【第12話】豪快なる女空賊と、大空の強奪作戦
「全砲門開けーっ! 敵のバリア発生装置を狙え!」
「ワイヤーを緩めるな! 逃がすんじゃねえぞ!」
高度三千メートル。黄金に輝く飛空艇【ゴールデン・ヴェネツィア号】の甲板に、つぎつぎとフック付きロープが打ち込まれていく。
ピンクのハートマークをあしらった旗を掲げ
る、無数の黒い飛空艇群。
そこからロープを伝い、あるいは魔導の翼を広げて、ワイルドな皮鎧を身にまとった女たちが雪崩のように甲板へ飛び移ってきた。
「ふざけるんじゃありませんわよ、野蛮な空賊どもが……!」
理事長エレオノーラが扇子を激しく仰ぎ、青筋を立てる。
「私の総額数百億エル貨の特注飛空艇に土足で上がり込むなんて……全員まとめて我が国の監獄へ叩き込んで差し上げますわ! 【絶対零度(絶対防御)障壁】、出力全開!」
船体を包む青白い障壁が眩しく輝く。
だが、空賊側の大型船から、太い鉄柱のようなものが突き出された。
『ハッハー! ヴェネツィアの防衛バリアなんて計算済みだ! 打てぇっ! 【装甲貫通魔導杭】!!』
ドゴォォォォン!!!!
凄まじい衝撃音とともに障壁に亀裂が入り、ガラスのように粉々に砕け散った。
「なっ……我が国の最高技術が突破され
た……!?」エレオノーラが目を見張る。
「今だぁぁぁっ! 突撃ーっ! 100年ぶりの【男神様】をお持ち帰りするぞーっ!」
「「「「ウオオオオオオッ!!!!」」」」
野太い(しかし全員女性の)歓声とともに、何十人もの女空賊たちが甲板になだれ込んできた。
「タツヤに近づくなぁぁぁっ!」
シュバババッ!
影から跳躍したレンが短剣を閃かせ、突進してきた空賊二人を柄打ちで倒す。
「風の加護よ! 【疾風乱舞】!」
「邪魔だどけぇぇぇっ! 俺の『つがい』に手を出すなーっ!」
シルヴィアの精密な突剣と、ベアトリクスの大剣の薙ぎ払いが空賊たちを吹き飛ばす。
さらにシャーロットが魔法の杖を掲げ、豪快に爆炎を巻き起こした。
「もうワケが分からないわ! なんで空賊まで出てくるのよぉぉぉっ!」
「タツヤ、俺の背中に隠れろ!」
「ダメよ、私の後ろにしなさい!」
「いいえ、生徒会の保護下に……!」
ヒロインたちが俺を庇うように陣形を組むが、相手は空の荒波を生き抜いてきた筋金入りの空中強盗集団だ。数と勢いが尋常ではない。
「ハッハッハ! 元気がいいな学園のひよっこども! だが、本物の『空の流儀』ってやつを教えてやるぜ!」
甲板の混乱を切り裂くように、頭上から一人の女性が舞い降りてきた。
ズシンッ!!
