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繰り返す朝が終わる日 ~始まりは、恋する令嬢の小さな願いでした~  作者: たま


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22/22

繰り返す朝が終わる日

そして、また、あの朝が来た。

あれだけ繰り返したくなかった、あの朝。

自分のベッドから見て、左手に春の絵が飾ってある。


あの日の朝がきた。

それが、あの笑顔の答えだと思った。


代り映えのしない毎日が始まる。

いつもと同じように学園に行きミズ・イネスの講義を受ける。

ただ、一つだけ違うのは。

この年代には、聖女がいない事、だ。

学園に、リリア様がいない。

その事実に、少し寂しさを感じてしまう。

いつの間にか、私の生活にリリア様がいた。

学園の廊下で、図書室で。

ふと、視線を上げて探してしまう。

そんな自分に苦笑してしまう。

いないのは、分かってる。

でも、気付いたらいそうな感じがして。


彼女がどうやって聖女ではなくなったのか、私は知らない。

彼女が今どこで何をしているかすら、分からない。


だけど。

私はひそかに期待していた。

そう、外商がもってくるクローバーのブローチを。

その時期になれば、外商がまず我が家に持ってくる。

そして、我が家が購入を見送ったら、ハロルド様が購入して私にプレゼントしてくれる、という流れだった。

時間を繰り返しているときは、絶望にしか感じなかったあのブローチを心待ちにする日が来るなんて。

私は一人で笑ってしまう。

あぁ、でも違う、か。

我が家が購入しなくても、ハロルド様が私の好みを覚えていてくれて購入してくれた。

それがとても嬉しかった。

だから、絶望だけでは、なかった。

ハロルド様との時間は、いつだって幸せだったのだから。


そろそろ、その時期になる。

そわそわして、落ち着きをなくしてしまいそうになる。

だけど、今日はハロルド様とのお茶を飲む日。

だから、一旦落ち着こう。


「お嬢様、オースティン卿がいらっしゃいました。

水仙の間にお通ししております」


侍女からハロルド様の到着を知らされる。

軽く身なりを確認して、部屋に向かうとハロルド様が笑顔で迎えて下さった。


「やぁ、エルシー嬢、ご機嫌はいかがかな?」


「いらっしゃいませ、ハロルド様、ありがとうございます。

私のほうは変わりなく。

ハロルド様のご機嫌はいかがですか?」


お決まりの挨拶を交わしてから、お互いの目が合う。

同時に微笑んだ。

あぁ、私は幸せだ。

素直にそう思えた。

大切な人が側にいて、笑ってくれる。

それだけで心が温かくなる。


「今日は、エルシーにプレゼントがあるんだ。

聞いたよ、学園で勉強を頑張っているって」


そう言って、ハロルド様が差し出した小箱。

その小箱をみて、ドキリとした。


「ありがとうございます。

あの、これ、開けても?」


ハロルド様は当然、とばかりに頷く。

だって、この小箱の大きさ。

もしかして。

ううん、でも。

逸る気持ちが押さえられない。


綺麗にラッピングされたリボンをほどくのも、もどかしい。

箱を開けると、そこに鎮座するクローバーのブローチ。


あの朝から、ずっと待っていた。

震える手で、ブローチを手に取る。


「どうかな?

エルシーがクローバーのモチーフが好きだから、注文してみたんだ」


そう言われて顔を上げると、照れくさそうに笑うハロルド様。


あぁ、やっぱり。

私は、私でちゃんと幸せになれてる。


ゆっくりと、ブローチの曲線をなぞる。

柔らかい曲線は、陽の光を纏い淡く輝く。

恐る恐るブローチの裏を見る。


「ダンガル工房の、若手職人が作ったらしいんだ。

初めての作品だって聞いた時は少し不安に思ったけど、本当に素晴らしい出来だよね」


ハロルド様の言葉が耳を通り抜ける。

だって。

LとCを組み合わせたデザインの刻印。

私は一瞬息が詰まった。

以前まではCだけだった刻印。

そこにはもうひとつ、Lが入っている。


あぁ。

きっと、これは。


ううん、今は素直にハロルド様がくれた事を喜ぼう。

私はブローチを胸元で握りしめた。


「ありがとうございます、ハロルド様。

凄く素敵で……

とても嬉しいです」


「良かった、気に入ってくれて」


嬉しそうに笑うハロルド様に、満面の笑みを返す。


「僕より、ブローチに夢中みたいで、ちょっと妬いちゃうよ」


そんな冗談を言うハロルド様が可愛らしくて。


「これ、今、つけてみても?」


「勿論」


侍女に着けてもらって改めて、ハロルド様と向き合う。

胸元で光るブローチは、これからを照らすように輝いている。

ブローチを見ているハロルド様の優しい笑みを見て、一番最初にお願いをした時の私を思い出した。

あぁ、そうね。

自然に口角が上がる。


「……あの、ハロルド様、ブローチを頂いたばかりなのに厚かましいのですが、一つだけお願いがあるのです」


ハロルド様が視線で会話を促す。


「最後の試験で、秀が取れたら、ご褒美に頬にキスしてもらっても良いですか……?」


言いながら、私の頬は羞恥で染まる。

正面のハロルド様の顔が見えないけど、動揺しているのが分かる。


「え、エルシー?

え?ちょっと、結婚式まではっ」


ハロルド様の焦る声が、嬉しくて。


「そうしたら、もっと頑張れると思うのです、ね?ハロルド様」


はにかみながら、上目遣いでお願いしてみたら、仕方ないな、というような表情で頷くハロルド様。

でも、その顔は本気で嫌がっているようには見えない。

頑張っているのは知っていても、まさか私が本当に秀を取れるとは思っていないのだろう。

ごめんね、ハロルド様。


「嬉しい!

私、頑張りますね!」



夜になる。

窓から差し込む月の光が、部屋に淡い影を落とす。

そっと、ブローチを握りしめた。

ゆっくりと手を開き、指先で刻印をなぞる。

胸に広がるのは、安堵の気持ち。

良かった。

私だけが知っている。

ううん。

彼女も知っている。

彼女が聖女だったあの日々のことを。

彼女が幸せなら、それでいい。

調べようと思えば、調べられる。

だけど。

友達、だからね。


目を閉じて思うのは、リリア様が幸せでありますように。

祈りにも、願いにも似た思い。


そして、私も。

ハロルド様と、しあわせになりますからね、リリア様。


言葉に出さない願いを胸に、ゆっくりと眠りに落ちる。



もう、あの朝は繰り返さない。


終わり


お読みくださり、ありがとうございました。

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