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繰り返す朝が終わる日 ~始まりは、恋する令嬢の小さな願いでした~  作者: たま


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友達だから

「……リリア様は、正しいよ。

多分、貴族としては、はい、ありがとうございます、それで終わらせれば良いかもしれない。

だけどね、私には無理だわ。

そんなの後味が悪すぎる。

ここまで巻き込まれたのだから、私も納得して終わらせてほしいの」


「は、さすがお貴族様は傲慢ですね?

与えられたものでは、満足できませんでしたか?

……ねぇ、じゃ、一体どうすればいいのよ?」


問いかけられた形だが、リリア様が答えを求めていないのは明白だった。


リリア様がぐいと乱暴に涙を拭いた。


「エルシー様。

私、貴方が嫌いだわ」


真直ぐに、射抜くように、リリア様は私を見る。


「お気楽で、何も不自由していなくて。

覚えていた理由が、婚約者がキスしてくれるところだったから、ですって。

何、それ?

ふざけているの?

バカバカしい」


吐き捨てるようにリリア様が言う。

私は何も言えなかった。

だって本当に、馬鹿らしい理由で私は覚えていた。

でもね、リリア様。

それでも私はハロルド様と幸せになりたいから。

一生懸命、私なりに頑張っていたの。

だから、そんな簡単に、幸せになる事を手放していいはずがない。

私は立ち上がってリリア様の手を取った。リリア様がびくりと肩を震わせる。

ただ、拒絶はされなかった。

もし、それが、リリア様の答えなら。


「……だったら。

なんで未来をプレゼントなんて言うのよ?

私の事が嫌いなら、私の未来なんてどうでもいいじゃない」


その言葉にリリア様は私から目を逸らし、強引に手を引き抜いた。


あぁ、どうして。


また涙が溢れそうになる。

泣いちゃ、駄目だ。


自分の無力さを噛み締める。

やるせなさが、胸に込み上げてくる。

自分でも、どうして良いのか分からない。

このままなんて、絶対にイヤ!


「そんな事より、自分の事、リリア様の未来を掴みなさいよっ」


パン、と乾いた音が室内に響く。

側に控えていた侍女たちの間に緊張が走った。

そう、気が付いたら、私はリリア様の頬を引っぱたいていたのだ。


叩かれたリリア様は呆然とした顔で、左頬を手で押さえる。

叩いた私も、自分の行動に驚いて呆然とリリア様の顔を見ていた。

初めて人を叩いた、右手が痛い。

我慢していた涙が、溢れ出した。


「……叩いたわね?」


静かにリリア様が問う。


「叩いたわよ。

だって、腹が立つのだもの。

自分の幸せを諦めて、私に幸せをプレゼント?

そんなの私が喜ぶとでも思ったの?

私はね、大丈夫。

絶対ハロルド様と幸せになるから。

だからね、リリア様だけが諦める事なんてないの」


リリア様は、身じろぎもせず私を見ている。


「ねぇ、なんで?

どうして……?

どうしてそこまで私に構うの?」


心底不思議そうな顔で、リリア様が問う。


「だって、私達、友達でしょ?」


友達。

気が付いたら、そう言っていた。


「ふぅん、そっか。

そう、か。

……私、友達に叩かれたのか」


そう言ってリリア様は小さく笑った。

その笑顔を見て、もう大丈夫だ、そう思った瞬間、一気に肩の力が抜けた。


しばらくしてリリア様が大きく息を吐いた。

そして、自分の頬をさすりながら、今度は私の右手へと視線を移した。


「……痛いわね」


「……私も、手が痛いの」


「そうでしょうね」


そう言って二人で、目を合わせて笑った。


その後は取り留めもない話をして、リリア様は帰っていった。

帰る前に、私達は何も言わずに抱き合った。

きっと、それが私達の「さよなら」だった。

抱擁を解きながら、リリア様は笑った。

どこか吹っ切れたような、爽やかな笑顔で。


「ありがとう、エルシー様。

私、貴女の事嫌いって言ったけど。

訂正するわ。

私、貴女の突拍子もないところ、嫌いじゃないわ。

貴族として、どうなのかと思うけれどね」


リリア様らしい憎まれ口を、いつものように残して。

まるで明日もまた会えるような感じで。

そんな錯覚をしてしまいそうになる。

だけど、リリア様も覚悟を決めているのだ。


ギュッと拳を握る。

悲しいわけじゃない。

私達は、友達で、そして同士だから。


「それでは、エルシー様。

歓談の時間をありがとうございました」


そう言って丁寧に礼をして、リリア様はあっさりと背を向けて帰っていった。

それが、余りにもリリア様らしくて、つい苦笑してしまう。

でもきっと、私達らしい別れなのだろう。


私達は多くを語らなかった。

だけど。

お互いが過ごした時間を認め合えた。

本当は、もっと楽しい会話だってできたのかもしれない。

ハロルド様のお話を聞いてもらったり、とか。

あぁ、そうね。

私はリリア様と、そんな普通で当たり前の会話をしてみたかったんだな。

誇らしげに木彫りのクローバーを胸元から取り出した、あの時のリリア様の顔を思い出しながら、そう思った。


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