【第10話】全校捕獲大作戦と、ヒロインたちの三つ巴
「逃げろ逃げろ逃げろぉぉぉっ! 命(と貞操)の危機だぁぁぁっ!」
大講堂の非常口を蹴り開け、俺たちは学園の回廊へ飛び出した。
背後からは「ウオオオオオっ!」「男神様ぁぁぁっ!」「子種をぉぉぉっ!」という、地獄の亡者ども……いや、正気を失った五百人の肉食女子軍団の叫びと地鳴りが迫ってくる。
「タツヤ、私の背中に乗りなさい! 忍法・韋駄天の術で振り切る!」
レンが俺の腕を引こうとするが、
「無理よ! 校舎内は狭くて私の飛行ほうきもスピードが出せないわ!」
シャーロットが杖を振り回しながら叫ぶ。
「ハハハハハッ! 逃がすかぁぁぁっ!」
ドガァァァン!!
非常口の壁ごと破って飛び出してきたのは、武闘科主将のベアトリクスだ。
巨大な大剣を片手でブンブンと振り回し、豪快な笑みを浮かべながら廊下の床を粉砕しつつ追
ってくる。もはや人間重戦車である。
「男よ! お前が俺の『つがい』になれば、武闘科三千人の女子部員が総力を挙げてお前を他の女から守ってやるぞ! 悪い話じゃないだろ!」
「守り方が重すぎるし、最初につがいにする気満々じゃねーか!!」
俺が全力でツッコミを入れながら走っていると、突如、進行方向の角から凛とした悲鳴(?)が聞こえた。
「そこまでです、暴力女!!」
シュババババッ!!
廊下の天井から、無数の光の剣(魔導レイピア)が降り注ぎ、ベアトリクスの足元を遮った。
「ぬぐっ!? 風の魔力剣……生徒会長か!」
角から姿を現したのは、髪を乱し、目を血走らせた生徒会長シルヴィアだった。
制服の胸元ははだけかけ、昨日までの冷静沈着な面影は微塵もない。
「タツヤさんは……タツヤさんは私(生徒会)が『精密検査(保護)』する対象です! あなたのような脳筋女に触れさせてなるものですか!」
「はっ! 澄ました顔をして、お前もあの男のフェロモンに脳を焼かれてるだけだろうがシルヴィア!」
「な……ななな何を言っているのですか! 私はただ、学園の治安維持と……その、個人的な、爆発体験の……っ!」
「理由が支離滅裂なんだよ生徒会長ぉぉぉ
っ!!」
俺の叫びを無視して、激しい火花を散らす二
人。
「タツヤは私の居候(研究対象)よ! どきなさい二人とも! 【爆炎旋風】!」
シャーロットが二人まとめて吹き飛ばそうと魔法を放つ。
「タツヤに手を出す者は、何者であろうと斬る!」
影から飛び出したレンが短剣を構え、ベアトリクスの大剣を受け止める。
「「「「タツヤ(男神様)は私のものだぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」
ドカアァァン! バババババッ! ズドォォォン!
廊下の真ん中で、学園最強クラスのヒロイン四人(ツンデレ天才魔導士、無口ガチ恋くノ一、狂惑の白銀生徒会長、脳筋褐色ポニテ)による、超ハイレベルな**「タツヤ争奪三つ巴(四つ巴)バトル」**が勃発してしまった!
壁が崩れ、天井が抜け、魔法と剣気が吹き荒れる。
(あ、これ……俺がここにいたら巻き込まれて死ぬやつだ)
生存本能が告げていた。
俺は戦う彼女たちの隙を突き、死角となっていた非常階段のドアへと滑り込んだ。
「みんな争いに夢中で俺を見てない! 今だっ!」
俺は息を殺し、階段を駆け下りて学園の地下通路へと逃げ込んだ。
ハァ……ハァ……ハァ……
どれくらい走っただろうか。
地上からの響く爆発音と女子生徒たちの歓声が、遠くかすかになるまで逃げ延びた。
たどり着いたのは、旧校舎のさらに下に位置する、忘れ去られた地下書庫だった。
ホコリっぽい匂いと、古い羊皮紙の香りが漂う静かな空間。
「ふぅ……なんとか……生き延びた……」
俺は本棚の陰にへたり込み、荒い息を整えた。
まさか異世界に来て、一万人の女子生徒から追いかけ回され、ヒロイン同士が俺の「種子」を巡って大怪獣バトルを繰り広げることになるとは……。
(だが……これからどうすればいいんだ?)
学園中に俺が「男」であることがバレてしまった。
もうシャーロットの助手として隠れることも難しい。学園都市全体が俺という「世界唯一の遺伝子」を奪い合う巨大な狩り場と化しているの
だ。
「参ったな……どこか誰もいない無人島にでも逃げるしか——」
「ふふ……無人島など、寂しい場所へ行く必要はありませんわ」
「!?!?」
暗闇の書庫の奥から、滑らかな、そして背筋が凍るほど甘く妖しい声が響いた。
カツン、カツンと高級なハイヒールが革の音を奏でる。
本棚の陰から現れたのは、豪奢な紫のドレスに身を包んだ、グラマラスな美女だった。
豊かな胸元、妖艶な朱色のリップ、そして知性と野望に満ちた紫色の瞳。
胸元に輝くのは——アルカナム学園理事長、および『商業国家ヴェネツィア』全権大使の章。
「初めまして、可憐な【最後の男性】様。私は当学園の理事長・エレオノーラと申します」
エレオノーラは扇子で口元を隠し、ウットリと俺の全身を舐め回すように見つめた。
「あのような野蛮な生徒たちの争い、お疲れでしょう? 私の所有する『豪華飛空艇』へいらっしゃい。世界中のあらゆる富と美女を買い叩ける私の力で……あなたを誰の手も届かない【私だけの王様】にして差し上げますわ♪」
「り、理事長まで参戦してくるのかよぉぉぉっ!?」
生徒、教師、そして学園のトップ(理事長)まで。
世界で唯一の『オトコ』となった俺の貞操を守る大逃走劇は、学園の枠を飛び越え、世界規模の政治と欲望の渦へと巻き込まれていくのだった——!




