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【第14話】空中大分解と、夜空から舞い降りた怪盗

「野郎ども! 船長室のドアを死守しろ! タツヤ様は渡すなーっ!」


「無理です船長! 相手は学園の化け物たちと、グランベルの精鋭ですーっ!」


船長室の重い鉄の扉の向こうから、女空賊たちの悲鳴と凄まじい破壊音が響いてくる。


ドガァァァン!!


「私のタツヤさんに手を出した罰よ! 【極大爆炎陣(メガ・エクスプロージョン)】!!」


シャーロットの叫びとともに、船長室の分厚い壁が豪快に吹っ飛んだ。


ガレキと炎が舞い散る中、煙の奥から現れたのは——全身から青い風の闘気をみなぎらせた生徒会長シルヴィアと、野性的な眼光を鋭く光らせた大剣使いのベアトリクスだった。


「見つけましたわ……! タツヤさん、無事ですか!?」


「タツヤ! 無事だな!? 嫌な触られ方はしてないか!?」


「二人とも! シャーロットも!」


俺が声を上げた瞬間、影がすっと足元から伸び、俺の目の前にレンが立ち塞がった。


「タツヤ、怪我はないか? ……安心しろ、この女空賊の首は今すぐ跳ね飛ばす」


「跳ね飛ばすな! 俺は無事だから命まで取るな!」


二本の手裏剣を構えるレンを慌ててなだめる。

そこへ、部屋の入口から悠々と歩み寄ってきたのは、豪奢な紫のドレスの裾を少しだけ持ち上げた理事長エレオノーラだった。


「ふふ……品のない空賊さん。私の【ゴールデン・ヴェネツィア号】を壊したばかりか、私の未来の旦那様を拐うなんて……高くつきますわよ?」


「へっ……大層なお出ましだな、金持ちババアに学園のひよっこども」


バルバロッサは不敵に鼻で笑うと、腰の二本の魔導銃を引き抜き、カチリとハンマーを起こした。


その瞳には、先ほどの純情な動揺は欠片もなく、完全に『空の覇者』としての勝負師の光が宿っている。


「だがな、この男は俺が力で奪い取った『戦利品』だ! 欲しくば俺を倒して奪い返してみな!」


「望むところですわ!」シルヴィアが突剣(レイピア)を構える。


「俺のつがいを還してもらおうか!」ベアトリクスが大剣を振りかぶる。


「待て! みんな落ち着けって! こんなところで戦ったら——」


俺の制止も虚しく、最高潮に達した乙女(?)たちのバトル感情が爆発した。


「「「「「タツヤ(男神様)は渡さないっ!!!!」」」」」


ドドドガガガガァァァァン!!!!!


魔力と剣気が真っ向から激突した。


風の刃が吹き荒れ、爆炎が室内を包み込み、大剣の衝撃波が船体を叩き割る。


ただでさえ激しい体当たりを受けて損傷していた空賊船は、内部からの容赦ない破壊攻撃に耐えきれなくなった。


ミシッ……メキメキメキ……ドカァァァン!!


「あ……」


俺の足元の床に、巨大な亀裂が入る。


「おい、冗談だろ……!?」


「全員、攻撃をやめなさい! 船体が持たないわ!」シャーロットが青ざめた顔で叫ぶ。


だが、時すでに遅し。


高度三千メートルの上空で、空賊船の主骨格が悲鳴を上げ、まるで紙細工のように真っ二つに

へし折れてしまった!


「うわああぁぁぁぁぁっ!??!?」


「「「「「タツヤぁぁぁぁぁっ!!!?」」」」」


暴風が吹き荒れ、崩壊する船体とともに、俺の身体は大空へと放り出された。


重力が消え、激しい風圧が頬を叩く。


下を見れば、はるか遠くに点在する街の明かりと、暗闇の雲海。


(死ぬ! 今度こそ落下死するぅぅぅっ!)


「タツヤァッ! 手を伸ばせ!」

バルバロッサが風の中で叫びながら手を伸ばしてくる。


「タツヤ! 私の風で受け止めますわ!」

シルヴィアが魔法を唱えようとする。


「タツヤぁぁぁぁっ!」

レンが影の縄を投げようと腕を伸ばす。


ヒロインたちが必死に落下しながら俺へと手を伸ばす——が、風圧と落下速度の違いで、うしても距離が届かない。


(あ、ダメだ……届かない……!)


俺の身体が単独で雲海の中へと落ちていく。死の恐怖で全身の血が凍りつく。


その時だった。


『ふふっ……相変わらず、物騒なお嬢さんたちですね』


夜空に、鈴の転がるような澄んだ少女の声が響いた。


(え……?)


フワッ……!


暗闇の雲の中から、月光を浴びて舞い降りてきたのは——真っ白なシルクハットに、長いマントを羽織った一人の少女だった。


彼女は優雅に空中を滑空すると、落下する俺の腰をそっと抱きすくめた。


「な……!?」


包み込まれるような柔らかい感触と、月下香(ツベローズ)の甘く可憐な香りが鼻をくすぐる。


少女は俺を抱いたまま、背中に隠し持っていた巨大な純白のグライダー(魔導凧)を広げた。

バサァァァッ!


風を捉え、落下速度が一瞬で死に至らない滑空

へと変わる。


「捕まえましたよ、世界で一番価値のある『お宝』さん」


シルクハットの陰から覗くのは、天の川のように輝く銀髪と、宝石のように澄んだルビー色の瞳。


少女は悪戯っぽく唇を吊り上げると、俺の耳元で甘く囁いた。


「初めまして、相沢タツヤ様。私は【大怪盗ルナ】。……今宵、私は世界中のあらゆる権力者から、あなたという存在(こころ)を盗みに来ました」


「か、怪盗……!?」


上空からは、空中分解した船の残骸から体制を立て直したヒロインたちの怒号が響いてくる。


「何者だ貴様ぁぁぁっ! タツヤを返せぇぇっ!」


「私の旦那様になんてマネを……! 絶対に許しませんわ!」


しかし、大怪盗ルナは風に乗って優雅に空中を旋回すると、手袋をはめた指先で投げキスを飛ばした。


「ふふ、追っ手のみなさん、ごきげんよう! この『最高級の獲物』は、私がお持ち帰りさせていただきますね!」


「待てぇぇぇぇぇっ!!!」


ヒロインたちの叫び声を遠くに聞きながら、俺と怪盗少女ルナは、月光が照らす夜の街へと向かって滑らかに滑空していった。


女騎士、聖女、くノ一、天才魔導士、生徒会長、女傑、理事長、空賊船長——。


怒涛の追っ手を脱出したと思ったら、今度は予告状なしで参戦してきた「大怪盗」による甘い拉致劇!?


俺の純潔を賭けた世界規模の大逃走劇は、夜空の密会へと突入していくのだった——!


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