【第16話】時計塔の停戦協定と、乙女の花園(罠)
「私の『お宝』に……手を出さないでいただけますかー!?」
パン、パパンッ!!
大怪盗ルナが煙幕弾を投げつけ、時計塔の中が一瞬で濃いピンク色の煙で満たされた。
「くっ……! 目眩ましですわね!」
「タツヤ! どこだ!?」
煙の中でヒロインたちが混乱する隙に、ルナは俺の腕を引っ張って窓際へと走る。
「タツヤ様、今のうちに——」
「甘いわ! 【風の旋風】!!」
煙幕を吹き飛ばしたのは、天才魔導士シャーロットの突風だった。
「ひゃいっ!?」
煙が晴れた瞬間、目の前には大剣を構えたベアトリクスと、魔導銃を構えたバルバロッサ、そして足元から影のように浮き上がってきたくノ一のレンが立ち塞がっていた。
完全なる詰み。四方八方、完全に逃げ場がない。
「コソ泥ちゃん。大怪盗のプライドがあるなら、正々堂々と力づくで奪ってみせなさいな」
「へっ、このタツヤは俺たちの獲物だ。盗人に横取りされてたまるかよ!」
「あうぅ……みなさん怖すぎます……っ!」
ルナが俺の背中にしがみついて震える。
俺も生きた心地がしない。この場の全員の魔力と殺気が高まりすぎて、時計塔の床がみしみしと鳴っている。
「みんな、やめろって! こんなところで戦ったら、時計塔が崩壊して街の人たちに被害が——」
俺が必死に叫んだ、その時だった。
「——そこまでです、全員!」
ゴゴゴゴゴ……っ!
凛とした、しかし圧倒的な威厳を孕んだ声が部屋中に響き渡った。
同時に、重厚な金の魔力が室内を満たし、全員の動きがピタリと止まる。
壊れた窓から悠々と姿を現したのは、紫のドレスを身に纏ったアルカナム魔法士官学校の理事長——エレオノーラだった。その背後には、数十人の学園警備隊が整列している。
「理事長……!」シルヴィアが突剣を下げる。
エレオノーラは扇子をパチンと閉じると、冷徹な笑みを浮かべて全員を見渡した。
「この時計塔は、我が『学園都市アルカナム』の管轄下にあります。ここでこれ以上の破壊工作を行えば……聖王国であれ、東方国であれ、空賊であれ、我が都市への立ち入りを全面的に禁止し、相応の制裁を加えますわよ?」
「くっ……」
バルバロッサもレンも、悔しそうに歯噛みする。
確かに、世界中の国家が取引を行う中立都市『アルカナム』を敵に回すのは、どの勢力にとっても得策ではない。
「そして……何より」
エレオノーラは俺のほうへ歩み寄ると、優しく俺の手を取った。
「私の……いえ、世界にとって唯一無二の存在であるタツヤ様を、このような血生臭い奪い合いで傷つけることなど、あってはなりません」
「エレオノーラさん……」
「そこで、ご提案がありますの」
エレオノーラは不敵な笑みを深め、全員に向かって宣言した。
「タツヤ様を、我が『アルカナム魔法士官学校』の【特別保護生】として正式に入学させます。学園内での力づくによる拉致・誘拐・不当なアプローチは一切禁止。……タツヤ様の自由と安全を第一とします」
「なに……!?」
「入学だと……!?」
ざわつくヒロインたち。だが、エレオノーラは言葉を続けた。
「もちろん、みなさんにもチャンスは与えますわ。学園の敷地内であれば、正当な手段——つまり『タツヤ様に個人的に気に入られること』での求愛は許可しましょう。……文句はありませんわね?」
「ふむ……」
シルヴィアが顎に手を当てて考え込んだ。
「力ずくでの奪い合いが続けば、いずれタツヤさんが巻き込まれてお怪我をされる可能性もあります。学園という安全な枠組みの中で公平に競い合う……悪くない提案ですわ」
「私も賛成です!」シャーロットが眼鏡をかけ直す。「私の実験……じゃなくて、アプローチの時間がたっぷり確保できますからね!」
「……タツヤの側で守れるなら、異論はない」レンが短剣を収める。
「ふん、学園生活ねぇ……」バルバロッサがニヤリと笑った。「まあいいさ。酒場での泥臭い奪い合いより、お上品なデートで落としてやるのも一興だな!」
「私も……転校生として潜入して、タツヤ様のハートを盗んでみせます!」ルナが帽子をかぶり直して宣言する。
まさかの全ヒロイン合意。
泥沼の武力闘争から、一転して「学園での正々堂々としたアプローチ合戦」へとルールが変更されたのだ!
