【第27話】 世界樹攻防戦と、女王の決断
ズズズズズズ……ッ!!
超巨大要塞艦【グラン・ガイザル】の威容が空を覆い尽くし、世界樹【エルヴンヘイム】全体が漆黒の影に飲み込まれた。
雲を突き抜けるほど巨大な樹木の周りを、無数の帝国側浮遊艇がハエのように飛び交っている。
『繰り返す。エルフの女王ルシエラよ、直ちに【男神】相沢タツヤを我が軍に引き渡せ』
巨大スピーカーから響くクラリス少将の氷のように冷たい声。
『断るならば……我が帝国の誇る魔導粒子砲【ガイザル・バスター】にて、その神聖なる世 界樹を根元から焼き払うまで』
「なっ……! 世界樹を焼き払うだと!?正気かあいつら!!」
俺は砕けた窓枠から空を見上げて叫んだ。
「……帝国のドS女め。なりふり構っていられなくなったと見えるわね」
シャーロットが冷や汗を流しながら、窓の外の艦隊を睨みつける。
「タツヤさんを独占するためなら、世界樹の破壊すら辞さない……完全に狂っていますわ」
シルヴィアが悔しそうに突剣の柄を握りしめた。
私室の中に重苦しい緊張が走る。
すると、先ほどまで俺を「1000年の愛の苗床」にしようと狂気を孕んでいたルシエラ女王が、
ふっと瞳の熱を引かせ、静かに立ち上がった。
彼女のエメラルドの瞳に宿っていたのは、一国の主としての冷徹で誇り高き光だった。
「……愚かな人間どもが」
ルシエラは優雅に黄金の髪をなびかせ、壊れた窓の外——天空に浮かぶ要塞艦を見据えた。
「我が【エルヴンヘイム】は、数千年の歴史の中で幾多の災厄を乗り越えてきました。……たかだか一国の軍勢に、神聖なる世界樹と……我が愛しいタツヤ様を渡すとでも思いましたか?」
女王がすっと細い両手を天に掲げる。
ブワッ……!!
世界樹の全幹から、視界を埋め尽くすほどの緑色の精霊光が溢れ出した!
樹木全体が生き物のように躍動し、太い枝やツタが、まるで無数の龍のように空中へと蠢き出す。
「結界全開! 全エルフ防衛隊、迎撃開始です!」
ルシエラの号令とともに、世界樹の各地から何千ものエルフの射手たちが飛び出し、空を埋め尽くすほどの『光の魔弾』を一斉に放った!
ドドドドドドガガガガァァァン!!
空中で繰り広げられる、凄まじい砲撃と精霊魔
法の応酬!
帝国の浮遊艇が次々と撃墜され、炎を上げて雲海へと落ちていく。
「す、すげぇ……! 世界樹の防衛力、半端ねぇ……!」
「感心している場合じゃないぜ、タツヤ!」
バルバロッサが俺の首根っこを掴んで引っ張った。
「女王が帝国軍の意識を引きつけている今がチ
ャンスだ! 空賊の勘が言ってる、長居するとあの超巨大砲が飛んでくるぞ!」
「バルバロッサの言う通りですわ」
シルヴィアが頷く。
「ルシエラ女王! 助けていただいたことには感謝します! ですがタツヤさんは私たちが——」
「……待ちなさい」
ルシエラ女王は戦闘の指揮を執りながら、チラリと俺たちを振り返った。
その表情には、先ほどまでのヤンデレな雰囲気は微塵もなく、どこか切ない笑みが浮かんでいた。
「タツヤ様……。私とて、貴方を力ずくで縛り付け、嫌われたくはありません。……私は1000年を生きる女王。貴方の本当の気持ちを無視して『苗床』にするなど、乙女のプライドが許しませんわ」
「ルシエラさん……」
「行きなさい、我が愛しき人よ。……ですが、約束してください。いつかこの世界に平穏が戻った時、私の元へ戻ってきてくださると」
ルシエラは胸元から、手のひらサイズの小さな緑色の結晶を取り出し、俺の手にそっと握らせた。
「これは【世界樹の加護石】。これを持っていれば、世界中のどこにいても世界樹の精霊が貴方をお守りしましょう。……そして、私の愛の証です♡」
最後の一言だけ、ちゃっかり激重な愛を込めて耳元で囁かれた。
「あ、ありがとう、ルシエラさん!」
「ふふ、行きなさい! ルナティック号へ!」
「了解です! みなさん、走ってください!」
大怪盗ルナを先頭に、俺たちは崩れかける世界樹の回廊を駆け抜けた。
バシュゥゥゥン!!
