【第22話】 男子寮の密室攻防と、胸元の鍵
カチャリ……。
重厚な鉄の扉が完全に閉ざされ、男子専用寮のエントランスに重苦しい静寂が満ちた。
薄暗い廊下を照らすのは、壁に設置されたほのかな魔導ランプの光のみ。
その光の先で、透け感のあるパープルのシルクネグリジェを纏った理事長エレオノーラが、妖しく濡れた瞳で俺を見つめている。
彼女の豊満な胸元の谷間には、今しがた放り込まれたばかりの【寮の鍵】が、キラリと意地悪く光っていた。
「さ、最高権力者が一番真っ当な手段でハメてくるんじゃないよ!!」
俺は一歩、後ずさった。だが背中には二重にロックされた鉄扉がある。完全に退路は断たれていた。
「ふふふ……学園都市が外敵の襲撃を受けている非常事態ですのよ? 私は学園都市の最高責任者として、この世界の『最重要防衛対象』であるあなたを、最も安全な場所で保護(独占)する義務がありますの」
エレオノーラは優雅な取り立て屋のように一歩踏み出してきた。
スリッパが床を鳴らすたび、薄い生地越しに浮き上がる彼女の圧倒的なボディラインと、濃厚な高級香水の香りが俺の脳を揺さぶる。
「り、理事長! 外では生徒たちが帝国軍と戦ってるんですよ!? こんなことしてる場合じゃないでしょう!?」
「大丈夫ですわ。あのお嬢さんたちは優秀ですから、小一時間は持ちますでしょう。……つまり、私たちには『たっぷり一時間』の自由時間があるということですの♪」
「考え方が完全に悪徳権力者!!」
エレオノーラはそっと両腕を広げ、ゆっくりと近づいてくる。
「さあ、可愛らしいタツヤ様……。外の野蛮な兵器の音など忘れ、私とここで『第一世代の遺伝子(子種)』を紡ぎましょう。我が商業国家ヴェネツィアのすべてをあなたに捧げますわ。何不自由ない、愛と欲望に満ちた天国へとお連れして差し上げます……」
(ぐ、ぐあああっ!? これが『大人の本気』か!? 迫力が今までと違いすぎる……っ!)
鼻腔をくすぐるフェロモンと、迫り寄る圧巻のグラマラスボディ。
童貞男子高校生の俺の理性は、今にもプチリと音を立てて弾け飛びそうだった。
鍵を取り戻すには……あの豊満すぎる胸元に手を突っ込むしかない。
だが、そんなことをしたら一瞬で組み伏せられ
て既成事実を作られる未来しか見えない!
(どうする……!? どうすればこの状況を脱出できる……!?)
「ふふ、観念しなさいな。この男子寮の結界は
学園最強。外部からの侵入も、内部からの脱出も、私の許可なくしては不可能なのですから——」
ドガァァァァァン!!!!!
エレオノーラの言葉を遮るように、男子寮のぶ厚い石壁が豪快に吹き飛んだ。
「なっ……何事ですの!? 私の完璧な結界が……!?」
煙とガレキが舞い散る中、壁にぽっかりと開いた大穴から現れたのは——
黒革のムチをパンッと響かせ、肩で息をする帝国軍のドS少将、クラリスだった。
その背後には、ボロボロに倒れ伏した帝国の兵
士たちと……なぜか巨大なドリルを搭載した帝国製採掘マシンが置かれていた。
「ハァ……ハァ……学園都市の結界など、物理的な極限掘削の前には無力だ。……見つけたぞ、タツヤ殿!」
「壁ごと掘り進めて侵入してきたぁぁぁっ!?」
クラリス少将は邪魔な軍帽を脱ぎ捨てると、銀髪をバサリと揺らし、冷酷な瞳でエレオノーラを睨みつけた。
「貴様が学園都市のトップ(理事長)か。私を広場の雑魚どもで足止めできると思ったか? 狙いは最初から『男神様』一人……私自ら別動隊を率いて本丸を叩くのは戦術の基本だ」
「まあ……粗野で野蛮な軍人さんですこと。せっかくの甘いムードを台無しにしてくれましたわね?」
エレオノーラの瞳から、完全に甘さが消え去った。
最高峰の魔導士としての圧巻の魔力が全身から噴き出し、紫色のオーラとなって男子寮の部屋全体を狂わせる。
「私の……私の100年ぶりの『初恋(と巨額の利益)』を邪魔する者は……国家だろうと軍隊だろうと、灰に昇華させて差し上げますわ!!」
「フッ、面白い。帝国機甲師団長の腕前、見せてやろう!」
クラリス少将も漆黒の軍用魔導剣を引き抜き、凄まじい闘気をみなぎらせる。
ドォォォォォン!!
大人の魅力全開の【悪徳理事長】VS 容赦なきドS【帝国軍少将】!
二人の最強女子による、至近距離でのド派手なバトルが狭い男子寮の中で勃発した!
「今だっ……!」
俺は二人が激突した衝撃波で吹き飛ぶテーブルの陰に身を隠した。
(二人とも俺を狙ってるけど、互いに牽制し合って俺を見ていない! これなら……!)
壁に開いた大穴(ドリルマシンが掘った穴)を見つめる。
外は学園都市の裏山へと繋がっているようだ。
「すまん二人とも! 勝手に戦っててくれぇぇぇっ!」
俺は弾丸のようなスピードで立ち上がると、壁の大穴から夜の裏山へと脱出した!
「あっ! タツヤ様! 待ちなさい!!」
「ぬかった……! 逃がすか、私の種馬ぁぁぁっ!」
背後で二人の叫び声が響くが、振り返る余裕などない。
月明かりが照らす夜の裏山を、俺はなりふり構わず駆け抜けた。
広場からは未だに魔法の交戦音が響き、男子寮からは二人のバトルの爆音があがる。
(どこに行けばいい!? 学園都市も男子寮も全滅だ! 俺はどこで眠ればいいんだぁぁぁっ!?)
絶望的な逃走劇の最中、暗い森の奥から——
「おい! タツヤ! こっちだ!」
ガバッと草むらから現れた手が、俺の腕を力強く引き寄せた。
「うわっ!?」
引きずり込まれた草むらの陰にいたのは——全身に煤をつけ、剣を握りしめたシルヴィア、シャーロット、レン、ベアトリクス、バルバロッサ、そしてルナのフルメンバーだった!
「みんな……! 無事だったのか!?」
「当たり前ですわ! 帝国の先鋒隊はなんとか撃退しました!」
シルヴィアが息を切らしながら汗を拭う。
「でも、要塞からの本隊が降りてくるのも時間
の問題よ……! この学園都市はもう安全じゃないわ!」
シャーロットが焦りを含んだ声で言う。
「……じゃあ、どうするんだよ!?」
ヒロインたちは顔を見合わせると、固い決意を秘めた瞳で俺を見つめ返した。
「決まっていますわ」
シルヴィアが俺の手を強く握り締める。
「学園都市を脱出します。タツヤさん……私たちと一緒に、この世界を巡る『逃避行』に出ましょう!」
学園という狭い鳥籠を飛び出し、舞台は世界全体へ!
100年ぶりの『男』と、彼を愛し(奪おうとし)守るヒロインたちの、命と純潔を賭けた【世界一周逃亡編】が、今ここに開幕するのだった——!