(た、助かった……! これで命の危険を感じな
がら逃げ回らなくて済むんだ……!)
俺は胸を撫で下ろし、心から安堵した。
学園ならルールがある。命も貞操も、きっと守られるはずだ——。
そう、この時の俺は甘く考えていたのだ。
翌朝——アルカナム魔法士官学校 大講堂
「……なぁ、エレオノーラさん。これ、本当に
安全な場所なんだよね?」
朝日に輝く巨大な講堂の壇上。
特注の男子制服(学ラン風のブレザー)に身を包んだ俺は、隣に立つエレオノーラに引きつった笑顔で尋ねた。
「ええ、もちろんですわ。ここは世界で最も安全な『学びの庭』です」
「じゃあ……あの視線は何なんだよ!??!」
俺の目の前に広がる大講堂の客席。
そこに集まっていたのは——約五千人の女子生徒たちだった。
学園都市中から集まった、モデル級の美少女、お嬢様、魔法使いたち。
その五千双の瞳が、一斉に怪しく赤く光り輝いている。
「あれが……【男】……?」
「本物なの!? 嘘でしょ、すごくカッコいい……!」
「見て! あの肩幅! あの声! 生きている男の人よ!」
「私、あの方のお子を産みたい……!」
「国家予算並みの価値があるんでしょ!? 捕まえたら一生遊んで暮らせるじゃない!」
ゴゴゴゴゴゴ……っ!
五千人の女子生徒から放たれる、狂乱と渇望の熱気が、体育館のような講堂の空気を物理的に揺らしている。
「な……なんじゃあの殺気(求愛)は……!?」
「ふふ、当たり前でしょう?」
エレオノーラが扇子で口元を隠しながら、耳元で囁いた。
「この学園にいるのは、血気盛んな十代の少女ばかり。100年間一度も見たことがない『本物の男』が同級生として現れたのです……。狼の群れの中に、極上の羊肉を放り込んだようなものですわ」
「安全って言ったじゃねえかぁぁぁぁっ!!」
さらに、前列には——
「タツヤさん! 生徒会として、全力であなたを『個人的に』保護しますわ!」(生徒会長シルヴィア)
「フフン、私の隣の席は渡さないんだから!」(天才魔導士シャーロット)
「タツヤ、教科書の貸し借りは私とするのだ」
(くノ一レン)
「新任の特別講師として赴任したぜ、タツヤ!」(空賊船長バルバロッサ)
「転校生のルナです! 休み時間は二人きりですね」(大怪盗ルナ)
ヒロインたちもバチバチと火花を散らしながら、最前列で俺を狙撃するような視線を送っている。
「「「「「タツヤ(様)、ようこそアルカナム魔法士官学校へっ!!!!」」」」」
五千人の美少女たちの歓声(雄叫び)が講堂を破壊せんばかりに響き渡る。
国家間の戦争は回避したものの——俺が放り込まれたのは、五千人の飢えた肉食女子が蠢く、世界で最も危険な**『乙女の花園(超絶ハーレム)』**だった!
男一人の純潔と平和を賭けた学園生活が、今、最悪の形で幕を開ける——!