ルナティック号が発進し、激しい戦場と化した世界樹の上空へと飛び立つ。
背後では、要塞艦【グラン・ガイザル】の先端部が不気味な赤い光を放ち始めていた。
魔導粒子砲【ガイザル・バスター】のチャージ音だ。
「マズいぞ! あの巨大砲が発射されたら、世界樹どころかこの周辺海域ごと吹き飛ぶ!」
シャーロットが悲鳴を上げる。
「ルナ! 最大加速だ!」
ベアトリクスが叫ぶ。
「任せてください! 【限界突破】・スイッチオン!!」
ゴォォォォォォォォッ!!
ルナティック号の後部ブースターが限界を超えた青い炎を吹き出し、音速を超えるスピードで
大空へと離脱する!
直後——
ズガァァァァァァァァン!!!!
背後で世界を押しつぶすような凄まじい閃光と衝撃波が炸裂した。
ルシエラ女王の張った世界樹の絶対結界と、帝国の粒子砲が真っ向から激突したのだ。
「ルシエラさん……っ!」
俺は祈るように後方を見つめた。
「大丈夫ですわ、タツヤさん」
シルヴィアが俺の肩に優しく手を置いた。
「世界樹の結界は伊達ではありません。あの防
衛力なら、帝国軍を退け、街を守り切るでしょう」
「……ああ。俺がもっと強ければ、逃げるだけじゃなくて助けられたのに……」
俺が悔しそうに拳を握り締めると、ヒロインたちが一斉に俺の顔を覗き込んできた。
「何を言っているのよタツヤ! あなたはそこに生きて存在しているだけで、私たちに最高の力を与えてくれているんだから!」
「そうだぜ。男がメソメソ悩むもんじゃねぇ。お前は俺たちの『お頭』……いや、『運命の男』なんだからな!」
「タツヤ……強くなる必要はない。私が、お前の刃となり盾となる」
「ふふ、私の『お宝』が男らしくなっていくのは素敵ですが、あんまり無理はしないでくださいね」
「……みんな……」
胸が熱くなる。
逃亡生活は過酷で、命も貞操も常に危険に晒されているけれど——彼女たちの言葉には、嘘偽りのない本物の熱意が込められていた。
「よし……! 凹んでる暇はないな! 次はどこへ向かうんだ!?」
俺が顔を上げると、操縦席のルナが不敵にニヤリと笑った。
「フフ……帝国の追っ手を撒くため、私たちが向かう次の目的地は——」
ルナが操縦桿を大きく倒し、雲海を抜けた先に広がっていたのは……
無限に広がる真っ青な大海原と、そこに浮かぶ数千の海賊船、そして巨大な水上都市だった!
「自由と欲望の海上無秩序地帯——**【南海の海賊連盟・バーミューダ】**です!」
「……え? 海賊の巣窟……? バルバロッサさんのホームグラウンド!?」
「ガーハッハッハ! ついに俺の縄張りに来たか!」
バルバロッサが嬉々として魔導銃をぶっ放し
た。
「歓迎してやるぜタツヤ! 我が【海賊連盟】の数十万の女海賊どもに、新しい『頭領(男神)』をお披露目してやるからな!!」
「数千の船と数十万の女海賊って、世界樹よりスケールアップして危険になってないかぁぁぁぁっ!?」
俺の悲鳴を乗せて、ルナティック号は南の危険すぎる海原へと向かって下降していくのだった——!