甲板の木目を踏み崩しながら着地したその姿に、誰もが一瞬息を呑んだ。
赤い海賊帽子に、胸元が大胆にはだけた黒革の上着。
引き締まった浅黒い肌に、腰には二本の巨大なフリントロック式魔導銃。
右目には眼帯をしているが、覗く左目は野生味あふれる琥珀色に輝いている。
豊満なバストをこれ見よがしに強調し、豪快な笑みを浮かべる美女——【天空の乙女義賊団】船長、バルバロッサ。
「ようこそ大空へ、可愛い『男神様』。俺がこの空の覇者、バルバロッサ様だ!」
バルバロッサは豪快に胸を張り、俺を指差した。
「実物を見るまでは半信半疑だったが……なるほど、噂通りの上物じゃねえか! 体格といい、醸し出す匂いといい……一目で『本物』だと分からせてくれるぜ!」
「船長! あいつです! 間違いない、歴史書に載ってた『男』です!」
「可愛い! 抱きしめたい!」
「種付けされたいー!」
後ろの女空賊たちが口々に叫び、酒瓶を掲げて盛り上がっている。
「せ、船長さん……? 俺、ただの高校生なんだけど……」
俺が冷汗を流しながら言うと、バルバロッサはガハハと大笑いした。
「ハハハ! 遠慮すんな! うちの船に来れば、毎日うまい酒と肉、それにこの俺自慢の『極上のおもてなし』がついた天国のような暮らしを約束してやる! どうだ? この金持ちババアやガキどもといるより、ずっと面白いぜ?」
バルバロッサは腰の酒瓶を引き抜くと、自分の口で栓をスポンと抜き、ゴクゴクと豪快に煽った。
そして、酒で濡れた艶やかな唇を拭うと、妖しく目を細めて俺にウィンクしてみせた。
「それに……俺の『ベッド』は世界一心地いいって評判だ。……試してみたくはないか?」
「大人の魅力のベクトルが理事長と違った意味でヤバい……っ!?」
「惑わされるなタツヤ!」レンが叫ぶ。
「そうです! あんな露出度の高い女、ただの野蛮人ですわ!」シルヴィアが剣を構える。
「へっ、口の減らないお嬢ちゃんたちだ。野蛮で結構! 空の上じゃあ、力と度胸がある奴が全部総取りなんだよ!」
バルバロッサは腰の魔導銃を引き抜くと、空に向かってぶっ放した。
ズドォォォン!!
「野郎ども、かかれぇっ! 【男神様】を無傷で分捕るぞーっ!」
「「「「おーっ!!!!」」」」
空賊たちが一斉に雪崩れ込んでくる。
エレオノーラ、シルヴィア、ベアトリクス、シャーロット、レンが迎撃に回るが、多勢に無勢。甲板上は完全な大乱闘と化した。
「くっ……キリがないわ!」
「タツヤさん、どこへ……ああっ!?」
混乱の最中、俺のすぐ真横の天井(操縦席の屋根)が弾け飛んだ。
「もらったぜ、男神様!!」
「うわっ!?」
上空からワイヤーで滑空してきたバルバロッサが、隙をついて俺の腰を豪快に抱え上げた!
「しまっ——!?」
お姫様抱っこならぬ、まるで米俵でも担ぐよう
な豪快な担ぎ上げ。
バルバロッサの柔軟で引き締まった身体の熱気と、ほのかに甘い酒の香りがダイレクトに伝わってくる。
「捕まえたぜ! 野郎ども、撤収だぁぁぁっ!」
「離せ! タツヤを返せぇぇぇっ!」
レンが必死に影から飛び出し、短剣を突き出そうとする。
しかし、バルバロッサはニヤリと笑うと、腰の煙幕弾を足元に叩きつけた。
シュボァァァァッ!!
「ゴホッ!? 目が……!」
ピンク色の濃密な煙が甲板全体を覆い尽くす。
「さらばだお嬢ちゃんたち! この可愛い男は、俺たち義賊団が美味しくいただくぜーっ!」
「うわああああああああっ!?」
バルバロッサに担がれたまま、俺の身体が空中へ踊り出た。
ロープの巻取り装置が巻き上がり、俺たちは黄金の飛空艇から、黒い空賊船の甲板へと一気に引き上げられていく。
「タツヤぁぁぁぁぁっ!!」
「タツヤさんっ!!」
「渡すかぁぁぁっ! 追え! 飛空艇を追うのよぉぉぉっ!」
背後で絶叫するヒロインたちの声が、遠ざかる雲の彼方へと消えていく。
気づけば俺は、数百人の女空賊たちが歓声を上げる、黒い飛空艇の甲板の上に転がされていた。
「ガハハハハ! 大勝利だ! 本日の戦利品……【世界唯一の男】の獲得に成功したぞーっ!」
「「「「バンザーイ! バンザーイ! 船長最高ーっ!!」」」」
どんちゃん騒ぎを始める女空賊たち。
その中心で、船長バルバロッサが俺を見下ろし、極上の笑みを浮かべた。
「さて……『可愛らしい戦利品』さんよ。まずは俺の船長室で、ゆっくりと『お話し』しようじゃねえか……♪」
「た、たすけてぇぇぇぇぇっ!??!?」
学園都市の狂乱を脱出したと思ったら、今度は高度三千メートルの空賊船。
俺の純潔を賭けた異世界大逃走劇は、空の無法者たちによる「豪快すぎる愛の捕獲劇」へと突入していくのだった——!




