聖女の力
「……ねぇ、リリア様。
聖女伝説の王妃様って、もしかして……」
声が震える。
それでも、確かめずにはいられなかった。
リリア様は黙って肩を竦める。
それは肯定の仕草とも否定の仕草ともいえる。
「さぁね」
しばらく沈黙したのち、リリア様はため息を吐くようにして言った。
相変わらず、平坦な声で話す。
「ただ、そうだろうな、とは思うけどね」
リリア様の感情が排除された声音は、それだけに信憑性を増す。
あぁ、なら。
私も、腹を括ろう。
リリア様が望む未来を掴むまで。
何度でも、繰り返してやる。
そこで、ふ、と疑問が湧き出た。
「あの、ね、聖女って……
リリア様って……
どうやって選ばれたの……?」
リリア様は、きょとんとした目をして私を見た。
何を言っているの、この子?と言わんばかりに。
「知らないの?
エルシー様?」
存分に呆れを含んだ声が、耳に痛い。
「知っているわ、教会の鐘が鳴るんでしょ?
習うもの、一応一通りは分かるの。
でもそれって伝説の話でしょ?
本当は毎回違うと聞いているし、それに」
私はリリア様を真直ぐに見た。
「聖女にならない方法があるならって、思っちゃったのよ」
「はぁぁ?」
リリア様の盛大な呆れを含んだ声。
自分でも変な事を言った、と思う。
だけど、もし。
もし、その方法があるのであれば。
チャールズ様もリリア様も笑って過ごせる未来があるのじゃないかって。
「……貴女ねぇ……」
リリア様は盛大にため息を吐いた。
そしてゆっくりと頭を振った。
「あのね、一応、私、これでも聖女なの。
知っている?
教会の鐘が綺麗になるの。
とても澄んだ音色でね、こんな私でもこの国を救おうって思えるほど敬虔な気持ちになるのよ。
分かっているわよ、チャールズの為に何度も何度も巻き戻っているのも。
国の為じゃなく、自分の為に時間を使っているのも。
それでも、救いたかったの。
仕方ないじゃない。
だけどね。
国が駄目になったら、どうなるの?
それこそチャールズだけの問題なんかでは、すまないの。
エルシー様、貴女だって未来を進みたいんでしょ?」
リリア様は、まるで子供に諭すような話し方をする。
頭では、分かっている。
分かっている。
分かっている、けれど。
でも、それでも。
「それでも、リリア様、貴女の幸せはどこにあるの?
だって、愛する人の為に、時間を巻き戻すんでしょう?
愛していない王子の為に、時間、巻き戻せるの!?」
リリア様は、目を見開いて私を見た。
「そんなの分からないじゃない!
知らないわよ、そんなの。
私が分かるわけ、ないでしょ!?」
リリア様がいきなり立ち上がった。
「ねぇ?分かる?
私がどんなに苦しんだのか?
どんなに辛かったのか?」
リリア様の声がかすれる。
「私が知りたいわよ!
どうすればよかったのかなんて、私が一番知りたいわよ。
私は、ただチャーリィと笑って過ごしたかった。
チャーリィと一緒に、ずっと一緒にいたかった。
ただそれだけだったの」
リリア様は、泣いていた。
流れる涙をそのままに。
ただ、泣いていた。
私は、ハンカチを差し出すことも出来ず、ただただ、リリア様を見るしかなかった。
涙を流しながら、リリア様は私を睨みつけるように見る。
「……ねぇ?エルシー様。
貴女の望んだ未来をあげたのよ?
一体、何が不満なのよ?
勝手に幸せにでもなりなさいよ。
私の事なんて気にしないで」
私は、押し黙るしかなかった。
リリア様が言うのは、正論で。
そう、正しい。
正しい、のだ。
だからこそ。
救いが、ないじゃない。
手元のハンカチを握りなおした。




