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繰り返す朝が終わる日 ~始まりは、恋する令嬢の小さな願いでした~  作者: たま


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5/22

聖女リリア様

その日の授業、私はいつもより一歩早く教室を出た。

廊下の角でぶつかったのは、今代の聖女として認められた令嬢、リリア様だった。

もちろん、ただの令嬢である私と、彼女には共通点はない。

私は、一度も彼女と話したことがなかった。


「……あなた、覚えているのね」


その声に、全身が凍りつく。

顔色を変えて振り向くと、リリア様の瞳は真剣そのもので、からかっている様子は一切ない。

言葉を口にしようとしたが、咄嗟に何と言えばよいか分からなかった。


「え……あ」


絞り出した言葉は、とても言葉とは呼べない。

リリア様は気にもせず、私の瞳をじっと見つめている。


「私、ずっと探していたの。

誰か、同じ記憶を覚えている人がいないか、ね。

ずっと……。

ずっと、探していたのよ?」


その真剣な声音に、背筋がぞくりと震える。

彼女は私が否定の言葉を出すのを許さない。

視線の強さが、そう物語っている。


「な、何をおっしゃっているのか……」


あんなに、同じ記憶を持つ人を探していたはずなのに、恐怖が先に立ち、逃げ出したくなった。

脚が、ゆっくりと後ろへ下がった。


「ねえ、ここではゆっくり話せないわ。

私と少し、お話ししませんか?

明日のお昼でも、どうかしら」


微笑むリリア様には、否と言わせない聖女としての威圧感があった。

この場で断ったとしても、きっと彼女は聖女という立場を使って、私に接触してくるだろう。

その強い意思に、私が抗えるはずもなく。


「……はい……」


そう答えるしかなかった。


「そう、嬉しいわ」


リリア様は晴れやかに笑った。


けれど、その笑顔には、どこか恐ろしさも感じた。


約束の時間、私は一人で中庭に面した小さな食堂に足を運んだ。

ここは貴族用でも、平民用でもない、学園の基本方針である平等をうたった、建前上は公平な、そしてとても半端な場所だ。

だからこそ、人がまばらだ。

皆、自分の属性にあった場所で食事をとる人が多いから。


食堂の入り口に入る前に、すぐに彼女が何処にいるか分かった。

すでにリリア様は席に着いていた。

彼女は、目立つ。

その場にいるだけで、場が華やぐような美しさ。

それでいて、派手さはなく落ち着きがある雰囲気は、彼女の人の良さを表現していると言っていいだろう。

あの、昨日の会話さえなければ、聖女のリリア様イメージそのままでいただろう。


誰かが、彼女に話しかける。

私のいる位置からでも、彼女が笑顔で受け応えし、やがて首を振るのが見えた。

一緒に食事をとらないか、と誘われているのかもしれない。

話しかけた人は残念そうにしながら、違う席へと移っていく。

彼女の周りには、誰も座っていない。

何席か離れた場所で食べたところで問題はないはずだ。

けれど、これだけ人がまばらだと、逆に近くに座るほうがおかしいのかもしれない。


白いクロスの上に、まだ運ばれていない昼食。

カップから湯気だけがたっているのが見える。

入り口に顔をだしただけで、私に気づきリリア様はぱっと顔を上げた。


「来てくれたのね」


その声は、昨日廊下で聞いたものとは違っていた。

威圧も、緊張もない。

昨日の彼女が嘘のように、ただ、普通の少女のような言葉。


「……失礼します」


促されるまま、向かいの席に腰を下ろす。


「ごめんなさい、勝手にお昼は注文したのだけど、好き嫌いはなくて?

飲み物はブラックティだけど、ミルクやお砂糖は必要かしら?」


視線を合わせるのが怖くて、私は首を振り、カップに手を伸ばした。


しばらく、沈黙が流れた。

他のテーブルから誰かが話している、かすかな声だけが聞こえる。

リリア様は、私の様子を伺っているのだろう。

私も、何をどういえばよいのか、どう答えていいのかすら分からずに、言葉を出せないでいる。


「ねえ、エルシー様」


呼ばれて、思わず肩が跳ねた。

まだ、私は名乗っていない、なのに彼女は私の名前を既に知っている。

調べたのだ、当たり前の事だ。

私だって警戒しているのだ、勿論彼女だって、きっと。

だから、彼女だけ、責められない、だけど。


「あなたは、何度目?」


心臓が、嫌な音を立てた。

まさか、こんな真っ正直に来るとは思わなかった。


「……何の、ことでしょう」


我ながら、拙い返答だと思った。

けれど、リリア様は責めるような顔をしなかった。


「そう……、そう、よね。

うん、いいの。

今はそれで」


そう言って、彼女は小さく頷いた。

こんな状況だというのに、彼女は花が咲くように笑った。

聖女様、という名にふさわしい笑み。

なのに、その笑みはとても自然で、年相応の少女のようにも見えた。


「私はね、覚えているわ、全部。

何度も、同じ朝を迎えたことも、繰り返してることも」


カップを持つ手が、わずかに震える。

知らないふりをするべきだ、と直感が言う。

だけど、リリア様は、彼女はきっとそれを許さないだろうという事も、同時に分かってしまう。


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