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繰り返す朝が終わる日 ~始まりは、恋する令嬢の小さな願いでした~  作者: たま


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8/20

ハロルド様との時間

リリア様が答えを求めないのを言い訳に、結局何も言えないまま月日が過ぎていく。

たまに、やっぱり繰り返しているというのは夢だったのでは、と思ってしまうくらいに、平穏な毎日が愛おしい。

そして何よりも、久々のハロルド様とのお茶の時間。

気のせいだろうか。

以前よりも、彼はよく笑うようになった。


「最近、エルシー、楽しそうだね」


何気なく言われ、少しだけ驚く。


「え、そうでしょうか?」


「うん。前は、どこか必死な感じがしたから」


必死。

確かに、そうだったかもしれない。

限られた時間の中で、間違えないように。

失敗しないように。

だって、もうあんな思いをしたくないから。

だけど。

今は、違う。

ハロルド様との時間は大切にしたいから。

たとえ、また同じ時間を繰り返したとしても。

一分一秒でも長く、そしてその先も…そこでふと、影が落ちそうになる。


だって、その先はいつだって霧のように曖昧で、そしてあの朝に戻ってしまうのだもの。


「そんな深く考えなくていいよ、真面目だな、エルシーは」


ハロルド様は、多分、私がそんなことを考えていたとは思ってないのだろう。

少し心配そうに、でも大丈夫だよ、というように眉根を下げて微笑む。


「…これ、いつも頑張っているエルシーにプレゼント。

気に入ってくれると嬉しいのだけど」


そう言って差し出された小さな小箱。

胸が早鐘を打つ。

この大きさ、このリボンの色。

間違いない。


「わぁ、何かしら」


少し白々しい程に、大きな声になってしまったけれど、喜びのあまり、と見逃してほしい。

外商が持ってきたときに断ったときから、覚悟はしていた。

だから大丈夫だと思っていたけれど、やはりその場面になると緊張した。


「開けても?」


上目づかいでハロルド様を見ると、いつもよりも優しい目をしたハロルド様が頷く。

気が付かれないように息を吐きつつ、ラッピングを外していく。


「…うわぁ…可愛い…」


そのクローバーのブローチは、やはり可愛くて、分かっていたはずなのに指先がわずかに震えた。

もしこれが、何も知らなかった頃の私だったら、どれほど素直に喜べただろう。


「…エルシー、気に入らなかった?」


ハロルド様は、私の指先から目を逸らさなかった。

まるで、拒まれるのを怖れているみたいに。

その視線に、私は思わず息を飲んだ。

いけない……、そう気が付いた私は、大ぶりな仕草で慌てて誤魔化す。


「いいえ、いいえ。

だって私の好きなクローバーなのですもの!

私が好きなものを下さったから思わず驚いてしまったの。

嬉しい、ハロルド様。

今、付けてみても?」


手に持ったブローチを胸元にあてながら、はしゃいだ声で質問する。

瞳が潤んだのは、嬉しかったからか、それとも、逃げ場のない恐怖のせいか。

だけど、ホッとした顔をしたハロルド様を見て、これで正解だったと自分の行動に安堵する。


「いつもくれるハンカチーフにもさ、小さくクローバーが刺してあるから…

エルシー…あの、そのブローチ、僕がつけてもいいかな…?」


「え…」


侍女に着けてもらうつもりでちらりと視線を流したときには、すでに彼女が数歩の距離まで来ていた。

彼女にも聞こえているだろう。

羞恥で顔がほてる。


「嬉しい、ですけど…あの、今回は、彼女にお願いします…」


行き場のなくなった侍女が躊躇していたのを見ていたので、お互い、瞳を合わせて笑いあう。


「ちょっと格好悪いな、僕は」


そう言ってハロルド様が笑う。

ブローチを持つ手は冷えていたけれど、ハロルド様の態度に泣きたくなるくらい嬉しくなる。

怖い、嫌だ、でも嬉しい。

相反する思考は、結局ハロルド様の笑顔の前に淡く溶けていく。


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