【第17話】窓際の囲まれた席と、猛毒(惚れ薬)の手作り弁当
「……生きて帰れる気がしねぇ」
講堂での地獄のような歓迎式典を終え、俺は重い足取りで1年Sクラス(特別特進学級)の教室へと足を踏み入れた。
アルカナム魔法士官学校の校舎は、まるで中世のお城か高級ホテルのように豪華だった。天井には水晶のシャンデリア、床には磨き抜かれたフローリング。
そして、俺に割り当てられた席は——定番の「窓際・後ろから二番目」の席だった。
(よし……ここなら端っこだし、おとなしく授業を聞いていれば——)
甘かった。
「タツヤさん! 私はあなたの右隣の席を確保しましたわ!」
生徒会長シルヴィアが、凛とした笑顔で右隣のデスクに座る。
「フフン、私はあなたの真後ろよ! 魔法の計算で困ったら背中に向かって何でも聞いていいんだからね!」
ツインテールのシャーロットが後ろのデスクでドヤ顔を決める。
「タツヤ様〜! 前の席は私のものですよ! 授業中、いつでも振り返ってくださいね!」
大怪盗ルナが前の席からくるりと振り向き、ルビー色の瞳をキュートに輝かせる。
さらに、左側の窓から射し込む日差し——その足元の「影」の中から、すっと気配が立ち上った。
「……タツヤの影の中に忍んでいる。誰かが窓から侵入してきたら、即座に喉元を斬る」
くノ一のレンが、俺の足元の影の中からこっそり短剣を覗かせていた。
前、後ろ、右、そして影の中。完璧な包囲陣形である。
(目立たないどころか、ヒロインたちの完全包囲網じゃないか!!)
しかも、廊下側の窓や教室のドアの小窓からは、百人近い女子生徒たちが鈴なりになって俺を覗き込んでいた。
「キャーッ! 男神様が席に座られたわ!」
「見てあの背中! 抱きついたらどんな感触かしら!?」
「ねえ、放課後靴箱に『私の部屋の鍵』を入れておいたら入ってきてくれるかな!?」
「私、実家が鉱山所有してるから、結婚してくれたら山ごと差し上げるわ!」
「条件が過激すぎるだろ!!」
俺が思わず叫ぶと、廊下の女子たちが「きゃあぁぁぁ! 喋ったぁぁぁ!」と黄色い悲鳴をあげて歓喜した。もう完全に動物園の珍しいパンダ扱いである。
そんなパニック寸前の教室に、バタンと豪快にドアが開く音が響いた。
「よし野郎ども……じゃなかった、お嬢ちゃん方! 着席しやがれ!」
入ってきたのは、黒い革ジャンにミニスカート姿の空賊船長バルバロッサだった。腰にはしっかり魔導銃を差している。
「ば、バルバロッサさん!? なんで教壇に立ってるの!?」
「あ? 言ったろ、今日からこの学園の『特別実戦戦闘講師』に就任したんだよ。エレオノーラからどっさり金をもらってな。……フッ、これで授業中も堂々とお前を観察できるって寸法だ」
ニヤリと肉食獣の笑みを浮かべるバルバロッサ。完全に職権濫用だ。
「さあ、第一回授業を始めるぞ! 今日のテーマは『男の守り方と、力づくで押し倒
す際の関節技』だ!」
「教える内容が物騒すぎるわ!!」
怒涛の授業(というかバルバロッサの自慢話と過激な体育実習)が終わり、ようやく訪れた昼休み。
「ふぅ……命からがら生き延びた……」
俺が机に突っ伏してため息をついていると、真後ろの席からコトンと豪勢な三段重ねのお重
(弁当箱)が差し出された。
「ふふん、タツヤ! 感謝しなさい!」
胸を張って後ろの席から立ち上がったのは、天才魔導士シャーロットだった。ツインテールを揺らし、丸メガネをクイと持ち上げる。
「あなた、異世界の食べ物に慣れていないでしょ? この天才シャーロット様が、特別に手作りのお弁当を作ってきてあげたわ!」
「え……? シャーロットが手作りで?」
「な、何よその意外そうな顔は! 私だってこれくらい作れるわよ! さあ、冷めないうちに召し上がりなさい!」
お重の蓋が開けられる。
中には、見た目も華やかなキャラ弁や、肉料理、甘そうな玉子焼きがぎっしりと詰まっていた。
(おお……めちゃくちゃ美味そうじゃないか!)
空腹だった俺は、素直に感動した。
「ありがとうシャーロット! いただきます!」
俺が箸を伸ばした——その瞬間。
バシッ!!
俺の足元の影から伸びてきたレンの手が、俺の手首をガシッと掴んで止めた。
「待て、タツヤ。食べるな」
「え? レン……?」
レンは影から上半身だけを覗かせ、冷徹な眼光でシャーロットのお重を睨みつけると、懐から一本の銀の針を取り出し、肉料理にチスッと刺した。
すると——銀の針が、一瞬で禍々しい漆黒に変色した。
「なっ……!?」
「これは……最高級の『絶対服従・発情劇薬』の反応。食べた者は十二時間理性を失い、最初に目に入った者に襲いかかる魔法の劇薬だ」
レンの声が氷のように冷たく響く。
「さ、さすが『影の旅団』……見破るなんて……っ!」
シャーロットが冷や汗を流しながら後退した。
「シャーロットぉぉぉぉっ!! お前、弁当に何混ぜてんだよ!!」
「ち、違うのよタツヤ! 殺す気なんてなかったの! ただ、これを食べてもらえば、午後の授業をサボって私の研究室で二人っきりの『ラブラブ実験(既成事実)』ができるかなって……っ!」
「企みが真っ黒すぎるわ!!」
「待ちなさいシャーロット!」
右隣の席から生徒会長シルヴィアが立ち上がり、突剣の柄に手をかけた。
「学園のルールで『不当な薬物の使用』は禁止されています! 生徒会としてあなたを——」
「ふふ、お取り調べなら、私が手伝いましょうか?」
前の席からルナがくるりと振り返り、手品のように手縄を取り出す。
「へっ、薬なんぞに頼るから失敗するんだよ。男ってのはなぁ、肉と酒で胃袋を掴むもんだ!」
教壇からバルバロッサが、ドデカい肉塊(マンガ肉)を丸焼きにして持ち出してきた。
「「「「タツヤ(様)、私の(俺の)ご飯を食べなさい(食べろ)!!」」」」
ヒロインたちの手作り弁当(と肉塊と惚れ薬)が俺の机の上に殺到し、教室は再び大混乱に陥った。
「誰か……普通の、毒が入ってない白飯をくれ
ぇぇぇぇっ!!」
俺の絶叫が、昼休みの静かな(?)学園に虚しく響き渡るのだった——。




