【第25話】 世界樹の国の女王エルフと、禁断の秘宝
ブシャァァァ……!
朝靄を切り裂き、飛空艇【ルナティック号】は壮大な緑の樹海の上空を静かに滑空していた。
雲を遥か眼下に置き、天へと突き抜ける一本の巨木。
幹の太さは一つの都市ほどもあり、巨大な枝の上には幻想的な水晶の建物や、緑に包まれた美しい街並みが広がっている。
「す、すげぇ……! これが【世界樹の国】……!」
甲板の手すりに身を乗り出し、俺は思わず息をのんだ。
「はい。ハイエルフたちが統治する神秘の聖域——【エルヴンヘイム】ですわ」
俺の隣で風に髪をなびかせながら、生徒会長シ
ルヴィアが解説してくれる。
「エルフ族は魔法技術と長寿に長けた種族ですが、男の絶滅による影響を最も色濃く受けた国でもあります。……彼女たちの寿命は千年以上。ゆえに、100年間『男が存在しない絶望』を誰よりも長く、深く味わい続けてきたのです」
「千年の寿命で100年間の男日照り……? え、それってめちゃくちゃ危険なんじゃ——」
「ふふ、ご名答ですよ、タツヤ様♪」
操縦席からひょっこり顔を出した大怪盗ルナが、不敵にルビー色の瞳を輝かせた。
「エルフの女性たちは一見すると清廉潔白で静寂を好みますが、一度『種(男)』を前にすると、全種族の中で最も執着心が強く、重い(……愛が深すぎる)と言われています。……まあ、だからこそ盗み甲斐があるというものですが!」
「恐ろしいことをサラッと言うな!?」
その時だった。
キィィィィン……!
突如、世界樹の巨大な枝から放たれた何百本もの『光の矢』が、ルナティック号の周囲を取り囲むように大空に刺さった。
「なっ……敵襲!?」
ベアトリクスが大剣を引き抜く。
「落ち着いて! あれは迎撃じゃないわ、導き(誘爆)の結界よ!」
シャーロットが丸メガネをクイと持ち上げながら叫ぶ。
光の矢は空中で複雑な魔法陣を描き、ルナティック号を世界樹の最上層——【精霊王の庭園】へと優雅に誘導するように着陸用ポート(枝の広場)を開いた。
「へっ、最初から歓迎ムードってわけか」
バルバロッサが腰の魔導銃に手をかけながら鼻で笑う。
「油断は禁物……。エルフの術式は、影の忍びでも解くのが難しい」
レンが俺の斜め後ろにぴったりと寄り添い、短剣を構えた。
飛空艇のハッチが開き、俺たちが外へと一歩踏み出す。
そこは、色鮮やかな珍しい花々が咲き乱れ、清々しい精霊の光が舞う美しい庭園だった。
そして、その庭園の中央——エメラルド色に輝く玉座に腰掛けていたのは、一人の女性だった。
背中まで届く透き通るような金糸の髪。
すっと伸びた美しい立ち耳と、透き通るような白い肌。
深く神秘的なエメラルドの瞳を持つ、神々しいまでの美貌を誇る美女——エルフの女王**【ルシエラ】**だった。
「ようこそ、遠方からの客人たち……。そして
——」
女王ルシエラはゆっくりと玉座から立ち上がった。
その瞬間、彼女の背後に広がる世界樹全体が、まるで歓喜に打ち震えるかのように輝きを増した。
彼女のエメラルドの瞳が俺を捉えた瞬間、清廉だったはずのその瞳に、ドロリとした濃密すぎる『狂愛』の光が宿った。
「……ああ……ついに……ついに巡り会えました……! 我が千年の孤独を埋めてくださる、運命の『男神様』……!」
「っ……! 迫力が、神聖なのに重い……っ!?」
俺が思わず後ずさると、ルシエラ女王は優雅な足取りで、しかし一瞬で俺の眼前に移動してきた。
「お待ちください、ルシエラ女王!」
シルヴィアが突剣を構えて割り込もうとするが——
フッ……!
「なっ……身体が動かない!?」
女王が軽く指を鳴らすと、世界樹のツタが一斉に伸び、シルヴィアだけでなく、シャーロット、バルバロッサ、レン、ベアトリクス、ルナの全員を、一瞬でガッチリと拘束してしまった!
「「「「くっ……!? エルフの『精霊縛鎖』……!?」」」」
ヒロインたちがもがくが、世界樹の魔力を直接引き込んでいるツタはびくともしない。
「無礼な客人たちですね。……我が愛しいタツヤ様との『運命の再会』を邪魔しないでいただきたい」
ルシエラ女王はヒロインたちを冷たく一蹴すると、再び俺に向き直り、愛おしそうに頬を撫でてきた。
柔らかな指先。清らかな草木の香り。
だが、その瞳に宿る熱量は、狂気すら孕んでいた。
「タツヤ様……。この【世界樹】には、1000年に一度だけ実をつける禁断の秘宝……【生命の黄金実】がございます」
ルシエラ女王は俺の耳元に唇を寄せ、甘く熱い吐息を吹きかけてきた。
「その実を……あなたと私で共に食すのです。そうすれば、私たちは世界樹の精霊と一体となり、1000年の間、二人きりで永遠に愛し合い、何千もの子孫を残し続けることができますわ……♡」
「スケールが重すぎるし、1000年拘束は嫌だぁぁぁっ!?」
「ふふ、大丈夫です……逃がしません。今すぐ我が私室へ参りましょう。千年の愛を、今ここで捧げます……」
ルシエラ女王の手が俺の腰を抱き寄せ、世界樹の最奥——禁断の私室へと連れ去ろうとする!
「タツヤぁぁぁぁっ!!」
「タツヤさんを放しなさい!!」
ツタに縛られたヒロインたちの悲鳴が響き渡る中、1000年の男日照りをこじらせたヤンデレ(?)エルフ女王による、あまりにも重すぎる愛の求婚が俺を襲う——!




