既視感
「おはようございます」
挨拶の声が耳に入る。
いつも通りの朝が、始まる。
本当に、夢だったのね。
あぁ、もう嫌だわ、寝ぼけていたのね。
私ったら、はしたない。
そして心機一転、ゆっくりと起き上がった。
そこから先は、何かがおかしかった。
もどかしいのに、何がもどかしいのか分からない。
頭をひねっても、私の頭では考えつかないのだけど、何か同じようなことが何度もあったりして。
例えば、外商が持ってきた可愛らしい四つ葉のクローバーの形をした、小さなブローチ。
「お嬢様が以前、四葉のクローバーのモチーフのカップをお気に召していたので」
そして差し出された商品は、確かに私の目を引いた。
葉には淡い緑色の宝石が一粒ずつはめ込まれていて、真ん中に控えめな透明石がきらりと光る。
派手さはない。
けれど、私好みで、高価すぎず、普段使いしやすいデザイン。
お父様が、苦笑しながら「勉強を頑張っているご褒美だな」、と買ってくださったもの。
ハロルド様に、ブローチのモチーフの話をしていた時に、気が付いた。
誰かに話したことが、ある気がする。
初めて手に入れたはず、なのに。
誰にも話していない。
だって、昨日、お父様から買ってもらったばかりなのに。
「既視感、というやつじゃないか?」
相談したらハロルド様がそう笑って言ったので、そういうことなのでしょう、きっと。
そして、冒頭に戻る。
目が覚めた時、これはおかしいと直感した。
あと少しで、ハロルド様の唇が私の頬に触れるはずだったのだ。間違いない。
絶対に。
だって秀を取るために、勉強だって頑張った。
なのに、秋だった私の部屋の絵は、春の絵になっている。
私が、おかしくなったのか?
それとも全員が私をからかっているのか。
違う。
おかしい。
あの口づけの瞬間に、過去に戻ってしまっている。
なぜ?
こんなことおかしい。
だけど、こんなことを口に出したら、それこそ私の頭がおかしくなったと言われてしまいそうだ。
それに。
過去に戻っている、と確信はしたけれど、私の頭はそうそう賢い作りではなく。
やはり頭の中で問い詰めて考えてしまうと、自信がないのだ。
すべてを覚えているわけでは、ないのだから。
やはり薄ぼんやりとした、「何となく体験したことがある」。
そんな程度の記憶では、過去に戻ったと言われたところで誰が信じるというのだ。
冷静に自分自身に問いかける。
どうして時間が巻き戻ったと思うのか、を。
考えようとして、怖くなった。
なかったことにする?確かに過ごした時間を?
いや、違う。
私が、勝手にそう思い込んでいるのかもしれない?
そう、きっとそう。
気のせい。
勘が鋭いだけ。
何度も訪れる既視感を、私は無視した。
だって、そうしないと。
怖い。
恐怖に飲み込まれそうになるから。




