【第24話】高度三千メートルの過密ベッドと、怪盗の甘い奇襲
「枕投げ……だと!?」
俺は飛空艇の後部居住区で目を剥いた。
「ええ、そうですわ!」
生徒会長シルヴィアが、ベッドから引っぺがした羽毛枕を、まるで伝説の聖剣であるかのように両手で高く掲げた。
「女子同士の夜の親睦を深める伝統行事——それが『枕投げ』! ただし……私たちは戦士。手加減なしの真剣勝負(魔力・闘気使用可)で決着をつけますわ!」
「それもうただの無制限格闘技だろ!!」
「フフ……いい度胸ね生徒会長!」
シャーロットが怪しく光る魔法陣を展開し、自分の枕に高密度の圧縮風魔法をエンチャントする。
「私の【風刃ポインター枕】で全員吹き飛ばして、タツヤのベッドを独占してあげるわ!」
「ハッ、お遊びは終わりだ!」
バルバロッサが豪快に笑いながら、羽毛枕を腕力だけで岩石並みの硬度に叩き鍛え上げる。
「俺の【超重量パンチ枕】を食らって、朝まで爆睡しな!」
「影に潜み……一撃で仕留める」
レンが手裏剣のように枕の角を指に挟み、忍びの構えをとる。
「ガアァァァッ! 俺がタツヤの『つがい』だぁぁっ!」
野性味あふれるベアトリクスは、枕を丸めて巨大な棍棒のように構えた。
「ふふ、盗賊の真骨頂……みなさんの隙を突いて『お宝』をいただきますよ♪」
ルナがカード手品のように枕を翻し、不敵に微笑む。
(狭い!! 凶器(枕)を持った美少女たちが暴れるには部屋が狭すぎる!!)
高度三千メートルを巡航する小型飛空艇【ルナティック号】の室内で、今まさに空前の「過密ベッド争奪戦」が勃発しようとしていた。
「行きますわよ——! 【風神絶空・枕アタック】!!」
シルヴィアが突風のようなスピードで先陣を切
る!
「【爆風バズーカ枕】!」(シャーロット)
「【覇王撃滅・大炎上枕】!」(バルバロッサ)
ドドドガガガガァァァァン!!!!!
狭い部屋の中で、風と火と影と野生の闘気が激しく激突した!
飛空艇の壁がみしみしと鳴り、衝撃波で羽毛が
まるで大雪のように舞い散る。
「うわああぁぁぁぁっ!? 羽毛が……羽毛が目に染みるぅぅっ!!」
俺は床に這いつくばり、頭を抱えて羽毛の嵐に耐えた。
誰が誰を攻撃しているのかすら分からない乱戦状態。
シルヴィアの風の刃が天井を削り、バルバロッサの枕が壁にめり込み、シャーロットの爆風が
家具を吹き飛ばす。
(だ、ダメだ……ここにいたら俺まで圧死する!!)
俺は這いつくばったまま、命からがら乱闘の渦を抜け出し、扉を開けて通路へと脱出した。
ハァ……ハァ……ハァ……!
「生き延びた……」
扉をピシャリと閉め、通路の壁に背中を預ける。
室内からは「タツヤさんは渡さない!」「私のだーっ!」という怒号と、ドカッバキッという破壊音が響いている。
(あいつら、本当に俺のことが好きなのか……? 単に力比べしたいだけなんじゃないか……?)
一息ついて俺が深く溜め息をついた、その時だった。
フワッ……。
後ろから、可憐で甘い月下香の香りが鼻腔をくすぐった。
「……あ」
気づいた時には遅かった。
柔らかい細腕が俺の首にそっと回され、背中からキュッと抱きすくめられた。
「……捕まえました♪」
耳元で響いた、鈴の転がるような甘い囁き。
振り向くと、そこには大怪盗ルナがいた。
彼女はシルクハットを脱ぎ、銀髪をパラリと肩に垂らしている。
ルビー色の瞳が、月光を反射して妖しく揺れていた。
「ル、ルナ……!? なんでここに……部屋で戦ってたんじゃ——」
「ふふ、怪盗が正面突破の乱闘に付き合うわけ
ないでしょう?」
ルナは悪戯っぽく微笑むと、手袋を嵌めた指先で俺の唇を優しく押さえた。
「あのみなさんが争っている隙に、影分身(手品)を残して抜け出してきたのです。……これが、怪盗の『盗みの極意』ですよ」
「な……っ!?」
「さあ、タツヤ様。あのみなさんが気づく前に……私の『秘密の操縦室』へ参りましょう。あそこなら二人きりになれるフカフカのシートがありますから……♡」
ルナは俺の手をぎゅっと握り締め、熱っぽい吐息を漏らしながらグイグイと引っぱっていく。
(ヤバい! 乱闘に乗じた怪盗の一本勝ちパターンだ!!)
「あ、あのさルナ! 気持ちは嬉しいけど、俺たちまだ出会ったばかりだし——」
「関係ありません」
ルナは立ち止まり、俺の胸に小さくおでこをこつんと当てた。
先ほどまでのキザな怪盗の表情が消え、そこに
あったのは耳まで真っ赤にした、一人の純情な少女の顔だった。
「私……本気なんです。世界中のお宝を盗んできた私だけど……あなたの笑顔を見た瞬間、本当の『宝物』が何か分かっちゃったんです……」
(うぐっ……! 純粋な直球ストレートは効く……っ!)
ルナの可憐な赤面と、震える指先。
俺の心が思わず揺らぎかけた——その瞬間!
バンッ!!!!
居住区の扉が豪快に吹き飛んだ。
「見つけましたわよ、泥棒猫ぉぉぉぉっ!!」
「抜け駆けなんてズルいわよ大怪盗!」
「俺の『つがい』に手を出すな」
全身羽毛まみれになったヒロインたちが、血走った眼光で通路に立ち塞がった!
「ひぇぇっ!? もう気づかれたんですか!?」
ルナが悲鳴を上げて俺の背中に隠れる。
「タツヤさん! 誰か一人のものになるなど許しませんわ! 今夜は……全員で雑魚寝(監視)です!」
「「「「賛成ーっ!!!」
「結局そうなるのかぁぁぁっ!?」
結局、狭いシングルベッドを中央に寄せ、俺を中心に全員が床やソファで「密着アプローチ&牽制」を繰り広げながら夜を明かすことになったのだった。
逃亡初日の夜は、こうして一瞬も気が抜けないまま過ぎていった。
そして翌朝——
【ルナティック号】の目の前に現れたのは、世界の中心に聳え立つ、雲を突くような巨大な樹木——**【世界樹の国・エルヴンヘイム】**だった!
世界を巡る逃避行、最初の目的地で俺を待ち受けているものとは——!?




