の結社】のカミラは、洗脳の首輪をポロリと床に落とし、青ざめた顔でモニターにへばりついた。
モニターに映し出されているのは、強化ガラスの外側にへばりつく女子生徒と空賊たちの姿だ。
水中呼吸魔法の泡をボコボコと吐き出しながら、目に血走ったシルヴィアが突剣を全力で突き刺し、シャーロットが巨大な水流爆破陣を展開している。
『タツヤさんを……私の(生徒会の)タツヤさんを返しなさぁいっっっ!!』
ドカァァァン!!
『タツヤの純潔は私の実験材料なのよぉぉぉっ!!』
バギィィィン!!
「生身の人間が水圧三千メートルで素手や魔法で攻めてくるなんて、狂気の沙汰ですわよ!?」
カミラが叫ぶ。
その横で、俺も窓の外の光景に戦慄していた。
(シルヴィアたちの愛と執念が水圧を超越してやがる……! 物理法則どこ行ったんだよ!?)
「ええい、こうなれば非常事態です! タツヤ様、嫌がるあなたを強引に抱えてでも逃げ——」
バリィィィィィン!!!!!
カミラが俺の腕を掴もうとしたその瞬間、特別拘束室の耐圧強化ガラスが木端微塵に粉砕された!
大量の海水とともに、弾丸のような勢いで飛び込んできたのは——全身濡れ鼠になったシルヴィアたちだった!
「タツヤさんっ!!」
海水が一気に室内に流れ込むが、シャーロットが間一髪で杖を振るい、俺たちの周囲に球状の『空気展開結界』を張り巡らせる。
「ぷはっ! ギリギリセーフね! タツヤ、怪我はない!?」
シャーロットがビショビショになったツインテールを払いながら、真っ先に俺に抱きついてきた。
「シャ、シャーロット! 無事だけど、お前たち正気か!? 水深三千メートルだぞ!?」
「愛する男がさらわれたのに、水圧なんて気にしてられるかぁぁぁっ!」
バルバロッサが濡れた髪を豪快に後ろへかき揚げながら、魔導銃をカミラの鼻先に突きつける。
「おい、タコの姉ちゃん。俺たちの旦那に怪しい首輪をつけようとしてたな?」
「ひっ……!?」
カミラは腰を抜かし、尻もちをついた。
「タツヤに触るな。首を跳ねる」
影からヌッと現れたレンが、氷のように冷たい短剣の刃先をカミラの首筋に当てる。
「ふふ、深海の密室で二人きりだなんて……ずるいですわ。次は私の番ですね?」
ルナが手枷をシャキーンと鳴らしながら、怪しく微笑んで歩み寄ってくる。
「タツヤ。水中で拾った、美味しい深海エビだ。食え」
ベアトリクスがなぜか巨大な深海甲殻類を差し出してきた。
(全員、たくましすぎるだろ……!!)
カミラは生きた心地がしない様子でブルブルと
震え上がり、ジリジリと後退した。
「狂ってる……この世界の女たちは全員狂っているわ……! 『黒の結社』の理念すら脅かす狂気……こんなところに居いられるかいやぁぁぁっ!」
カミラは恐怖のあまり脱出ポッドの緊急ボタンを連打すると、カプセルの中に飛び込み、そのまま超スピードで海面へと逃走していった。
「あっ、逃げた!?」
「追う必要はありませんわ」
シルヴィアが突剣を鞘に収め、俺に向かって優しく……しかしどこか逃がさないという強い意
思を込めた微笑みを向けた。
「それよりもタツヤさん。潜水艦の動力炉が壊れて、ここもじきに沈没します。……脱出用の大型浮出ポッドへ向かいましょう」
「お、おう! 助かったよ、シルヴィアたち……!」
俺は心から安堵した。
【黒の結社】の洗脳からは、無事に逃れることができたのだ。
……だが、俺は甘かった。
シュシューッ……!
深海から一気に急浮上し、海面にドカンと飛び
出した大型脱出ポッド。
ポッドのハッチが開くと、眩しい太陽の光と心地よい潮風が差し込んできた。
「ふぅ……地上だ! 生きて帰ってこられた……!」
俺がポッドの外へ踏み出そうとした、その時。
ガチャン。
俺の両手首に、冷たい金属の感触が走った。
「え……?」
見下ろすと、そこには精巧な魔法の手枷がはめられていた。
鎖の先を握っているのは、妖艶に微笑む怪盗ルナだ。
「ふふ……助け出した後の『報酬』は、頂かなければね……♡」
「ルナ!? 待ちなさい、手枷をはめるのは生徒会長である私の役割ですわ!」
シルヴィアが割り込む。
「何を言ってるのよ! 潜水艦の壁を爆破したの
は私なんだから、最初の権利は私よ!」
シャーロットが詰め寄る。
「ハハハ! 命の恩人に一番に感謝のキスをするのが海の男の流儀だろ!」
バルバロッサが俺を抱き寄せる。
「タツヤの隣は……譲らない」
レンが俺の腰に抱きつく。
「タツヤ。脱出お祝いの肉だ」
ベアトリクスがまた肉を差し出してくる。
(助かったと思ったのに……即座に身内の奪い合いに戻ったぁぁぁぁっ!!)
ポッドの中で、再び始まる俺を巡る壮絶な押し合いへし合い。
そして、遠くの水平線を見つめたシルヴィアが、はっと顔を引き締めた。
「みなさん、争っている場合ではありませんわ! 見てください!」
シルヴィアの指さす先——。
水平線の彼方から、新たな巨大な艦隊の影が近づいていた。
聖王国の【聖騎士団飛空艇】。
帝国の【追撃要塞】。
そして、世界各地の国家から派遣された【男神獲得部隊】の旗印。
「世界中の国が、タツヤさんを諦めずに追いかけてきていますわ……!」
「へっ、面白ぇ! 世界全部を相手に回す大逃避行の始まりだ!」
バルバロッサが不敵に笑う。
どこへ行こうと、タツヤさんは私たちが守り……そして私が独占しますわ!」
シルヴィアが力強く宣言した。
「俺の貞操と平和な毎日はどうなるんだぁぁぁっ!?」
俺の叫び声が、青い海と空に虚しく響き渡る。
100年ぶりの『男』と、彼を愛し奪おうとするシルヴィアたちの、世界を股にかけた命(と貞操)の争奪戦は、まだまだ終わる気配を見せないのだった——!




